島村英紀著『ポケット図解 最新 地震がよ〜くわかる本』(秀和システム)から「コラム」

ハワイに旅行する人、ご用心(地球物理学者しか知らないハワイの秘密)

 強盗、スリ、ひったくり、誘拐、殺人。海外旅行の危険はいろいろあります。

 外務省は旅行者のための安全マニュアルを作っています。しかし海外旅行者を待ち受けている災害は、これらマニュアルに書いてあるものばかりではないのです。マニュアルには強盗やスリが多い国だとは書いてあります。けれども外国の政府への非難がましいことや内政干渉になることは書いていないからです。

 日本人の海外旅行でトップの座を占めるハワイ。高層ホテルが立ち並ぶワイキキの浜辺は、年中、日本人で溢れています。しかしこの町には地球物理学者が知っていて、旅行者が知らない危険があるのです。

 それは、ホノルルのビルには耐震基準がないということです。つまりここには地震に耐えるように作られていないホテルやビルが林立しているのです。

 19世紀にはハワイには大地震がよく起きました。しかし20世紀になってからは、小さい地震は起きていますが、不思議なことに大地震は起きていません。

 喉元過ぎれば忘れるのは人間の常。しかも耐震基準を満たすビルは建築費もずっと高いのです。アメリカでもサンフランシスコのビルには耐震基準がありますが、ビルをずっと安く作りたい「動機」は観光業界にも建築業界にも強かったに違いありません。

 じつはハワイにも第2次世界大戦前には耐震基準がありました。たとえば5階建て以上のビルは作ってはいけなかったのです。しかし戦後、観光客が急増すると観光業者の圧力に政府が押されて耐震基準がなくなってしまったのです。

 ですからハワイの高層ホテルは日本のビルよりもずっと地震に弱く、それゆえサンフランシスコのビルよりも、ずっと安く作ることが出来るのです。



 ところでハワイにはなぜ地震があるのでしょう。ハワイの地下深くには、マグマが湧き出してきているマグマの泉があります。プリュームという泉です。日本の火山のマグマはせいぜい100キロか200キロの深さから来ているのに、ハワイのマグマは1000キロとか2000キロもの深いところから上がってきているのです。

 そして、ハワイもその上に載っている太平洋プレートをマグマが突きぬけて出来たのがハワイなのです。このときに地震も噴火も起きるのです。

 太平洋プレートは年に10センチほどの速さでゆっくり動いていますが、マグマは、かまわず突きぬけてしまいます。プレートは動き続けます。噴火してしばらくたつと、出てきたマグマが固まって出来た火山はプレートに乗ったまま動いて行ってしまいます。すると、この火山の下にはもう噴火するだけのマグマが来なくなってしまいます。つまり火山は噴火が終わって死に絶えてしまうのです。

 でもプリュームからのマグマは、また別の場所で、次の火山を生むことになるのです。ハワイの島々はこうやって次々に生まれ、死に絶えていった歴史があるのです。

 ハワイ諸島が乗っている太平洋プレートは北西方向に向かって動いています。ハワイは大きな島だけで八つありますが、「下流」、つまり北西にある島が一番古く作られたもので、「上流」に行くにしたがって、順番に新しく作られた島になっていっています。州都ホノルルのあるオアフ島は、まん中の島だから、一番南東にあるハワイ島ほど新しくはありません。

 いまは、盛んに噴火しているのは、一番南東の端のハワイ島の火山です。ここにあるキラウェア火山は、もう十年間以上も噴火が続いています。

 ハワイの未来はどうなるのだと思いますか。そう、ハワイ島のもっと東に、新しい海底火山が生まれて、やがて新しい島が出来るはずです。

 そしてその予測通りに、生まれる前の海底火山の赤ちゃんが見つかりました。ハワイ島の東の沖の海底を調べていた学者が、深海底にもり上がった小さな丘と、そこからブクブク、吹き出している火山性のガスを発見したのです。この丘はロイヒと名づけられました。これは将来のハワイ新島になるところにちがいありません。

 一方、北西の下流には島がずっと並んでいます。これらは昔のハワイの「遺跡」なのです。しかしこれらの島々はもう島ではなくなって「海山」になっているものが多いのです。

 それは、下からマグマが来なくなってしまうと火山がしぼんでしまったり、山全体の温度が下がって山が縮んだり、海の波が島を削ってしまうためなのです。

 これらの島や海山、つまり大昔からのハワイ諸島は5000キロにわたって続いています。

 20世紀になって大きな地震がなかったからといって、今後もないことはありえないことです。

 私たち地球物理学者から見れば、今後、また大地震が起きることは十分に考えられることなのです。なぜなら、1世紀かかってもハワイはたった10メートルしか動かないことを知っているからです。

(イラストは、イラストレーターの奈和浩子さんに描いていただいたものです)

付記

 米国ハワイ州ハワイ島の西岸沖で2006年10月15日午前7時7分(日本時間16日午前2時7分)ごろ、マグニチュード(M)6.7の強い地震が起きた。

 幸い死者はなかったが、震源に近いハワイ島で住宅や道路の被害が相次いだほか、震源からかなり離れたハワイ最大の観光地、オアフ島ワイキキ地区の約9割の地域でも長時間停電となり、空港機能も麻痺するなど、広く都市機能が麻痺した。レストランや土産店もほとんど閉店し、観光客らは食料を求めコンビニエンスストアなどに殺到した。

  米国の地質調査所(USGS)によると、ハワイ付近では、1868年にマグニチュード(M)7.9の地震が起き、津波や地滑りが発生して70人以上が犠牲になった。1951年にもM6.9の地震が起き、家屋被害などが出たことがある。


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