『魚眼図』(北海道新聞・文化面)、2004年4月9日夕刊〔No.312〕

地球物理学者の社会貢献


 このところ、とみに、大学の社会貢献が言われるようになっている。私たちのところにも、どんな社会貢献をしているのか、何ができるのか、といった調査依頼がしょっちゅう、来るようになった。工学部や経済学部の先生ならともかく、基礎的な学問である理学部の私たちは、肩身が狭い思いをするようになった。世知辛い時代である。

 そうだ。私たち地球物理学者にも、社会貢献があった。それは、地震計の記録の提供である。とくに警察が重宝しているらしい。

 地震計の感度は高い。人が歩く振動は百メートルも先から感じることができるし、汽車ならば数キロ先でもわかる。しかも、百分の一秒単位で正確な時刻も分かるようになっている。

 かつて日航機が群馬県の山に落ちたときは、いつ落ちたのかを警察が知るために、地震計の記録の提供を求められた。

 飛行機の墜落だけではない。花火工場の爆発。大規模な雪崩。地滑り。自衛隊の基地での燃料タンクの爆発。これらの事件はいずれも、近くの地震計に捉えられていた。警察だけではなくて、事故や事件の解明にあたる地球物理学以外の学者に地震計の記録を提供したことも多い。

 つまり、日本全国に置いてあって、気象庁や大学などが日夜動かしている地震計は、高感度の「地面の震動」記録計でもあるのだ。

 地震や火山噴火など、厄災の面でしか世間とつきあえないのが、じつは私たち地球物理学者の日頃のひがみである。社会貢献とはいっても事故や事件ばかりで、胸を張って役立っているとは言えない学問であることは、ちょっと哀しい。

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