『青淵(せいえん)』(渋沢栄一記念財団)、2017年3月号。 28-30頁。

地球外に生命はいるのだろうか



 地球になぜ生物がいるのかは長い間、科学上のナゾだった。

 地球にいた生物は、もともと、アメーバのような、ごく原始的な生物だった。原始的な生物がいれば、長い間に進化して、いまの人間のような高等生物になっていったことは科学的に解明されている。

 だが、はじめのはじめに、たとえ原始的な生物とはいえ、生命体がなぜ地球に生まれたかはナゾだったのである。

 深海という、とても特別な環境条件のもとで生まれたという説があった。また、生命が地球で生まれたのではなく、隕石のように地球外の宇宙から地球に飛び込んできたものが、地球にとってのはじめての生物を運んできたのだという説もあった。

 ともに、いま地球上にある「通常の」条件では、無生物から生物を生み出すことは不可能だという考えから生まれていた説である。

 しかしその後、水があり、温度も地球のようなところでは、長い時間はかかるものの、生物が生まれることが分かってきている。つまり、地球上の生物は、生まれるべくして生まれたものだということになった。



 だとすれば、この広い宇宙に地球のような惑星があって、そこに水があり、気温も地球なみならば、地球とは別に生命が生まれたとしても不思議ではない。はじめは原始的な生物でも、時間がたてば進化して、やがて高等生物が生まれる可能性がある。

 かくて「地球外生命」の存在を否定できなくなった。いまの科学の関心は、こういった環境がある惑星を宇宙空間で探すことになっている。

 かつての「地球物理学」といわれていた学問は、いくつかの大学では「地球惑星科学」になっている。地球をもっと知るためにはほかの惑星との比較研究をしなければならない時代なのである。

 かつて惑星といえば、太陽系の惑星のことだった。地球は太陽系にある惑星のひとつで、火星や金星のきょうだいだ。だが、学問の最新の話題は「太陽系外惑星」になっている。



 宇宙には太陽のような恒星(こうせい)はあまたあり、ぞれぞれが太陽系の惑星のような「子分」の星を従えている可能性が高いことが知られるようになった。

 地球もそうだが、惑星は太陽のように自分で光るわけではない。このため眼ではもちろん見えないし、望遠鏡で見ることもできない。

 それゆえ、見つかりだしたのは近年である。「親分」恒星が「子分」惑星にわずかに振り回される動きを観測したり、惑星が恒星の前を横切るときに恒星の明るさがわずかに減ることを観測したり、という間接的な手法でようやく見つかるのが「太陽系外惑星」なのだ。



 研究の進歩によって1990年代半ばから「太陽系外惑星」が実在することが確かめられ、見つかった数は年々増えている。とくに2014年になってからは2013年の10倍も見つかって、いまや3000個を優に超えるまでにもなっている。これからもっと増えるだろう。

 太陽のように自ら光っている恒星は高温だから、もちろん生物は住めない。しかし「太陽系外惑星」のなかには条件が揃っていて地球のような生命が生まれて進化してきている星がある可能性が高くなっている。

 もし、その星の生命が地球よりも古くから生まれていれば、あるいは人類よりも、もっと進化した生物がいても不思議ではない。何億という星のなかには、高等生物が生きている星があるかもしれないのである。SFの世界ではない。

 だが、現在の学問はまだそこまでは探れない。いまは「太陽系外惑星」のぞれぞれの大きさや水の量が少しずつ分かりかけている段階だ。「スーパーアース」といわれる地球より1〜5倍ほど大きな地球型の惑星、つまり木星のようなガスではなくて、岩が作っている惑星もいくつか見つかっている。

 水の有無や温度も調べられている。生命現象の証である酸素があるかどうかはこれからの研究なのだ。



 地球の生命の源、海がある惑星も見つかっている。たとえば「へびつかい座」にある「GJ1214b」という惑星は2009年に見つかった。

 この惑星は海に取り囲まれて、その海の深さはなんと600キロもあることが分かった。地球の海の深さの平均は4キロしかない。「水の惑星」と言われる地球でも、全体の水の量は0.023パーセントだが、この惑星の水は10パーセントもある。

 また、大気の温度は温度は120〜282度の範囲にあることが分かり、2012年にはハッブル宇宙望遠鏡の観測で、水蒸気の大気で覆われていることが確認された。

 つまり、生物が生まれる可能性がありそうな惑星なのである。この惑星は、地球から約40光年離れている。

 このほかにも、生物が生まれる可能性がありそうな惑星はいくつも見つかっている。

 また、水はないが、2012年に見つかった「かに座55番星e」のように、中にダイヤモンドが詰まっていることが推定されている惑星もある。



 まだ、相手がいるかどうか分からないのに、こうした未知の惑星に住む高等生物と交信する試みも、すでに始まっている。

 たとえば1972〜73年に打ち上げられた米国の宇宙探査機パイオニア10号と11号に、人類からのメッセージを絵で記した金属板が取り付けられた。

 その画には、ハダカの男女が描かれている。地球に住んでいる人類とはこのようなものだ、と示しているのだ。

 また、1977年に打ち上げられた2機のボイジャー探査機にも、メッセージが書かれて金めっきされた銅板製レコード、「ゴールデンレコード」が搭載された。

 このレコードにはピアニスト、グレン・グールドの名演奏、バッハの「平均律」録音も含まれている。

 言語も、知的なレベルも違う「高等生物」が理解できるように、絵文字や音が記されているものの、これらを受けとった生物が読めるかどうかは分からない。



 今日現在、ボイジャーは太陽から約200億キロメートル離れたところを遠ざかっている。これは地球から最も遠くにある人工物体になった。

 200億キロとは、太陽から地球までの距離の約130倍である。秒速30万キロメートルで飛ぶ電波や光でさえ、その宇宙探査機と地球との通信のためには片道約17時間、往復で34時間も要する。

 ボイジャーは、地球のすぐ近くを飛んでいる宇宙ステーションや人工衛星のように太陽の光を浴びるわけではないから、太陽電池で電力をまかなうわけにはいかない。このため電源としては原子力電池を載せている。

 しかし、電池の出力には限りがあり、しだいに出力が低下するために、少しずつ観測装置の電源を切っている。稼動を完全に停止するのは2025年頃の予定だ。ボイジャーの宇宙探査機としての使命はそこで終わる。

 だが、地球との直接の通信は出来なくなっても、搭載したレコードなど「人類からの通信」は電池がなくても読めるはずのものだ。

 いちばん近くても、光の速度である毎秒30万キロメートルで40年もかかるという旅だから、まだ「返信」はない。

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