【追記4:2013年8月に追記。8月9日に緊急地震速報の誤報】 8日午後に起きた「震源地は奈良県でマグニチュード(M)は最大7・8と予想」との緊急地震速報はまったくの空振りでした。実際には震度1以上の場所はありませんでしたが、この緊急地震速報は関西地方だけではなく、関東にまで流れました。
東京スポーツ紙の専門委員・渡辺学記者の記事はこちらへ
【追記3:2011年3月12日に追記。3月31日にさらに追記】 前日に東日本を襲った巨大地震(東日本大震災。東北地方太平洋沖地震)で
気象庁が「地震予知ができないかわりに」推進している緊急地震速報は、またも役に立たなかった。上に書いたように、地震がおきてから、震源にいちばん近い地震計のデータを元にして速報する仕組みだから、今回のような沖合の地震では、「震源にいちばん近い地震計」は海岸にしかないから、間に合わないことが多い。
また、翌3月12日早朝に起きて震度6強を記録した長野・新潟県境の地震のように内陸直下型だと、そもそも間に合わない。
● その後、気象庁のホームページで、「今回の東北地方太平洋沖地震で緊急地震速報が間に合った」と誇らしげにPRしている頁がある、と教えてくれた知人がいる。その頁は。
しかし、一般市民を騙すのもほどほどにしてほしい。この図は「緊急地震速報第1報提供から主要動到達までの時間」と「緊急地震速報(警報)を発表した地域及び主要動到達までの時間」で、「主要動」とは、震源からP波(Primary Wave)と同時に出るが速度が遅くて遅れてくるS波(Secondary Wave)のことだ。つまり、(どちらの図でも)緊急地震速報が出たときには、P波がとっくに到着していて、その場所は大きく揺れている最中だったはずである。
このくらい大きな地震だとP波は十分に大きく、P波より遅れて通報される緊急地震速報などなくても、人々は大きな地震が起きた、と分かっていたはずである。そして、これが「ガタガタ」だから、いずれ「ユサユサ」が来ると言うことも常識に近い。つまり莫大な費用と人員を使って、「地震予知が出来ない代わりの緊急地震速報」をやっている意味は、この東北地方太平洋沖地震でも、やはりなかった、というべきであろう。 常識的な日本語では、最初に来るP波に間に合わなければ、「間に合わなかった」というべきであろう。
なお、地震学的には、S波よりもP波のほうが振幅が大きいこともある。それゆえ「主要動」というのは学問的な言葉ではない。
【追記4】 島村英紀の関連メモ「地震の名前」
【追記5:毎日新聞ウェブ 2011年3月12日 12時23分(最終更新 3月12日 12時50分)から】
気象庁は東北沖大地震発生後、12日午前9時までに12回の緊急地震速報を発表したが、規模や発生地域を誤るケースが相次いでいる。同地震や信越地方の地震発生後、それぞれの余震がほぼ同時刻に発生したことや、東北沖大地震で多くの地震計が故障したことで、震源を正確に把握できないためという。気象庁の横山博文・地震津波監視課長は「緊急地震速報を適切に発表できない恐れもあるが、念のため避難行動を取ってほしい」と呼びかけている。
【追記6:朝日新聞ウェブ 2011年3月21日 21時25分から】:1/3しか当たらなくなっているそうです。
震度5弱以上の地震が来る前に発表する気象庁の緊急地震速報が、東日本大震災後に多発する余震で、精度が落ちている。信頼が損なわれているが、それでも3回に1回ほどは的中しており、専門家らは「大きな余震が続く可能性が高い。誤報と思わず身構えてほしい」と呼びかけている。
緊急地震速報は、震源近くの地震計で最初の揺れをとらえ、瞬時に地震の規模や震度を計算、最大震度5弱以上と予測すると速報する。2007年から運用を始め、震災前までは17回のうち10回で確率は58%だった。
ところが、11日の東日本震災後から20日までに速報は36回出たが、実際に震度5弱以上の揺れがあったのは11回で、的中の確率は約30%となっている。システムが同時に複数の地震を想定していないことが原因で、地震の規模や発生場所を誤って計算して速報が出ることがあるという。すぐに改良する予定は無く、地震後の余震がおさまるまで誤報は続く見込みだ。
速報作りに携わった名古屋大の福和伸夫教授(地震工学)は「テレビでBGMのように連日流れて、オオカミ少年のようになってしまっている」と指摘。当初から巨大地震では限界があることが分かっていたといい、「火の注意、背の高い家具から離れるなど数秒で揺れに備えることができる。システムの限界を理解して、うまく利用してほしい」と話す。
気象庁は「自分の住んでいる地域が速報の対象外でも、地震が来ることもあり得る。誤報と思わず身を守ってほしい」と呼びかけている。(川原千夏子)
【追記7:読売新聞ウェブ 2011年4月8日 12時05分から】:気象庁は緊急地震速報のことを言わなくなってしまいました。
「宮城で震度6強、2人死亡・305万戸停電」
7日午後11時32分頃、宮城県沖を震源とする地震があり、仙台市宮城野区、同県栗原市で震度6強、岩手県大船渡市、釜石市などで震度6弱を観測した。
気象庁によると、地震の規模を示すマグニチュードは7・4、震源の深さは約40キロと推定される。東日本大震災の余震で震度6強を観測したのは初めて。総務省消防庁などによると、8日午前11時現在、死者2人、重軽傷者132人が確認されている。東北電力東通(ひがしどおり)原子力発電所など東北の原発では、非常用発電機が起動するなど影響が出た。
(中略)
8日未明に記者会見した気象庁の長谷川洋平・管理課地震情報企画官は、「今後も震度6強の余震が起きる可能性があり、強い揺れを感じたら避難して欲しい」と語った。
気象庁の「緊急地震速報」について、島村英紀の見解
島村英紀『「地震予知」はウソだらけ』(講談社文庫)から。
その第5章第6節。274-288頁(本は2008年11月14日発行)
1:緊急地震速報の登場
気象庁では、2007年10月から「緊急地震速報」の提供をはじめた。
これは地震予知ではない。大地震が起きてから計算し、これから地震の揺れが伝わっていく地域に、あと何秒でどのくらいの震度の揺れが行きますよ、と知らせるしくみである。
原理は簡単なもので、全国に置いてある地震計で強い揺れを感じたら震源を計算し、震源から遠い場所に警報を送る、というものだ。電線を情報が伝わる速さは秒速30万キロメートル、いっぽう地震の揺れが伝わっていく速さは秒速3〜8キロメートルだから、その時間差を利用して知らせようというものだ。
これは、遠くで雷が光ってから、しばらくして音が聞こえてくるのと同じ原理だ。音が空気中を伝わる速さは毎秒300メートルあまりだが、地震の揺れはもっとずっと早くくるので、雷ほどは時間的な余裕がない。
緊急地震速報は「日本のどこかで震度5弱以上の揺れがありそうなときに」「震度4以上になりそうな地域に対して」、気象庁が出すことになっている。
しかし、この緊急地震速報には、多くの問題がある。
最大の問題は、電気が電線を伝わるより遅いとはいっても、秒速3〜8キロメートルという速さで揺れが伝わってくるから、警報を聞いてから地震がくるまでに、ほとんど時間がないことだ。
たとえば恐れられている東海地震が起きたときに、横浜では10秒ほど、東京でも十数秒しかない。しかも、遠くなるほど地震の揺れは小さくなるから、たとえば20秒以上になるところで知らせてくれても、ほとんど意味がなくなってしまっているのだ。
まして東京や神奈川で起きる直下型の地震だったら、この緊急地震速報は間に合わない。
気象庁では「この緊急地震速報を利用して列車やエレベーターをすばやく制御させて危険を回避したり、工場、オフィス、家庭などで避難行動をとることによって被害を軽減させたりすることが期待されます」と言っている。
しかし、フルスピードで走っている新幹線はこの時間では到底止まれないし、工場でも大きな機械をこんなに短時間で止めることは不可能だ。手術中の病院でも、これだけの時間では手術を止めることはできないだろう。
では一般人は、家にいたときにこの短時間でなにができるだろう。
あわてて二階から一階に下りても、阪神淡路大震災のときに多く見られたように、一階だけがつぶれることもある。また、あわてて家の外に出ても、ゆっくり十分にまわりを確認する余裕がなければ、落ちてくる瓦やガラスや看板などの落下物が危険である。
カーラジオで知ったドライバーが急ブレーキをかけたら、ラジオを聴いていなかった後ろの車が追突してくるかもしれない。
緊急地震速報は実施前にいくつかの地域で実験的に導入された。その地域での映像をテレビで見たが、警報を聞いて、庭で遊んでいる子供を家に呼びこんで抱きしめたお母さんと子供は、本番では、家がつぶれれば、むしろ危険にさらされるかもしれないのだ。
そもそも普通の日常生活から、わずか数秒とか十数秒という短い予告だけで非日常な行動に素早く、しかも適切に移れ、というのは、かなり無理なことなのである。
緊急地震速報は震度4が予想されると発令される。しかし震度4では、まず、家は倒壊しないし、よほど弱い道路でない限りは、壊れることはない。むしろ、過剰な反応で事故を起こしてしまいかねないのだ。
また、とてもまぎらわしいのだが、緊急地震速報には二種類あり、テレビやラジオで放送される「一般向け」は、どのくらいの震度で揺れるかという予想は出ない。震度4なのか6なのかは、知らされないのだ。
『毎日新聞』に、こんな川柳が出ていた。
念仏の時間だけある地震予知 京都 河原落書(2007年12月14日万能川柳)
大地震10秒前にわかっても 千葉 フミフミ(2008年7月15日万能川柳)
2:緊急地震速報を知るためには、テレビをつけっぱなしにしないと
「一般向け」の緊急地震速報はテレビやラジオで放送される。しかしテレビやラジオをつけていない人は聞くことができない。1985年の開始以来、あまり普及していなくて一部だけで使われている緊急警報放送のように、スイッチが入っていない ラジオにスイッチを入れる働きはないのである。
一部の自治体では、防災行政無線による緊急地震速報の放送が行われている。これは消防庁による全国瞬時警報システムというものを使った防災行政無線による放送だ。しかしこれも、まだ一部の自治体にかぎられている。
気象庁のホームページによれば、「施設の館内放送等」というものがあり、「緊急地震速報の館内放送に対応する施設では、館内で情報を知ることも可能になります」とある。しかし、どんな施設で放送されるのか、まだ、知られてはいない。
なお、このホームページによれば「(参考)気象庁本庁庁舎では、庁舎内で緊急地震速報を放送します」ということなので 、万が一皆さんが気象庁の本庁に行っていて、たまたま大地震が起きた時間に遭遇したときだけは、そこでは聞けるということなのだろう。
つまり、いまのところは、たまたまテレビやラジオを聴いていた人たちだけのための緊急地震速報なのだ。
3.気象庁のお役人の天下り先を開拓
緊急地震速報には二種類ある。ひとつはいままで説明してきたもので、気象庁のお役所用語ではこれを「一般向け緊急地震速報」といっている。
そのほかに「高度利用者向け緊急地震速報」というものがあり、これは特別の機器を備えた人だけに情報を提供するものだ。機器も情報料も有料である。これは「一般向け」よりも前、2006年夏からテスト的に運用されていた。
この情報を受けとるためには、緊急地震速報を受信する専用端末や、表示ソフトをインストールしたパソコンが必要だ。専用端末にはいろいろあるが、数万円から数十万円以上する高価なものだ。
気象庁のホームページによれば「緊急地震速報を提供する事業を行っている事業者があります。必要な設置機器等については事業者へお問い合わせください」とあり、「緊急地震速報利用者協議会・緊急地震速報関連事業者の紹介」には四〇社を優に超える会社名が並んでいる。これらの業者から、機器やソフトを買い、情報提供料を払い続けなければならないのだ。
ちなみに、いくつもある、この緊急地震速報の「事業者」には気象庁のOBが多数行っている。気象庁は緊急地震速報で、新しい大きな天下り先を開拓したのだ。たとえば気象庁の前の長官の一人は、この種の会社の取締役会長におさまっている。
この情報は「一般向け緊急地震速報」とはちがって、受信地点の震度の予想や、あと何秒で揺れるかという予想時刻なども知らせることになっている。
テレビやラジオで放送される「一般向け」は「強い揺れ」というだけで、予想震度が4とか5とかは言わず、また、「あとx秒で揺れがきます」とも言わない。
しかし有料のこちらは、地震の発生 時刻、地震の発生場所(震源)の推定値、地震の規模(マグニチュード)の推定値を知らせてくれることになっている。
そのほか、「推定される最大震度が震度3以下のとき」は、推定される揺れの大きさの最大(推定最大震度)を、また「推定される最大震度が震度4以上のとき」は、地域名に加えて震度5弱以上と推定される地域の揺れの大きさ(震度)の推定値(予測震度)とその地域への大きな揺れ(主要動)の到達時刻の推定値(主要動到達予測時刻)も知らせる。
たとえば「一般向け」が震度4以上になるときだけしか知らせないのとちがって、震度3以下でも知らせてくれるなど「高度利用者向け緊急地震速報」のほうが、有料で商売をしようというだけに。ずっと親切な情報提供なのだ。
しかしいずれにせよ、地震が起きたのを検知してから計算して情報を送ってくるので、「念仏の時間」であることは同じなのである。
4.緊急地震速報のミス
書いてきたように「一般向け緊急地震速報」では、どのくらいの震度の揺れが、あと何秒でくるのか、は知らせてもらえない。ちょっとびっくりするくらいの揺れですむのか、建物が倒壊するような大揺れがくるのかは、知らされないのだ。
このしくみは2007年秋からはじまったのだが、早くもいろいろな問題点が露呈している。
まず、一般向け緊急地震速報の開始後の最初の機会だった2008年1月に石川県で起きた震度5弱の地震では、このシステムは予想震度が5にはならないと見積もってしまい、緊急地震速報は発表されないまま、地震が襲った。
2回目は2008年4月28日。沖縄県・宮古島で震度4の地震があったときに緊急地震速報を出したのだが、このときは緊急地震速報が間に合わず、揺れた何秒もあとで速報が出ることになってしまった。そのうえ震度の予測もちがっていて、実際には最大震度4だったのを5弱程度と予想してしまった。
つぎに2008年5月に起きた茨城県沖の地震では、緊急地震速報が間に合わなかった。
これは、海底で起きた地震だったために、震源から一番近い地震計である沿岸の地震計に揺れが到達して計算をはじめたときには、すでに広範囲に揺れが襲っていたのだった。
日本でマグニチュード8を超える大地震はすべて海底で起きているから、海底に地震が起きたときのこの弱点は困る。
また、2008年6月に起きた岩手・宮城内陸地震(マグニチュード7.2)は、今度は直下型だったので、震源近くの揺れが大きかった肝心なところでは緊急地震速報が間に合わなかった。これからも、直下型地震では、いちばん揺れが大きくて危険な地域には緊急地震速報は間に合わない。これは、このシステムの本質的な問題なのである。
また、ほんとうの大地震が起きて、電話線が切れたり、停電が起きるようなときにも、緊急地震速報は使えないにちがいない。
2008年7月の『読売新聞』によれば「気象庁が発信する防災情報に対する信頼が大きく揺らいでいる。今年5月以降だけで、緊急地震速報の誤報など、ミスが5回相次ぎ、すでに昨年の2件を上回った。
今月14日夜に茨城県沖で起きた震度2の地震。気象庁は「最大震度5弱以上」とする誤った緊急地震速報を流し、都営地下鉄などで一時、電車がストップした。原因は、地震計でとらえるべき揺れの強さを設定する作業を委託された業者の設定ミスだったことが同庁の調査で判明した。
いっぽう東京・千代田区の気象庁の庁舎内にある財団法人・気象業務支援センターでは「マグニチュード12・7、震度7」の速報が流れ、大騒ぎになった。このケースは、同庁の誤発信と受信機のプログラムミスが重なった」とある。
5.「一般向け」緊急地震速報にはもっと問題が
ところで、「高度利用者向け緊急地震速報」は有料で特殊なものだから、「一般向け緊急地震速報」しか聞かない人がほとんどだろう。テレビやラジオで放送されるこの「一般向け緊急地震速報」では震度4か、あるいはもっとずっと大きな震度かがわからないのは困る。
しかしこれは、システムの本質的な制約なのである。放送だと、視聴できる広い範囲で同じものを流すわけだから、たとえば東京都と群馬県、そして伊豆七島にも同じ情報を流すことになる。これだけの範囲が同じ震度になるわけもないし、一緒に地震波が到着するわけでもないからだ。
ところで震度4だと人々はびっくりはするだろうが、棚に置いてある食器類が音を立てたり、すわりが悪い置物が倒れることがあるくらいの震度である。建物の被害はまず出ない。
しかし実際に起きる震度の回数からいえば、震度5以上よりも震度4が圧倒的に多い。それは第一には、マグニチュードが小さい地震ほどたくさん起きる(たとえば世界全体でマグニチュード8クラスの地震は年に1〜2回起きるが、マグニチュード7クラスの地震は20回、マグニチュード6クラスは120回ほど起きている)ことと、第二には、ある地震の震度が小さいほど、その震度を感じる面積が大きい、というふたつの理由による。
それゆえ、震度4がほとんどであるにちがいない「一般向け緊急地震速報」を繰り返しているうちにオオカミ少年になってしまうのではないか、と私は心配する。
そのうえ、2011年7月からは、テレビの放送は全面的に、地上アナログ放送から地上デジタル放送(地デジ)に切り替わることになっている。すでに地デジを見ている人も多いだろう。
この地上デジタル放送は、映像と音声情報を圧縮して電波に乗せる。このためテレビの内部の復元処理に約2秒かかるため、地デジは地域に関係なく、アナログより映像と音声が遅れる。つまり、いままでのアナログ放送にくらべると、最大で2秒も、視聴者に放送が遅れて届くことになる。NHKテレビは、この全面切り替えを見越して、すでに時報の秒針の放送をやめてしまっているのをご存知だろうか。
じつは秒を争う緊急地震速報にとっては、この2秒の遅れというのは、とても不利に働くのだ。横浜国立大の高橋冨士信氏の試算では、首都圏直下で地震が起きた場合、地上デジタル放送で受信すると、地上アナログ放送と比べ、強い揺れを事前に伝える緊急地震速報の揺れに間に合わない範囲が、9倍以上にも広がってしまうという。
このほか、携帯電話やゲーム機で普及が進んでいるワンセグの地デジでは、さらに遅れが多く、約4秒もある。この場合には間に合わない範囲がさらに倍増することになる。
また誤報の可能性もある。緊急地震速報は地震が起きてからごく短時間のデータだけを使ってあわてて計算する情報なので、気象庁も、落雷など地震以外の現象を地震だと誤認して発信してしまう可能性があることを認めている。そのほか、地震が起きてからごく短時間のデータだけを使って計算する情報なので、予測された震源の情報や予想震度には誤差があることも考えられると気象庁はいっている。
もちろん、誤認とわかったら、速報は取り消すことになっている。しかし、データを増やして計算し直したときに、たとえば震度5弱と推定していたのに震度3以下という推定となった場合などは取り消さないことになっているのだ。
これは気象庁にはかぎらないが、一般にお役所は、自分の間違いをなかなか認めたがらないものなのだ。
6.緊急地震速報は地震予知の代わりにはならない
私が一般の人と話していると「もう少し前に教えてくれるとありがたいが・・」「せめて数時間前になるように技術改良してくれないか」といった声がよくある。
緊急地震速報は「地震が起きる前」に出す速報ではなくて「地震が起きてから」出す速報だ。いまより早く出せるようになる見通しは、もともとないシステムなのである。
この誤解を生んでしまったのは、気象庁のせいだ。
それは「最近の学問では、地震予知ができないことがわかった。そのかわりに、制約は多いが、せめてこの緊急地震速報を役立ててほしい」と気象庁が正直に言わなかったせいなのである。
一般の人は、まだ気象庁が地震予知をしてくれるものだと思っている人が多い。げんに、東海地震だけを予知するための地震防災対策観測強化地域判定会(判定会)は、まだ気象庁内にあって、ときどき訓練などをやっている。
この本に書いてきたように、この委員会が東海地震を実際に予知できるかどうかは未知数なのだ。地元の静岡県でも、予知に失敗して不意打ちになったときの対策をはじめている。
それとちがって、この緊急地震速報は、大地震が起きてから計算をはじめるものだから、地震予知として発表するものではなく、せいぜい数秒とか十数秒とかしか時間がない、というのは本質的な制約なのだ。
もちろん、地震から遠いところでは、何十秒とか、それ以上の時間差がかせげるだろう。でもそんな遠くになったら、どんな大きな地震の揺れでも、その地域では大した揺れではなくなってしまうのだ。また、一般向け緊急地震速報は、震度4までしか発表しないし、そもそも何十秒とか、それ以上の時間で、緊急地震速報をやる意味がないのである。
イラストはともに奈和浩子さんによるもの。上は島村英紀『日本人が知りたい地震の疑問66----地震が多い日本だからこそ、知識の備えも忘れずに!』サイエンス・アイ新書 から、下は島村英紀『「地震予知」はウソだらけ』(講談社文庫)から。
【追記1】 間に合った地震速報12件中1件 総務省が改善勧告
(2010年11月26日 08時37分 東京新聞web版)
今年1月末までに気象庁が一般向けに発表した緊急地震速報計12件のうち、全対象地域に間に合ったのは1件だけだったことが26日、総務省の行政評価で分かった。大雨警報なども精度に問題があり、総務省は同日、改善を勧告した。
緊急地震速報は、発生直後に最大震度予測が5弱以上の場合、震度4以上になると予測した地域に震度と揺れの到達時刻を伝える仕組み。2007年12月に導入した。
12件の速報のうち間に合った1件は、08年9月に発生した北海道十勝沖を震源とする地震。5件は結果として最大震度が5弱より小さかった。うち1件は震度1以上の観測地点はなく、不要な鉄道の運行見合わせなどの影響が出た。
最大震度5弱以上の地震が起きたにもかかわらず、予測が外れて緊急地震速報を発表しなかった例も5件あり、総務省は「発表すべき時にできなかったり、間に合わないケースも多いということを広く周知する必要がある」としている。
大雨警報や洪水警報は全国の気象台から19カ所を選んで調査。05年から09年7月までに発表した大雨警報 991件の12.2%、洪水警報 888件の11.6%で雨量解析の精度や予報の迅速化などに問題があった。(共同)
【追記2】 緊急地震速報、また「外れ」…実際は震度3
(2010年12月2日17時31分 読売新聞web版)
2日早朝、北海道石狩地方中部を震源とする地震があり、気象庁は札幌市や千歳市などの地域に向けて、最大震度5弱以上が予想された場合に、揺れの可能性を事前に知らせる緊急地震速報(警報)を出した。
NHKや民放の一部がこれを伝えたが、観測された震度は「3」にとどまった。震度2以上のずれが出たケースは今回が2例目。札幌市では地下鉄が運転を見合わせるなどの影響があった。
NHKでは地震発生の6時44分、テレビとラジオの番組の中で、強い揺れに警戒を促す緊急地震速報を全国中継で流した。総合テレビでは、女性アナウンサーが「揺れが来るまでにわずかな時間しかありません。まずは身の安全を確保してください」と呼びかけた。震度3との観測が流れたのはその1分後だった。
速報を受け、札幌市営地下鉄は運行中の18本について次の駅まで徐行運転させる措置を取った。最大13分の遅れが出たという。また、札幌市では職員が通常より早く出勤し、被害の把握など情報収集にあたった。揺れが小さかったため、市民から「今後も警戒した方が良いのか」といった相談が数件寄せられたという。
地震速報は2007年10月に運用を開始し、今回を含め計17回発表されているが、7回は最大震度4以下。このうち震度2以上の誤差が生じたのは昨年8月、千葉県東方沖で発生した地震に続き2例目。実際は震度5弱以上だったのに、速報を発令できなかったケースも7回ある。
同庁は「震度のプラスマイナス1の誤差は技術的な限界だが、今回のように2以上はあってはならない」としたうえで、「速報を出す基準を上げれば震度4以下で警報を出してしまうケースは減るが、その分震度5弱以上で警報が出ない事例も増える。現行の基準で伝えるのが防災上有益だと考えている」としている。
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