『魚眼図』(北海道新聞・文化面)、2004年11月15日夕刊〔No.319〕

地球物理学の言語文化

 羊蹄山の近くに住む、見知らぬ人から電話があった。羊蹄山は死火山だと思っていたが、どこかの事典を見たら休火山と書いてあった、危険が増えたのだろうか、という問い合わせである。

 読者の多くも、活火山、休火山、死火山という言い方をご存知だろう。教科書にもそう書いてあった。死火山は、もう噴火しない昔の火山、休火山は有史以来、噴火した記録が残っている火山で、将来噴火するかも知れない火山、と教わったはずだ。

 しかし、気象庁は、休火山や死火山という言い方を、じつは20年以上も前からやめてしまっているのだ。火山が本当に死んでいるのかどうか、学問的には断定できないことが分かったからだ。たとえば1979年に、死火山だと思われていた木曽御岳が噴火したこともこたえていたに違いない。

 気象庁や日本火山学会は、この変更について、十分広報したはず、と言っている。

 だが、一般の人たちは、まさか死火山や休火山が「死語」になっているとは思っていないだろう。つまり、この「変更」は十分に知られていないに違いない。

 死火山。休火山。これほど分かりやすい言葉を子供のころに刷り込まれてしまった以上、なかなか抜けるものではない。

 死火山や休火山に限らない。活断層。激震。地球物理学の学術用語はコピーライトが良すぎるせいか、人々の頭に深くしみ込んでいる。じつは「激震」も阪神淡路大震災以来、「死語」にさせられてしまったが、これも、ご存知の人は多くはあるまい。

 気象庁のお役人や学者たちは、自分たちが作った言葉は、自分たちが勝手に処分してもいいと思っているのではないか。

 これは文化としての言葉を自分たちの専有物だと思っている思い上がりなのかも知れない。

(紙面掲載時に縮めた一部を補完しました)

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