巨大科学の「裏」
『j-mail』 (北海道大学大学法学研究科・高等法政教育研究センター(*)の季刊広報誌)
2002年春号
『いまを、斬る』(巻頭言)

 理科系の研究には道具が必要だ。その道具は年ごとに大型化している。加速器。観測船。巨大望遠鏡。全国規模の地震観測網。いずれも巨費がなければ出来ない設備だ。

 設備を獲得するための金が得られなければ研究のスタート地点に立つことさえ出来ない。国民に夢を売る宇宙や天文。国民を「人質」に取った地震予知研究。純粋な理学的研究だというだけで巨費を出すほど国も財界も甘くはないから、良く言えば涙ぐましい努力、ときには恫喝まがいの手練手管さえ繰り広げられている。

 ある官庁の特殊法人がある。大きな海洋観測船や深海潜水艇を何隻も持ち、今は海底に深い穴を開ける深海掘削船を作っている。6万トンもある巨船だ。

 南極輸送船を獲得して新造するのも狙っている。現在の3倍もの巨船だ。自衛隊の海外派兵が不可能だった時代に派兵の突破口になったのがこの砕氷船だった。しかし、いくらでも海外派兵が出来るようになった現在の自衛隊にとってはお荷物になった。もともと南極観測が主目的ではなかったからだ。

 こういった船、つまり高価な研究手段が増えることは研究にとってめでたくない話ではないだろう。多くの科学者は、これらの船が続々と作られて科学を進める夢に胸を膨ませているのである。

 しかし裏もある。その特殊法人の理事には、親官庁の官僚が次々に天下りしている。しかもその理事たちは、その後さらに造船会社に天下りしている。こうして国費で作る巨大で高価な船の注文が造船会社を潤しているのだ。

 かくてお役人の天下り先が確保され、日本の産業が潤い、日本の科学が進み、真理が探られる。八方丸く収まっている日本的な構図と言うべきなのだろうか。

 かつて科学者は王侯貴族をパトロンにした。時代の風を受けて颯爽と見える現代の科学者も、誰かの掌の上で踊らされている孫悟空では、というのが科学者として私が感じる哀しさなのである。

*)センター長は山口二郎教授(政治学)

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