『社会新報』(1988年1月31日)書評
地球の腹と胸の内――地震研究の最前線と冒険譚』
地震研究者の奮戦記

 地球物理学の目で見ると私たちの足元は「動かざる大地」ではない。大陸も海も、いくつにも割れたプレートと呼ぱれる「岩の板」の上に乗っている。その厚さは20-30キロから150キロ。太平洋や大西洋の海嶺で生まれるプレートは、年に数センチの速さで移動し、他のプレートとぶつかる場所では一方が他方の下に潜り込む。その境目が海溝だ。そこには恐ろしい力が働き、エネルギーが蓄積されて、それが放出されるときに地震が起こる。

 「プレート・テクトニクス」と呼ばれるこうした理論による大陸形成の物語や地震発生のメカニズムの説明には、聞き覚えのある人も多いに違いない。本書はその研究の最前線の様相を描く。といっても堅い”科学書”ではない。むしろ人間ドラマである。

 X線も電波も伝わらない地球内部を調べる最も有力な武器は地震波だ。とくにプレートの誕生と死の主舞台である海底での地震観測が決め手になる。しかし著者らが研究を始めた20年前、世界中にまともな海底地震計はなかった。感度がよく、6000メートルもの深海の水庄に耐え、確実にデータを回収できる、しかも小型軽量で安くつくれる海底地震計を開発することが、研究の大半の部分を占めた。

 決して机の上の”スマートな”研究ではありえなかった。乏しい研究費、船の確保もままならぬ研究態勢下での悪戦苦闘。しかしそれは世界の先端をいくものだった。次つぎと明らかになる新事実、また新たな謎・・。平易で淡々とした文章が、著者の時どきの思いを生き生きと伝える。

 「列国事情」の章では、激しい競争の中でのまことに人間臭い研究者たちの姿とともに、それぞれの国柄が浮き彫りにされている。”科学音痴”を自認する人にこそ勧めたい。

情報センター出版局、1300円
(半坂 忍)

『週刊朝日』(1989年3月3日)書評
『地球の腹と胸の内――地震研究の最前線と冒険譚』

 世界をリードする日本の海底地震計は、秋葉原の電器屋さんと、羽田裏の町工場、そして日本の漁師たちの知恵から生まれた。

 筆者は北海道大学教授・海底地震観測施設長。ほぼ四半世紀を、小型で性能のいい海底地震計の開発と、それを駆使した観測にたずさわってきた。その現場からの報告だけに、日本の誇るこの分野がどのように開発されてきたかかが、手に取るようにわかる。一つの学問がどんなに広い裾野に支えられていることか。

 プレート・テクトニクスという、新しい、まだ実証されたとはいいがたい分野だけに、国際的競争も激しく、プロの学者が名誉と生活をかけて激しく争っている。学問の世界の競争を、職業としての研究者、という視点から描いた本は珍しい。

 それにしても、深さ6000キロの地球のうち、人類はまだ13キロしか見でいないという。地震予知もまだ当分はむずかしそうで、安易にはやしたてることは慎んだほうがよさそうだ。

 温室で管理するのではなく、自由な競争を、と主張する著者の言葉は、世界の先頭を走る者の自信でもあるのだろう。とくに、理科系へ進むことを考えている高校生にすすめる。

(情報センター出版局、1300円)
朝日新聞社『週刊朝日』に載った紹介(jpegファイル

琉球新報」(1989年4月24日)書評
『地球の腹と胸の内――地震研究の最前線と冒険譚』(島村英紀著

 海溝で起こっているプレートの動きを探り、地球の内部構造を明らかにしようとした科学者たちの物語。海底地震計をめぐる科学者たちのぶつかり合い、せめぎ合いを、分かりやすく文章でつづったサイエンス・ドキュメントだ。

 見ることもできず、触ることもできない地球の内側を、明らかにしようと試みる著者は、最初に計測器製作のための部品探しかり始めなけれぱならなかった。まったくの未知の分野だったのだ。計器作りもさることながら、海洋で起こるさまざまな自然現象に実験は阻まれる。が、やがて著者は、困難を乗り越え、巨大地震のメカニズムを透視できる眼(海底地震計)を開発する。

 これまで空論とされてきたプレート・テクニクスの分野を実証的なデークで、解明していった著者のバイタリティーと冒険心は、読む者の共感を呼ぶに違いない。冷静でありながら、暖かく地球を見守る一人の学者の姿が、ほの見える。

 学者といえば、白衣を着、試験管を握るスマートな姿が浮かぷ。しかし著書に出てくる学者たちは、いずれも無骨で人間臭い。そのぷん身近に感じ、親しみさえ覚える。

 また、黒潮にプイが引っぱり込まれて海中に消える描写には、大自然に畏敬の念を抱かずにはいられなかった。単なる科学書ではなく、読者があたかも現場にいるような臨場感を味わえる一冊だ。

(情報センター出版局、B6版、262頁、1300円)
(近藤好沖記者)

『日本経済新聞』1989年3月8日夕刊一面コラム「鐘」

「秋葉原の電気部品と羽田裏の機械部品がなければ、私たちの海底地震計はできなかったろう」(島村英紀著『地球の腹と胸の内――地震研究の最前線と冒険譚』)

 巨大地震の予知という最先端の研究で、いちばん頼りになるのは”町工場”だという。地震学者は、秋葉原で手に入れたICと、羽田空港近くに密集する機械工場に注文した部品を組み合わせ、使い勝手のいい海底地震計をつくる。これで得た新しいデータがなければ、コンピューターをいくら駆使しても、地震予知の進歩はない。

 学者のやっかいな注文に応じてくれる町工場がないソ連では、優れた研究機器ができず、それが科学の停滞の一因となっているという指摘もある。

 最近は日本でも情報という怪物に振り回されて、悪戦苦闘してモノをつくり上げる町工場的精神を軽んじる風潮がみられる。リクル−ト事件の「ぬれ手でアワ」の精神構造は、その行きつく先だといえないだろうか

朝日新聞社『科学朝日』に載ったインタビュー記事(jpegファイル
小学館『週刊ポスト』に載ったインタビュー記事(jpegファイルその1その2その3
文藝春秋『週刊文春』に載った紹介(jpegファイル

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