『青淵(せいえん)』(渋沢栄一記念財団)、2019年2月号。 29-31頁。

地球の中はダイヤがいっぱい

 ダイヤモンドは簡単に燃えて、灰になってしまうのを知っているだろうか。

 ダイヤモンドは元素から言えば炭素だけのものだ。つまり、そのへんの炭と変わらない。

 しかし炭とは違って結晶構造がとても緻密だ。それゆえ硬くて光をよく透す。この結晶構造は地表からの深さ150〜200キロメートルのところで生まれたものだ。そこでの圧力は6万気圧、温度は2000℃もある。

 なお、ブルーダイヤモンドといわれるものがある。これは世界で最も希少な宝石で、地球の下部マントルの深さ660キロメートル以上の場所で生成された。2018年の夏に分かったことだ。ダイヤモンド内部の微小物質を手がかりして研究した。

 ブルーダイヤモンドは採掘されるダイヤモンド全体のわずか5000分の1にすぎない。青色はホウ素に由来することが分かっていたが、今回の研究で、ホウ素はかつて海中にあったものが海底の岩石に取り込まれ、それが数百万年かけて地底深くに沈み込んだことが示唆された。

 一方、ほとんどのダイヤモンドは、ブルーダイヤモンドより浅い地底150〜200キロメートルで生成されている。それでも、もちろん十分に深い。

 地球深部でできたダイヤモンドが地表にどうやって運ばれたかはずっとナゾだった。もしゆっくり上がってくるのなら、その途中で燃えてしまって、ただの灰になってしまうはずだからである。

 計算によれば、少なくとも秒速1 〜 4メートルという速度で上がってきたときにだけ、ダイヤは燃えないで地表に達したことが分かった。この急速な上昇のメカニズムが正確に分かったのは最近のことだ。

 つまり、ダイヤモンドを取り込んだマグマが、厚さ数十キロメートルもある厚くて1000℃以上という高温の地殻を高速で通りぬけたときにだけ、ダイヤモンドが無事に上がって来ることができた。この速さは、火山が激しくマグマ噴火したときだけに得られる速さだ。

 これは爆発的なマグマ噴火の一種だ。だが、日本にも過去に何度もあったマグマ噴火はダイヤモンドを持ってきてはくれなかった。

 ダイヤモンドを持ってきてくれたのは世界でも限られた場所だけである。南アフリカ、ジンバブエ、カナダ、米国、シベリア地方、東ヨーロッパ、中国などだ。

 それはダイヤモンドが作られる場所が限られていたことと、この特殊な噴火が起きたのが数億年前の一時期だけと、ごく限られていたことが理由である。

 具体的には数億年以前にあった造山運動によって作られた「安定陸塊」の深部でダイヤモンドが作られ、数億年前に起きた噴火で地表に運ばれた。このためダイヤモンドの分布は大陸奥地の古い地質条件が保たれている地域に限られている。

 これら安定陸塊は、少なくとも5億年は安定している部分で、その「根」がマントルにまで食い込んでいるために、その後のプレート運動の影響をほとんど受けない。

 ちなみに日本列島には安定陸塊はないし、そもそも日本列島が出来たのは2000万年ほど前の、地球の歴史から見れば新しい時代だから、ダイヤモンドは出ない。

 この「根」は地球のマントルの中を地球深部から上がってくる「プリューム」が作ったものだ。プリュームとは高温で流動性があるマントル物質のことで、近年、その存在が明らかになった。「プリューム・テクトニクス」は、地震や火山の原因を明らかにするプレート・テクトニクスでは解けない問題を解くことが出来る。次の世代の地球科学を担うといわれている。

 ダイヤモンドは数億年以前にあったプリュームによって作られ、数億年前に起きた、たまたまの噴火で地表に運ばれたものなのである。見つかる場所も量も限られている。それゆえ高価なものなのだ。

 ダイヤモンドは安定陸塊でもいちばん深い部分の「根」にある「かんらん岩」の中で出来たことが、いままでに分かっていた。このかんらん岩はマントルから来たプリュームが持ってきたものだ。

 固化して地表付近にあるマグマはキンバーライトというもので、垂直に近いパイプ状の形になった。ダイヤモンドを探す「鉱業」が行われたところは露天掘りで、直径も深さも数百メートルから1キロメートルを超えるほどの巨大な漏斗状の穴が開いている。地表に残された巨大な穴は人類の欲望の夢の跡だ。

 キンバーライトという岩石の名前は南アフリカ共和国・北ケープ州の州都キンバリーから由来している。以後、ほかでもキンバーライトと呼ばれている。

 ダイヤモンドは、そもそも安定陸塊の根のうち容積にして最大2パーセントしかない、パイプのなかでも同じである。それゆえ、大変に大きな穴を掘っても、ごくわずかのダイヤモンドしかとれないことになる。

 最近発表された最近の研究で、地表近くまで運ばれなかったダイヤモンドが地下にどのくらいあるのかが明らかになった。マサチューセッツ工科大学(MIT)やハーバード大学などの共同研究で、地下の地震波構造を精密に調べて、はじめて分かった。

 地震波構造では、音波が地下にある岩石内を通過する速度を調査する。ダイヤモンド中の地震波速度は、普通にある上部マントル岩石の主要鉱物であるかんらん石中の2倍以上に達する。つまりダイヤモンドを含んだかんらん岩は、普通のかんらん岩よりは地震波速度が速い。こうして地下にあるダイヤモンドが推定されたのである。

 この研究によれば、なんど1000兆トンものダイヤモンドが地下に埋蔵されたままになっているという。途方もない量だ。いままで見つかって人の手に入ったダイヤモンドは年に20〜30トンほどだから、その50兆倍にもなる。

 地球全体から見るとダイヤモンドはけして珍しいものではなく、比較的ありふれた鉱物だったのだ。

 人間が掘ったいちばん深い穴は12.3キロメートル。それも20年もかかって一ヶ所だけだ。だがこれでは、地下にあるダイヤモンドの深さには到底、届かない。

 ダイヤモンドを地表に運んでくれたのは、まれな火山噴火だけだ。この噴火で作られた漏斗状のキンバーライトは最古で約20億年前のものが報告されているが、大半は2億年前よりも若くて、1億3000万年前から6000万年前に集中している。太古の昔だけに起きた噴火である。

 ほとんどのダイヤモンドは、ブルーダイヤモンドより浅い地底150〜200キロメートルのところで生成されている。しかし、ブルーダイヤモンドも、普通のダイヤモンドも、いずれも手の届かない、遠くの話だ。

 ダイヤモンドは地球には豊富にあることがわかった。だが、私たちにとっては高嶺の花であり続けるしかないのである。

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『青淵(せいえん)』いままでのエッセイ

12:世界の終末が遠のいた?『青淵』、2018年4月号。 25-27頁。
11:地球外に生命はいるのだろうか『青淵』、2017年3月号。{3200字}。28-30頁。
10:空は落ちてくるのだろうか『青淵』、2016年5月号。33-35頁。{3200字}(その記事は)
9:地球の丸さの世界初の測定『青淵』、2015年4月号。27-29頁。
8:地球物理学者にとっての「一日の長さ」『青淵』、2014年5月号。28-30頁。{3200字}。
7:日本の「地球物理学的な」歴史『青淵』、2013年6月号。27-29頁。{3200字}
6:南極の火事『青淵』、2012年5月号。16-18頁。{3200字}
5:人間の方向感覚、動物の方向感覚『青淵』、2011年4月号。 28-30頁。{3200字}
4:地震学者が大地震に遭ったとき---今村明恒の関東大震災当日の日記から『青淵』、2010年5月号。36-38頁。{3200字}
3:外から見た日本『青淵』、2009年6月号。19-21頁。{2500字+写真4枚}
2:アフリカの仮面の「眼」『青淵』、2007年12月号 (705号)。34-37頁。{3500字+写真6枚}
1:アフリカの仮面との出会い『青淵』、2005年5月号。12-14頁。{3200字+写真3枚}


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