『魚眼図』(北海道新聞・文化面)、2002年6月13日夕刊〔No.292〕


地球物理学者の焦り

 札幌の水道の水はうまいほうだと思う。もちろん十分衛生的だ。しかし、世界では総人口の5分の1もの人たちが健康に適しない水を飲んでいる。それだけではない。悪い水が原因で毎年数百万人もが死んでいっているのである。

 世界の人口は加速度的に増加していっているから、将来、水が足りるのかどうかは人類にとっての由々しき大問題になっている。

 しかし学問が追いつかない。雨や雪が降らした水が、どう川に流れ、どう地下水になって海や湖にいたり、それがどう蒸発して天に至るのかという水の循環が、まだ量的に正確には知られていないのである。

 それは川のデータが足りないせいだ。とくに世界の大河の流量が知られていないのが、世界全体の水の研究の隘路になっている。

 いや、正確に言えば1980年代にはいろいろな国際共同研究計画があり、川のデータは多かった。それが90年代から激減してしまったのだ。

 原因は世界の大河を抱える旧ソ連諸国や中国が、持っているデータを「売る」ようになったからだ。しかも共同研究を組んでいる相手にだけは売るが、その相手以外の使用は許さない。

 つまり、それぞれの大河のデータは、世界全体の水循環を研究するためには利用出来なくなったのである。

 温暖化。砂漠化。オゾンホール。変動していく地球を知るためには、いま流れている川のデータをいま得なければ、後になって得られるものではない。

 地球物理学者は、データという「商品」に目覚めた貧しい国の現実を前にして、焦るしかないのである。

[本文は12字×54行]


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