島村英紀 『油断大敵! 生死を分ける地震の基礎知識60』

「前書き」と「後書き」と書評や読者の感想


『油断大敵! 生死を分ける地震の基礎知識60』 2014年9月10日発行。花伝社選書。
224頁。四六判並製変形。ISBN978-4-7634-0712-2 C0036。1200円+税
(この絵をクリックすると帯付きの表紙が拡大されます)
『夕刊フジ』の連載をまとめて加筆、単行本にしました。
出版社が作ったこの本の「キャッチ」(本の帯になっています)


 この本の前書き

 東日本大震災(東北地方太平洋沖地震、マグニチュード9・0)は東日本全体を載せたまま北米プレートを東南方向に大きく動かしてしまった。正確な測定は陸上部だけしかできていないが、宮城県の牡鹿半島では5.2メートル、首都圏でも30〜40センチもずれた。このために、日本列島の地下がリセットされてしまったことになる。各所に生まれたひずみが地震リスクを高めている。

 もともと首都圏は、世界でも珍しいほど地震が起きやすいところだ。それは首都圏の地下には、プレートが三つ(太平洋プレート、北米プレート、フィリピン海プレート)も同時に入っていて、それぞれのプレートが地震を起こすだけではなくて、お互いのプレートの相互作用で地震を起こすからだ。

 世界では二つのプレートが衝突しているために地震が多発するところはある。しかし三つのプレートが地下で衝突しているところは少なく、なかでもその上に3000万人もの人々が住んでいるところは、世界でもここにしかない。

 もともと少なくはない首都圏の直下型地震は、東北地方太平洋沖地震以来、様相が変わってきたように見える。これらの地震は地下がリセットされてしまったことと無関係ではない。

 もっと間の悪いこともある。日本を襲う地震にはマグニチュード8を超える「海溝型地震」と、マグニチュード7クラス以下の「内陸直下型地震」の二種類がある。海溝型地震は一般には日本の沖で起きるが、首都圏だけは海溝型地震が「直下」で起きてしまうという地理的な構図になっているのだ。このため、いままでも関東地震(1923年)や元禄関東地震(1703年)といった海溝型地震が首都圏を襲った。

 内陸直下型地震はくり返すものかどうか分かっていないが、海溝型地震はくり返す。元禄関東地震、関東地震とくり返してきた地震も、以前はあと100年ほどは起こるまいと思われていたのが、東北地方太平洋沖地震の影響で、もしかしたらもっと早まるかもしれないと思われはじめている。

 江戸時代から現在までの首都圏の地震活動を見ると、不思議なことに関東地震以来の90年間は異常に静かだったことが分かる。たとえば東京では、この間に震度5は東北地方太平洋沖地震と2014年5月の伊豆大島近海の地震を入れても4回しかない。しかしその前の300年間はずっと多かったし、被害地震も多かった。

 じつは元禄関東地震のあとも約70年間、静かな期間が続いたのだ。首都圏は一時の静穏期間が終わって、いわば「いままでよりは多い」しかし「日本にとっては普通の」状態に戻りつつあるのだろう。

 日本に暮らすかぎり、これからも地震と火山とにつき合わざるを得ない。地震や火山について、そしてそれらと地球との関わりについて、どこまでわかっているのか、なにがまだわからないのかを読者に正確に知ってもらおうというのが著者の希望である。


 この本の後書き

 地球は「生きて動いている星」だ。生まれて46億年あまり、いままで一度として同じ姿になったことはない。地球内部は溶けたマグマや高温なので溶けて液体になった金属が動き回っている世界なのである。

 その生きている地球の息吹が地震や火山噴火だ。たとえば地球と同時期に出来て一時は溶けたマグマに覆われていたものの、いまは中心まで冷えて固まってしまった火星には地震も起きず、噴火もない。

 ところで、人類の活動が近年急激に盛んになって地球にさまざまな影響を及ぼすほどになっている。影響としてよく知られているのは、人類が出す温室効果ガスによる地球温暖化や、人類が発明して大量に使っていたフロンが上空に上がっていって作るオゾンホールだ。

 しかし、それだけではない。便利さだけを追求してきた人類は新しい資源の開発を繰り返してきた。石油や石炭などの化石燃料や、灌漑農業のために大量に汲み上げている地下水も、場所によってはほとんど掘り尽くすまでになっている。

 そして最近では新しい資源への貪欲な開発がさらに進んでいる。米国はじめ各国で進められているシェールガスの開発。近未来の商業利用のために研究開発が進んでいる海底の新資源、メタンハイドレート。資源の開発ばかりではない。人類が過剰に出してしまった二酸化炭素の実験的な地下投棄も始まっている。

 そして、この本に書いたように、これら人類の活動は、いまや地震が起きなかったところに地震を起こすまでになっている。さて、このまま人類が地球相手の開発に突き進んでいいのか、考えるべき段階に来ているのかもしれない。

 ところで地震についての学問は、それなりに進歩して来てはいるものの、まだ解明できていないことも多い。どこまでわかって、何がまだわかっていないのか、いまの科学の限界はどこなのか、この本を読んで、幾分でも理解して貰えばありがたい。

 なお、この本は『夕刊フジ』に2013年5月から、ほぼ毎週連載しているものに加筆して収録した。

 この本の出版には花伝社の社長である平田勝氏の強いお薦めがあり、また編集には同社の水野宏信氏に大変お世話になった。お二人に感謝したい。


 2014年9月に好意的な紹介が出ました(長周新聞。2014年9月29日)。その記事は)


読者の感想

2014年9月23日:花伝社の今度の本もまたとても面白いですね。読むほどに、どうしてこんな風に頭が回るのだろうとか、こんなに珍しい写真をいつの間に撮り、どうやって整理して今回の活用に至ったのだろうなどと、疑問と感動がいっぱい沸いてきました。これからも、どんどん作品を産み続けてください。

2014年10月:(ブログから)日本に住んでいる以上知っておいた方がよい話が多く、とても興味深かったです。また、ダム建設やシェールガス採掘、地下水くみ上げによる地盤沈下などが起こす「誘発地震」について実例が多数書かれており、「便利さだけを追求する技術」への深い懸念が読み取れました。


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