『魚眼図』(北海道新聞・文化面)、2000年4月12日夕刊〔No.269〕


科学者の運・不運

 トルコを東西に走る北アナトリア断層は、長さが1000キロもある大活断層だ。この断層に沿って次々に大地震が起きたことがある。

 1939年にこの断層の東の端で大地震が起きたあと、約30年間の間にマグニチュード7から8の大地震が西に移動しながら合計7つも起きたのである。

 1999年8月、この断層の西端を大地震が襲い、一万五千人を超える犠牲者を生んだ。11月にも地震が起きた。これらが1967年までの一連の地震の延長かどうかはわからない。

 じつは、この場所ではトルコをはじめ、英国、ドイツ、日本が地震予知のための観測をすでに展開していた。このうち英国は数年前に研究費が尽きて撤退していた。無念に違いない。

 この断層の西端は南北に枝分かれしている。どちらが活動するかわからなかった。ドイツは北の断層の枝に、かなり遅れて日本は南の枝に、それぞれ観測網を敷いた。

 そして、地震が起きた。ドイツの観測網のすぐ近くだった。ドイツ人科学者は「ここで16年も待った甲斐があった」と言った。不謹慎に聞こえるかもしれない。予知と防災に役立てるために発生の仕組みを研究するという大義名分はあるにせよ、科学者としての率直な感想というべきだろう。

 しかし、その後の調査で事態は暗転した。地震、電磁気、地球化学、地下水温など、考えられるあらゆる観測をドイツ流の完璧さで展開していたのに、そのどれにも前兆は記録されていなかったのだ。地震はなかなか尻尾(しっぽ)を出してくれないのである。

 地球物理学に限らず、研究や発明は研究費の多少や、ちょっとした選択の違いに左右される。運、不運といってもよい。そして、ほかの科学ならば待っていた現象が起きたという幸運を喜ぶべき場面でも、素直に喜んではいけないのが災害の科学者のつらいところなのである。

(掲載した文章に一部加筆した)

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