島村英紀『ポケット図解 最新 地震がよ〜くわかる本』(絶版)から『コラム』
島村英紀『巨大地震はなぜ起きる これだけは知っておこう』から『コラム』

牧師の嘘

 米国本土ではいちばん地震が多いカリフォルニア州には、開拓時代、各地にあった教会の牧師が書いて中央に送った報告書が残されています。昔の地震の歴史を調べるために、この報告が調査されたことがあります。

 牧師のような聖職者の報告は、当然ながら客観的で正確なものと思われていました。

 しかし、調べれば調べるほど不思議なことがあったのです。周囲の報告や状況と照らし合わせてみると、あまりに被害が大きすぎるようななんとも誇大な報告がありました。

 また反対に、大地震の震源地だったのでかなりの被害があったに違いないのに、ほとんど被害がない、と意図的に無視したとしか思えない報告も目立ったのです。これらの報告は、後世、古地震研究の科学者を大いに悩ませることになりました。

 ようやくわかった理由は社会心理学的なものでした。カリフォルニアという、当時としてははるか辺境の地に赴任させられた聖職者の多くは、荒くれ男たちばかりの新開の地である任地に居続けることがイヤでイヤでたまりませんでした。それゆえ、地震の被害を過大に報告して、ここは人が住む地ではない、早く帰してほしい、と訴えたのでした。

 では正反対の報告は何だったのでしょう。じつは先住民族をだまして交易を進め、しこたま金儲けに励んでいる聖職者も多かったのです。

 彼らにとっては、せっかく築き上げた金づるである任地を変更されることは、なんとしても避けなければならないことでした。だから、地震は大したことがない、平静にしてほしい、と地震の報告をあえて押さえたのです。

 こうして、辺境にあった牧師の心情は、後世、学問を惑わすことになったのでした。


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