『魚眼図』(北海道新聞・文化面)、2003年10月6日夕刊〔No.307〕

地球物理学者の季節

 地球物理学の研究には「季節」がある。

 たとえば私たちがやっているのは、船を借りて海に出て、海底地震計を海底に設置してデータを取る仕事だ。

 この研究にはいろいろな制約がある。海が荒れたら仕事にならない。日本近海の冬の海は世界でも荒い海だし、船乗りにも恐れられている三角波が急に立ち上がる日本海も、季節によっては恐ろしい。

 一方、夏ならいつでもいいわけでもない。観測を終えたら海面まで浮上してくる海底地震計を回収するためには、夏の北海道南岸沖によくかかる霧は大敵なのである。

 私たちがよく行く北大西洋には、別の条件もある。年間でいちばん天気がいい初夏には、まだ氷山がたくさん浮いている。船よりも大きな氷山も珍しくはないから、ぶつかったらひとたまりもない。グリーンランドを覆っている氷河が崩れて流れ出したものだ。もちろん夏の終わりからは海が荒れるから、夏のごく短い期間だけが観測の季節なのである。

 ところが、真夏がだめな地球物理学の研究もある。南米パタゴニアやアイスランドの氷河では、クレバス(深い割れ目)が発達する前の春が「季節」である。

 その日にならないと分からない「季節」も困る。秋に多い。

 それは先週だった。十勝沖の海底に7月に設置した私たちの海底地震計を回収に行った北大水産学部の練習船は、八丈島から三陸沖に抜けた台風に予定が翻弄された。

 「季節感がない」数学や化学の研究が羨ましい。

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