『地震はどこに起こるのか ― 地震研究の最前線』第5版(2004年11月発行)のための「後書き」

おわりに

 この本では、地震について今までに分かってきたことや、いま最前線で研究されていることを書いてきました。これは、なるべく多くの人たちに、地震について分かってきたこと、そしてまだ分かっていないことを知ってほしいからです。

 地震はいつかはかならずきます。そのときに、地震について正確に知っているかどうかは、地震の被害をなるべく小さくくい止めるためにも大事なことだからです。

 「はじめに」で、この本は、いままでの地震の本とはちがう、と書きました。ちがうところはいろいろありますが、なかでも、地震予知は、いまの研究段階では、それほどあてになるものではない、というところは、いままでの本とはかなりちがいます。

 学問はふつうは時代とともにすなおに進歩するものなのですが、地震そのものについての研究が進むとともに、地震予知、それも直前の地震予知については、以前に見えたバラ色の未来が、むしろ見えなくなってきているのです。前には分かっていなかったむつかしさが分かってきた、といえるかも知れません。

 でも、一般の人にも、正確に学問の現状を知ってもらいたい、と思って、このことを書いたのです。

 この本の初版は1993年に出ました。そのときの「おわりに」に、私は次のように書きました。

「ひとつ心配なことがあります。日本で千人以上の犠牲者を出した地震は、この100年間に9回もありました。平均は11年に1回、になります。しかし実際には、1948年以来、45年間も起きていないのです。つまりあえて言えば、日本人は、大きな地震のことを忘れているのです。地震ボケしている、といえるかも知れません。

 宮城県沖地震(1978年)のときに、仙台市内で全壊した家のうち99パーセントまでは、戦後に新しく人が住み始めた地域で起きました。つまり昔の人が避けていた場所に、地震を忘れた人々が住むようになっているのです。

 この本にも書いたように、近年は地震のたびに、いままでなかったタイプの被害が生まれています。つまり、地震に対する備えは、いつも被害を追いかけてきたのです。」


 その直後の1995年に阪神淡路大震災が起きて6400人もの方がなくなり、さらに2004年には、阪神淡路大震災以後最大の地震被害を生んだ新潟県中越地震が起きてしまいました。

 これからも、恐れている東海地震や、次の東南海地震や南海地震も、今世紀の前半には起きるのではないかと思われています。

 過去の大地震からなにを学び、将来の備えになにを生かすか、地震というのは、地球が私たち人類の知恵を試している試練なのかもしれません。


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