『魚眼図』(北海道新聞・文化面)、2004年7月1日夕刊〔No.315〕

地球物理学者の職業病

 オーストラリア人の火山学者Mさんがじん肺になった。長年、世界各地の火山を歩きまわってきたが、その間に吸い込んだ火山灰が彼の肺に沈着していって、ついにじん肺になってしまったのである。

 じん肺は鉱山や炭坑の労働者に多い職業病で、細かい岩や石炭の粉を吸い込むことで起きる。数年から30年も経ってから発病することもあり、いったん発病したら治せない進行性の厄介な病いだ。火山灰は細かい岩の粉だから、同じ病気を起こしたのである。

 このほか、水銀など、有毒な火山ガスを吸い込む危険も高い。たとえばハワイにある火山観測所に勤務する研究者には厳しい雇用契約が待っている。それは、2年を越えて研究を続けようと思ったら、健康を損ねても雇用者である米国政府は責任を負わない、という契約にサインしなければならないことだ。

 自分の研究をやり遂げるのか、あるいは自分の健康を守るのか、研究者は選択を迫られるのである。

 危険は火山学者たちだけにあるのではない。ときには探検家のように、またときには荒海で、仕事をしなければならないのが地球物理学者の仕事だから、現場で骨折した程度の話はそれほど珍しくはない。

 私も狂犬病が流行っている国で犬に噛まれたことがある。潜伏期間のあとで発病するかどうか、なんとも心細い経験だった。

 旅行保険の規約には、登山家やレーシングドライバーを除外する規定がある。幸い、いまのところは地球物理学者は除外されていない。しかし、もしかしたら、保険会社は、密かに統計を取り始めているのではないだろうか。


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