『青淵(せいえん)』(渋沢栄一記念財団)、2022年8月号。
17-19頁。
クロムジアマツバメはアマツバメの仲間の鳥である。英語名はblack
swift(日本語に翻訳すると、黒いツバメ)、学名はCypseloides nigerという。名前がツバメとあるように、飛行速度は時速約170キロメートルにも達するので、鳥類の中でも最速の部類だ。絶滅危惧種であり、年々、生息数が減少している。
羽は黒いが、頭には白が混ざっている。体長は19〜20センチメートル。翼を張ったときには43センチメートルに達する。普通のツバメよりも小さいが、コマドリよりも大きい。
繁殖期以外のほぼ全ての時間を空中で過ごすのが特徴だ。つまり食事はもちろん、飛行中に眠りながら、着地せずに跳び続ける。空中で眠りながら飛び続ける能力をもっているわけで、空中で過ごす期間は1年のうち約8カ月にもなる。
飛びながら食べたり、飛びながら眠るなどとは、なんと器用なのだろう。
一方、地面に降りると不器用で、脚で歩いたり、羽ばたいて飛び立ったりできない。いわば、飛ぶことに特化してしまったのだ。
研究者というのはなんとも不思議なものだ。クロムジアマツバメだけを研究している研究者もいる。スウェーデン・ルンド大学をはじめとする国際的グループが有名である。
ただし、日本にはクロムジアマツバメを研究している研究者はいない。日本名はついているが日本にはクロムジアマツバメはいない。亜種が北海道、本州、四国、九州に繁殖のために夏季に飛来して、夏鳥として過ごす。
クロムジアマツバメを研究している研究者の外国の研究によれば、クロムジアマツバメは米国・アラスカ州南部からメキシコ南部にかけて生息し、滝の裏にある洞窟に巣を作る。キツネなどの天敵が近寄れない場所だ。
ナゾめいた渡り鳥である。米国・コロラド州の繁殖地から夜昼を通して6400キロメートルを旅してブラジルまで渡った集団がいたことも分かった。クロムジアマツバメは非繁殖期の間、飛行中に眠りながら、昼夜とも着地せずにノンストップでアマゾンへと飛ぶことを確認したのである。
こういった鳥たちの一生が知られるようになったのは、ごく最近のことだ。これは、捕らえたクロムジアマツバメに、飛行データを送信する小さくて軽い発信器を取り付けることで可能になった。米国・コロラド州でかすみ網を使って慎重に捕らえたアマツバメ7羽にハーネスで軽くて小さい発信器を取り付けたのである。
ゴキブリやナメクジを研究している研究者も、日本を含めて世界中にいる。どこでどんな役に立つか分からないのが研究というものだ。
それでも研究を続ける。脚光を浴びることもなく、一生地味に暮らす研究者がほとんどである。
他方で医学分野の研究者のように、他人の役に立とうことを目指している研究者も全体から見れば少数ながらいる。癌の研究はその一つだし、難病の解明もそうだろう。蚊の研究もその同類かもしれない。
ひょんなことから研究者が意識しなくても、突然脚光を浴びることもある。
クロムジアマツバメだけを研究している研究者もその仲間だろう。絶滅危惧種であり、年々、生息数が減少しているから、研究に対する社会的な要請もあって、急に脚光を浴びることになったのだ。
クロムジアマツバメには奇妙な習慣がある。昼間の飛行高度は数百メートルだが、満月になると2000〜4000メートルにまで舞い上がるのだ。
満月前後の10日間は、クロムジアマツバメは最大4000メートルと、一貫して通常よりも高くまで上昇していた。上空に上がると小さくて目では見えないほどだ。満月になると羽ばたきが増し、飛行高度が4000メートルまで上昇する。これは新月のときよりもはるかに高く飛ぶのだ。
この高さでは酸素が薄くなる。普通の軽飛行機は与圧装置を持っていないので、軽飛行機はこの高さまでは上がらない。生身の人間だと酸素ボンベが要る高さである。
一方、月が満月ではないと、高度が低くなる。
またクロムジアマツバメに飛行データを送信する発信器を取り付けた間に、たまたま皆既月食があった。2019年6月のことだ。
1時間あまり続いた月食の間にはアマツバメは急に低空飛行になることが分かった。月食が終わると、もとの高度を取り戻した。
明らかに、月の光が飛行する高さに影響していたのだ。奇妙な行動だ。これも飛行データの記録器のおかげで初めて分かったことだ。
ナゾが研究の結果、解けた。
考えられる理由はただひとつ、月光に誘われた空中の昆虫を餌にしているのではないかということだ。食物である小さな昆虫を探すときに月明かりを当てにしていたらしい。主食はハアリである。
日中は食物であるハアリが飛ばないのだ。ハアリは月夜に高く飛ぶ、
このハアリを求めて、クロムジアマツバメも高く飛ぶのではないかということが分かった。クロムジアマツバメが満月のときには高く飛び、月食の間には低空飛行をすることのナゾが解けたことになる。
アリは一生の間に羽を持つ期間がある。普通のアリもシロアリもそうだ。
成熟した巣から羽を持つ新女王アリと雄アリが多数飛び立ち、結婚飛行を行い、空中で交尾をする。
交尾した雄アリは力尽きて死ぬ。なんともはかない一生だ。
一方、新女王アリにはそれから大仕事がある。新女王アリは貯精嚢に交尾した雄アリから貰った一生分の精子を貯蔵し、地上に降り立つ。
その後は新女王アリは自ら羽を落とし、巣穴を掘るか木の皮の隙間などに潜んだりして、女王アリとしての産卵行動に入る。アリは不思議な一生を送るのだ。
アリの絶対数が多いので、トカゲやチンパンジー、オオアリクイ、クマなど、これらを好んで食べる動物は少なくない。クロムジアマツバメがその仲間であることがこの研究から分かった。
アリは栄養価値が高く、6パーセントのタンパク質のほか、幾分の鉄分も含まれている。
人でもアリを食料とする地域や民族がある。スーダンなどでは、羽アリを採取して油で揚げて食べる、販売もされている。南米先住民は生食で食べている。フィリピンには、すりつぶしてスープの具にする地区もある。この他、中国・雲南省やタイ北部でもそのまま油で揚げたりスープなどにして食べている。
世界の人口がモーツアルトやベートーベンの時代から8倍、70億人を超えるようにもなった。
畜産物が足りなくなって、人が蛋白源として大規模に昆虫食を始めなくてはならない時代がいずれ来る。これらの人々は先取りしているのかもしれない。
みなさんは、アリや毛虫を食べられますか。
ところで、ハアリが満月の夜になぜ高く飛ぶのかは、いまだに解けないナゾだ。これはハアリの研究者の研究を待つしかないだろう。
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