『魚眼図』(北海道新聞・文化面)、2001年8月6日夕刊〔No.283〕

地球物理学者の嘆き

 先週から、北大の助手や大学院生と一緒に炎熱のトルコで海底地震計の準備をしている。気温はときに40℃。雨の気配もない。

 実験は8月早々に始まる。私たちが北大から運んだ海底地震計約40台をトルコの海底に置き、フランスのパリ大学が持ってきた約160台の陸上地震計を周辺の陸地に置いて行われる。地元のトルコの大学と三国共同の大実験である。

 北アナトリア断層という長さ千キロもある大断層がトルコを東西に横断している。この断層に沿って東から西へ次々に大地震が起き、60年かかって、1999年8月のトルコ大地震で西端に達した。この地震は公式発表で1万5千人、実際には倍以上の犠牲者を生んだ。公式統計と違うのは、崩れ落ちた膨大な瓦礫を取り除くのはとうてい不可能だったからだ。

 この断層の先には、マルマラ海という細長い海がある。私たちの研究は、海底に続いているに違いない大断層の行方を調べるものなのである。

 私たちが実験の基地にしている町はイスタンブールの東60キロの海沿いにあり、イスタンブールと先般の地震の震源地だったイズミットの中間に近い。この辺では震源地ほどの被害ではなかったが、建築中の家やビルがあちこちに見える。

 それらは、地球物理学者である私から見ると、寒気をおぼえる建築だ。6、7階建てのビルでも、コンクリートの柱はごく細く、壁はコンクリートでさえなくて、煉瓦を積み上げてあるだけだ。つまり、地震で崩壊してしまった建築の手法が、そのまま繰り返されているのである。

 災害からは簡単に学べない事情があるのだろう。建築費用の問題、建築材料の問題、建築技術の問題。

 しかし、災害から学んでほしい、地震は人を殺さない、人間が作った物が人を殺すのだ、と地球物理学者である私は嘆くのである。

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