『魚眼図』(北海道新聞・文化面)、2002年2月13日夕刊〔No.288〕

地球物理学者の欲求不満

 研究にはさまざまあるが、私の研究ほど欲求不満がたまるものもないだろう。

 私が研究に使っている海底地震計は、自分たちで開発したものだ。ところで、私たちの研究の現場は大学の中にはない。地震や火山噴火や、プレートの誕生や潜り込みなど、つまり「地球の事件」の現場が私たちの実験室なのである。

 昨年夏のトルコに続いて、いまカリブ海にあるフランスの海外県の島、グアドループ島にいる。

 島の沖にある海底からはプレートが地球の中へ潜り込んでいっている。

 だが不思議なことに、日本近海の潜り込みと違って、日本海溝や千島海溝のような海溝という特有の海底地形を作らずに、プレートという厚さ百キロもある岩の板が地球の奥深くへ消え去っていっているのだ。


 この謎を探るために、私たちはパリ大学の科学者と共同して、島を基地にして地震観測を続けている。朝から晩まで、地震計の整備をしたり、ときには小さな船を借りて海に出かけて海底地震計を設置したりする日々である。

 観測の準備作業や、観測そのものは、私たちが他でやっている仕事となにも変わりがない。


 しかし違うのは環境だ。世界の金持ちが集まるカリブ海ゆえ、風光に恵まれ、島中に熱帯の花が咲き乱れている。海は緑青色に澄んで、あくまでも美しい。

 ところが、問題は私たちにはそれを愛でる時間も金もないことなのである。

 食事も物価も恐ろしく高い。美男美女が闊歩するリゾートの島で、一刻を惜しんで地味な仕事を続けなければならない科学者たちは、欲求不満がたまる生活を強いられている。因果な商売なのである。

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