島村英紀『北海道新聞』 2012年7月29日(日曜)。「ほん」頁。11面

壮大な物語 広い視野で
書評『小石、地球の来歴を語る』 ヤン・ザラシーヴィッチ (著)。 江口 あとか (翻訳) みすず書房

 英国の海岸に転がっている、手のひらに載るくらいの、なんの変哲もない石ころ。しかし著者は、その石ころが?億年前の太陽系の誕生から現在までを経験したはずの「記録」を読み出すことで、壮大な地球史のロマンに仕立てた。

 もちろん太陽系の初期には、この石ころは石ではなかった。陽子や中性子からさまざまな元素が作られ、それが結合していろいろな分子になり、さらに各種の鉱物になって微惑星として宇宙を漂っているうちに、お互いが衝突して合体し、地球になっていく。石ころの原型はこうして作られていった。

 集まった微惑星はいったん溶けて重い金属と軽い岩が分離していまの地球の構造になり、やがて地球に海が出来、そこで最初の生命が誕生し、海底で堆積した泥が年月がたって石になる。そして大陸の移動や山脈の形成などプレート・テクトニクスの激しい動きを生き抜いて、石は最後に海岸に転がっていた。この本はそれらすべての痕跡がいまの石ころに残っていることを描く。この本を読むと、その辺の石ころが、いままでと違って見えてくるに違いない。

 科学の本には、科学者が書いたものと、ジャーナリストなど科学者以外が書いたものがある。前者の本は科学的には深いのだが、数が少なく、一般に難解で読みにくい。狭い専門に閉じこもりがちの科学者には、たとえ自分が取り組んでいる研究が面白いものでも、世間に説明する能力に欠けることが多いからだ。

 しかし、この著者は違う。古生物学という自分の狭い専門だけに閉じこもらず、太陽系の歴史から、地球温暖化など人類が地球全体に及ぼす問題までの広い関心をもって、地球史の壮大な物語を描きあげた。

 研究がうまくいかなかったときの悔しさや苦しみ、他方研究が成功したときの喜びも、それとなく書き込んでいる。第一線の科学者でならではの記述である。

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