『魚眼図』(北海道新聞・文化面)、2000年12月27日夕刊〔No.277〕

地球物理学者の反省

 昭和基地で越冬している南極観測隊が、先月の調査旅行中に、重さ50キログラムもある隕鉄を発見した。小さな隕石はときどき見つかるが、これほど大きなものは珍しい。しかも鉄の成分が多い隕鉄だ。

 隕石は地球を作った始源物質だと考えられており、地球や宇宙の起源や歴史を研究するための貴重な研究資料である。

 この大きな石は大収穫というべきもので、大喜びで日本に知らせてきた。日本にある南極観測の支援本部で、晴れがましく記者発表をしたほどである。

 ところで、考えてみれば、空から大きな石が落ちてきて喜ぶのは、私たち地球物理学者くらいのものであろう。普通の人にとっては、そんなものが落ちてくれば、死ぬかも知れない迷惑である。死なないにしても、家や車を壊すかも知れない厄介者にすぎない。

 迷惑といえば、ことしは有珠山や三宅島が噴火した。ともに、まだ多くの人が家に帰れない痛ましい現状を、私たち地球物理学者が思う心情は一般の人と変わらない。

 しかし、噴火があったことで、いままでは得られなかった学問の材料がたくさん集まったことも確かである。学問を進めるために材料が集まることは、必要だし望ましいことであるのも間違いがない。

 私たちの学問は他人の不幸や迷惑が材料になる因果な商売というべきなのだろうか。

 世の中の人々と喜びや悲しみを分かち合える学問とか、世間を超越して尊敬をかちうる数学や哲学のような学問をやっている科学者になれなかったことを悔やむ。

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