『魚眼図』(北海道新聞・文化面)、2005年1月19日夕刊〔No.320〕

越冬隊員の身体検査

 日本の南極基地である昭和基地は、いったん南極観測船が帰ってしまったら隔絶した場所になってしまう。

 医者はいる。ちょっとした手術もできる。薬も一通りは揃っている。しかし、一年半にもおよぶ長い越冬中は、重い病気になっても、怪我をしても救い出すことはできないところなのだ。

 このため、観測隊員に選ばれる前には、徹底した身体検査が行われる。この結果、普通の健康診断ではまず見つからない程度の異常が見つかることも多い。

 ところが、この隊員の選考も、様変わりしつつある。

 いままではRH-(マイナス)のような特殊な血液型を持つ人には遠慮してもらっていた。

 いざというときに、他の隊員から血液をもらって輸血することができないからだ。だが、人数が少ない血液型にはAB型もいる。輸血用の血液を集められないという意味では、RH-だけを別扱いすることはできない。このため、血液型による選考はやめた。

 一方、以前よりも増えた病気がある。昔は健康に自信がある山男が多かったせいか、生活習慣病(成人病)も少なかった。しかし近年は激増したのだ。

 それだけではない。中年以降の隊員候補者だけが、しかもときどき引っかかっていた生活習慣病に、若い人たちが引っかかるようになった。

 これは、もちろん、隊員候補者だけの話ではあるまい。日本人の若者全体が、食事のせいか、生活のせいか、昔は中年しかかからなかった病気の兆候を持つようになってしまっているのだろう。

 南極観測隊員の身体検査からも社会が見えるのである。

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