『魚眼図』(北海道新聞・文化面)、2000年10月23日夕刊〔No.275〕

地震の名前

 鳥取県西部に起きた大地震に「鳥取県西部地震」という名前が付いた。なんとも当たり前のことに見える。

 しかし、地震に名前が付くまでには、実は大変な綱引きが水面下で行われているのである。

 一九六八年に十勝沖地震が起きた。函館で大学が倒れるなど、道南と青森県に大きな被害を生んだ。この地震の震源は、襟裳岬と八戸のほぼ中間点にあったから、青森県も大きな被害を被ったのであった。

 しかし、地震の名前が十勝沖だったばかりに、国民の同情を集めたり、政府の援助を獲得するうえで、青森県はたいへんに損をした、と青森県選出の政治家は深く心に刻んだのだろう。十五年後に秋田県のすぐ沖の日本海で大地震が起きたときに、この政治家はいち早く気象庁に強い圧力をかけたと言われている。

 この地震は秋田県の沖に起きたのに、秋田沖地震ではなくて日本海中部地震と名付けられた。これはこの辺の事情を反映しているに違いない。地震学的に言えば日本海中部には地震は起きるはずがない。起きたのは日本海全体から言えば、東のほんの端である。日本海中部というのは、科学的にはなんとも奇妙な名前なのである。

 そして今年、鳥取県の西部、島根県境からも岡山県境からもそう遠くないところに大地震が起きた。命名する立場にある気象庁の係官は、胃が痛くなるような思いをしたに違いない。

 しかし、拍子抜けだった。ここでは十勝沖地震のときとは逆さまのことが起きた。県の名前を付けられると、観光客が減る、という「意向」が某県から伝えられたのだという。

 人口の集中に悩む都会を別にして、どの地方も農業や漁業や地場産業の不振が続き、頼りは観光だけという日本の現状が、地震の名前にも現われているのである。

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