『週刊朝日』1982年7月23日号「週刊図書館」
島村英紀『地震をさぐる』書評
最近の研究成果をわかりやすく

 地震についてのこの啓蒙書を書くについて、出版社が著者の島村先生に注文したことは、「学問的にごまかしはしないで、しかもやさしくわかりやすく」ということでした。この本を読んで、まず感じたことは、出版社の注文通りの本が見事にできあがっているということです。

 地震について平易に書くといっても、それは様々な切り込み方があるのですが、島村先生のこの本では、新しい研究成果であるプレート・テクトニクスを一つの柱とした、地震の構造的理解ということに重点がおかれています。

 そのような見方をしたとき、日本で起こった様々な地震はどのように理解されるかを次の段で述べ、さらに最近進められている海底地震計等による様々な精密観測、地震予知への努力が結びとして述べられています。

 啓蒙書も時代と共に変わってゆきます。だから本書の特長は昔書かれた、たとえば和達清夫博士の『地震』(昭和8年)、坪井忠二博士の『地震の話』(昭和16年)、『新・地震の話』」(昭和42年)等と比較して読んでみるといっそうはっきりします。和達博士の本は古い図書館でもないと見ることができないでしょうが、坪井博士の二冊は岩波新書ですから、現在でも容易に見ることができるでしょう。

 古い本ほど地震についての面白い色々のことが沢山書いてあります。たとえは、はじめに伝わってくる地震の波が押しであるか引きであるか、それが地域的に見事な幾何学的分布を示すことは、地震について少し調べ始めた人ならだれでも一度はなぜかと考えることなのですが、そのようなことは島村先生の本には全く書いてありません。そのかわりに、以前の本には全く見られなかった、地震の構造的説明がそこにはあるのです。

 科学はおそらく、島村先生のような方向に向かい、やがて本質的理解に進むのでしょうが、島村先生の本で地震のイメージを整理した読者は、再び啓蒙書の少し古い古典に立ち返って、地震についての色々の事実を読んでみたらどうでしょうか。それらの事実もプレート・テクトニクス説で統一的に説明できるかどうか。そのような頭の訓練をすることも啓蒙書の一つの読み方ではないでしょうか。

(楓)
(国土社「日本少年文庫」・980円)

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