『魚眼図』(北海道新聞・文化面)、2003年4月1日夕刊〔No.301〕

地球物理学者の分担金

 南極を領土として宣言した国は多い。かつては発砲事件さえ起きた。しかし、どの国の領土宣言も南極条約によって凍結され、科学的な活動だけが許される科学者の聖域になっている。

 ここまで来るには科学者の力が大きかった。南極科学委員会。南極の科学について国際的に討議する唯一の委員会だ。スポンサーはなく、各国の分担金だけでまかなっている。日本や英国は年額14000ドル、米国は18000ドル、ブルガリアやウクライナは5000ドルを拠出している。

 委員会発足の1958年当時は、各国が越冬隊員一人あたり10ドル分担した。全部で1000ドル。基地や研究の規模に応じた公平で民主的というべき分担だった。

 だが80年代には、この課金が現実的ではなくなった。夏だけの南極観測が各国で劇的に増えたからだ。

 以後、南極研究の規模別に4つのグループが作られ、各国はそれぞれのランクに応じた金を拠出している。

 90年代にはグループが一つ増えた。新参のオランダが「第2グループの分担金は払いたくないが、第3グループよりは研究業績が多い」と主張したからだ。英語では割り勘のことを「オランダ勘定」という。さすがにオランダだ。

 いま、私たち南極の科学者が恐れているのはロシアの脱落だ。ロシアは米国とともに第1グループ。大きな南極基地をいくつも持ち、研究実績も多いが、第2グループの日本や独仏よりも高額の分担金が払い続けられるだろうか。

 専従はたった一人という国際委員会。課金は科学者の「誇り」とその政府が払ってくれる金とのバランスで成り立ってきた。それが崩れかけているのである。

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