『魚眼図』(北海道新聞・文化面)、2004年9月8日夕刊〔No.317〕

地球物理学者の定年

 他の業種と同じく、地球物理学者にも、雇用上の定年がある。

 だが、地球物理学者のようなフィールドの科学者の場合には、制度的な定年のほかに、「肉体的な定年」があることがある。

 しかし、例外もある。先月、ドイツで南極科学委員会という南極の科学者の会議があった。そこでロシアのU博士に会った。

 すでに81歳。なんと、来年、南極に行くのだという。彼にとって「研究の定年」はないのだろう。

 博士は高名な地球物理学者だ。私とは30年以上の知己だが、この委員会で会えるとは思わなかった。

 ところで、日本の南極観測隊も、いままでは指名だった隊員を今度からは公募枠を設けることになった。

 楽な仕事ではない。しかしU博士のような、とは言わないが、健康でやる気のある人が応募してくれることが、日本の極地観測に必要なのである。

 北大の技官のSさんは昭和基地で、58歳から一年半の越冬を立派にこなした。日本にも例外がいたのである。

 Uさんは背筋も伸びていて、齢には見えない。ところが、私は靴の踵が半分くらいに減っているのに気が着いた。

 元気でよく歩くせいか、あるいは、研究者の給料も研究費も少ない国ゆえに古い靴を履き続けているのか。そのどちらかは、悪くて訊けない。

 しかし、いずれにせよ、一握りの金持ち以外は貧困にあえぐ日本の隣国で、U博士はたくましく生き抜いているのは確かなことである。

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