島村英紀の裁判通信・その3
(2006年6月16日に配信)

(第二回、第三回公判。傍聴記と関連記事


地震学者・島村英紀裁判通信3を送ります。

今回は6月6、7両日に札幌地裁で行われた第2回と第3回の公判の傍聴記と、公判の関連記事です。

ともに、ノルウェー・ベルゲン大学のミエルデ教授の証人尋問でした。最初に検事側の尋問があり、そのあとに弁護側の反対尋問が行われました。

この公判には、東京から編集部の一人も傍聴に行きました。


<内容目次>
1 第2回、第3回公判傍聴記(その1)
2  第2回、第3回公判傍聴記(その2)
3  新聞各社の報道(記事引用は個人的使用ですのでお許しください)

<編集部から>
傍聴した友人から今回の裁判の話を聞いて、さらに機械メーカーで製品の研究・開発に携わってきた友人の解説を聞いて、この「通信」を編集している私も「じつは、よくわかっていなかった」と思い知らされました。

「北大の備品である機械を売った」と告発されましたが、島村が渡したのは機械という「モノ」ではなくて、ノウハウであり、あるいは島村の「能力」だったのです。

つまりノルウェー側の都合で「モノ」という形をとりましたが、その内実は、島村の頭脳を含むシステム(の一部)だったというわけです。

「売った」とする機械の一部を、ベルゲン大学が参加しない観測の際にも他の国にも持ち出して使っているという事実、また北大にも戻っているという事実に、検察も困っているのではないでしょうか。

だから振り込まれたお金は、まさに「お知恵拝借に対する研究分担金」だったのです。

島村英紀が作った「海底地震計」は、それを持っていたからといって誰でも観測ができるわけではありません。

まず、各部分の作動を確認して観測装置として組み立てる技術、それを深海の所定の場所に沈める技術、引き上げ回収する技術、さらに記録を取り出す技術、それを解析する技術と、すべて島村の独自に開発したノウハウだったのです。

だから、ノルウェーが所有したはずの「地震計」は、ベルゲン大学が参加しなくても、フランスやアイスランドに自由に持ち出され、日本にも戻ってきているのです。

しかもそれを構成している部分は、観測中に一部でも故障したら、計画段階から数年かけ、大変なお金をかけた観測が無駄になるため、それぞれ長くても2、3年で使えなくなってしまうもの。島村英紀が海底地震計を「備品ではなく消耗品」と言いつづけていた意味が、ようやくわかりました。

北大は「一部の部品は北大の研究費で買ったはず」としていますが、それは意味がない話でした。北大も検察も、さらに取材した新聞記者諸氏も、「形あるモノ」を売ったと誤解していたということです。

また一部の新聞記事によれば「島村は自分の口座に振り込ませた」と書いてありますが、じつは北大理学部事務担当者に委任経理金として受け入れの相談を複数回したにもかかわらず、「受け入れ不可能」ということで、「自分で処理するように」との指示がありました。

大学官僚らしく、「予算外の入金は処理できない」ということだったのでしょう。北大の他学部教授も、「自分も海外からの入金については、そう指示され、そう実行した」と、逮捕時の新聞報道にコメントしていました。

またこの裁判が不思議なのは、2月1日の逮捕以来、今日で136日経ちますが、いまだに保釈も家族の接見も許されていません。

「なぜか?」を考えるときに、これは単なる「詐欺事件」ではなくて、「国家の地震政策」に反対した学者への見せしめだろうとわかります。『公認「地震予知」を疑う』(2004年。柏書房)で、「大震法」(大規模地震対策特別措置法)の虚構と恐ろしさを批判した地震学者・島村英紀の業績抹殺の罠ではないでしょうか。

<第2回公判と第3回公判の傍聴記・その1>
島村英紀を彼告とする「北大地震計詐欺事件」の公判が、ベルゲン大(ノルウエー)のロルフ・ミエルデ教授を証人として、6月6日と7日の二日にわたって開かれたが、それはかなり劇的なかたちで閉廷した。

長時間にわたる公判(第3回)が終了する直前に、ミエルデ教授が「最後に一つ、申し上げたいことがある」と、おおむね次のように述べたからだ。

「私は個人的な立場としては、すぐれた地震学者である島村教授を尊敬しており、彼から受けた多大な恩恵についても感謝している。しかし、今回のことはベルゲン大と北海道大との問題であり、私は公的な立場ではベルゲン大に所属しているため、非常に複雑な心境で証言せざるをえなかった」

そして弁護人から「あなたは島村被告からだまされたと思っているか」と聞かれたときにも、きっぱりとした口調で「個人的にはだまされたと思っていない」と証言した。

だから翌日の新聞でも「だまされてはいない一一<被害>のノルウェー教授」(北海道新聞)、「だまされた認識ない一一公判で被害者の教授証言」(毎日新聞)、「だまされたと思わぬ一一ベルゲン大教授証言」(朝日新聞)などと報じていたが、いずれも第二社会面の目立つ場所で、三段見出しの大きな扱い方(50行から60行)だった。

ミエルデ教授を証人として遠方から招くにあたっては「島村被告が当初、国所有の地震計を勝手に売り、代金を着服した業務上横領容疑で、北大から告訴されていたのに、べ大に渡った地震計がたびたび分解、交換され、売却されたとされる地震計の特定が困難なため、札幌地検は詐欺罪に切替えて逮捕・起訴した経緯があった」(毎日新聞・真野森作記者=6月8日朝刊)ものだが、その<被害者>とされる証人が「だまされた認識がない」というのでは、この「詐欺事件」は奇妙なことになるだろう。

「地震計の売買契約の契約書を交わしていなかったことに触れ、<こちら側にも罪があった。もし契約書を売買の条件につけていたら問題はなかった>と語った。島村被告の金の使途についても<研究のために使う意思を持っていたと思う>との見解を述べた」(朝日新聞=6月8日朝刊)

その公判は二日とも午前10時から午後5時までで、途中に休憩が2回あるとはいっても、相当にハードなものであった(休憩は昼食時の90分間と午後3時からの20分間)。

しかも、英語から日本語への通訳(女性2人)つきで、彼女たちの声が小さいために、非常にわかりにくかったのだが、私がとくに注目したのは次の3点である。

(1)ベルゲン大に置かれていた地震計は分解され、部品別に手入れをしてから保管されていたが、ベルゲン大の研究スタッフには、それを組み立てる能力がなく、その管理・運用は島村グループに任されていた。

(2)ベルゲン大が海底地震計を購入したのは、1998年から99年にかけてとされているが、島村グループが2001年にフランスやトルコで、それぞれ共同の海底地震観測を行ったときには、日本から持っていった地震計の他に、ベルゲン大に置かれていた地震計も使われている(ベルゲン大はその海底地震観測に、2回とも参加していない)。

しかも、そのとき「島村グループは、ベルゲン大から使用許可を得たのか」という弁護人の質問に対して、ミエルデ教授は「いいえ」と答え、「その必要がなかった」とも証言している(ベルゲン大に置かれていた地震計は、同大が「購入したもの」と称しているけど、島村グループはベルゲン大学の了解なしに、それを使うことができたわけである)。

(3)公判の二日目(第3回公判)の午後4時をすぎて、残り時間も少なくなったころ、井口実裁判長は地震計の写真を何枚かミエルデ教授に示し、自ら「一番目の写真は地震計のどの部分に使われている部品で、どのような働きをするものですか?」「二番目の写真は?」「三番目は?」と次々に尋ねていったが、ミエルデ教授はそのすべてに明確に答えることができなかった(ミエルデ教授は地震計について知るところが少なく、地震計の操作や管理・運用はすべて島村グループに任せていたのである)。

島村英紀は昨年(2005年)の3月に書いた「北海道大学が発表した<海底地震計売却等について>への反論」の中で、ベルゲン大の地震計は「形式的な所有」にすぎず、また、地震計の一部を海外に「留め置きしてくることは、ノルウェー(ベルゲン大)だけではなく、かつてアイスランドでも行ったことがある」と主張しているが、ミエルデ教授の(1)から(3)までの証言は、それを立証したものといえるだろう。

ベルゲン大は5台の海底地震計を購入したことになっているが、それは単なる「形式的な所有」にすぎず、実質的には島村グループの管理下にあったわけで、島村は北大に対する「反論」の中で次のように説明している(少し長くなるが、重要なことなので、もう一度、読み直しておきたい)。

「ノルウェ一の有力な石油会社サガは、(ベルゲン大学が)外国の技術を使っているかぎり、研究費は出さない。それゆえ島村の指導のもとで、海底地震計を5台でも1O台でもいいから、ベルゲン大学で作らせてほしい。技術的にはベルゲン大学のバッケモ技官なら出来るはずだ(---という話が1995年にミエルデ教授からあった)」

「つまり、ベルゲン大学は自前の海底地震計を持たないかぎり、研究の生命線である石油庁や有力な石油会社、さらにはヨーロッパ連合からの研究費を得られなくなる恐れが大きかった」

「しかし不幸なことに、ベルゲン大学のバッケモ技官はその後、石油会社の研究所に引き抜かれてしまい、同大で海底地震計を自作することは不可能になってしまった」

「そのため、次にベルゲン大学側が希望したのが、たとえ形式的でもいいから、ベルゲン大学側が海底地震計を持つことにしてもらえないだろうか、ということだった」

「それはベルゲン大学側が自分たちの(内外への)存在証明のための海底地震計なので、それなりに対外的な説明ができる手続き(請求書や領収書や送金)が必要であり、申し訳ないが、それを島村側で作ってくれないか、という申し出であった」

「ベルゲン大学側のこれほどまでに困窮した事情、それに長年の共同研究の実績もあって、島村は断りきれなかった」

ベルゲン大に何台かの海底地震計を置いてくることは、同大との共同研究が行われ始めたときからの「習憤」になっていたせいもあって、それを「ベルゲン大が所有する形式にする」ことに対して、島村はそれが深刻な問題になるとは考えなかったのだろう。

彼は前出の「反論」の中で次のようにも説明している。

「ベルゲン大学に置いてある海底地震計の実態は、同大との共同研究を行うたびに、20から40台の規模で海底地震計を日本から持ち込み、その帰りには、調子がよくて問題のないものを何台か、同大に置いてくるというのが常態になっていた。それはノルウェーでの次の観測現場に持ち出すのに近いことや、ベンゲル大学側で海底地震計を操作する技官の訓練にも役立つためである」

「海底地震計を海外に置いてくるこの<習憤>は、かつてアイスランドでも行われていたことである。アイスランドの周辺の大西洋中央海嶺は、数年に一度、大規模な群発地震が起きるところなので、現地に置いてある海底地震計なら、群発地震が起きたとき、すぐに対処できるという目論見であった。海底地震計を操作する研究者は日本からすぐに行けるが、海底地震計を輸送するためには、大変な手間と費用がかかるので、このような<残置海底地震計>の措置をとってきたのだ。ベルゲン大学に置いてある海底地震計も、このような残置海底地震計の延長線上のものと考えていた」

「そもそも海底地震計は北海道大学の<備品>ではなく、2年からせいぜい4年で消耗する<消耗品>ある。その意味ではベルゲン大学が<買った>と称する海底地震計はすでに耐用年限をすぎている。その実態は、部品を多くのメーカーに頼んだり、東京・秋葉原で買い集めてきた電気部品を、島村らが北海道大学で組み立てた<手作り品>である」

「それぞれの部分品である電気基盤や部品は、日本のあちこちにある小さなメーカーに作ってもらったことはあるが、海底地震計として<丸ごと>で作れるメーカーはない」

「海底地震計には(ノルウェーからの研究費などで)パーツを買って作った自作のもの、各メーカーからの試作・試供品、北海道大学で買った部品などが、判然とは区別できない形で、混ざって使われてきている。つまり<北海道大学の費用で買った海底地震計をベルゲン大学に引き渡したもの>ではないのである」

二日にわたって行われた証人尋問の中で、ミエルデ教授は検察側の尋問(誘導尋問)に対して、「北大が地震計売却を許可していないと知っていたら、ベルゲン大は購入していなかった」などと証言した(読売新聞=6月7日朝刊)ものの、全体としては島村英紀が説明しているとおり「ベルゲン大学が海底地震計を買ったというのは、あくまでも形式的なものにすぎなかった」ことを証明したといえるだろう。

とくに二日目の午後4時すぎに、裁判長が自らミエルデ教授を尋問し、同教授が「海底地震計の構造について何も知らない」ということを確認したのは、被告である島村にとって有利に作用するのではなかろうか。

それにしても島村は最初、国有財産である海底地震計を勝手に売り、その代金を着服したという「業務上横領」で北大から告訴され、札幌地検に逮捕・起訴される前に行われていた民事裁判では、「北大敗訴・島村勝利がほとんど確定的と思われていた」(尾崎弁護士の話)のである。

そのため札幌地検は「詐欺罪」に切り替えて、島村を逮捕・起訴したわけだが、これはかなり無謀なことではなかろうか。

だからこそ、突如として「被害者」にされたミエルデ教授はとまどっているわけで、今回の証人尋問でも「だまされたとは認識していないし、すぐれた地震学者である島村先生を尊敬し、多大な恩恵を受けたことに感謝している」という証言になったのだろう。

世界的な地震学者である島村英紀を牢獄に送り込もうとした北大の教授陣は、百年を超える北大の栄ある歴史に傷をつけたといってもよいが、羞恥の欠如した北海道大学の研究者たちには、その認識がないのだろうな。

<第2回公判と第3回公判の傍聴記・その2>
ある裁判で業務上横領容疑が詐欺容疑に替えられて立件されていた(北海道新聞2006.2.2朝刊)。

「詐欺は<人を騙して金品を交付させる>罪で、得た金品の使途は問われない」とこの新聞は語る。話の続きに、彼は「騙されていない」と三段の小見出しを付けた(道新2006.6.8朝刊)。

事件は情痴の果ての事ではなく、もっとまじめな正義の話ではなかったのか。

6月7日札幌地裁8階第2号法廷で、午後4時位であろうか、ノルウェー・ベルゲン大学教授ミエルデ氏は、弁護人の問いただしに答えた。

「私個人的には騙されたと言うことにはならないだろうと思います」と。

次に弁護人が、「この裁判であなたが騙されたり、騙したりをきめるものではありません」と伝えると、ミエルデ氏は「わたし自身が騙されたと言うことではありませんが、わたしはベルゲン大学の人間です」と語った。

宮仕えの身上を、その得体の知れない重さに44歳の教授が吐露したけれども、島村英紀教授は彼よりも20歳上なのだ。

道新に似せたわけでないが、毎日新聞(同日朝刊)は「騙された認識無い」の小見出しは、品位もよろしく、また(真野森作)記者名入り記事は「売却の申し入れのあったことを事実上否定した」としている。

同じく3段小見出しの朝日新聞(同日朝刊)は、「ベルゲン大教授証言<騙されたと思わぬ>」で、記事文は「<個人的には騙されたとは思っていない>とした」である。

学問の伝統とは、自由にあるだろうが、それが例え放埓に見えようとも、その遊戯性を保全しない限り進化しないだろう。

5月26日8階5号法廷、島村英紀被告の海底地震計は〈固有財産ではない〉の声から、行き先は。

残るは、”文章は島村が最終的に取りまとめた”(『北海道の地震』(北海道大学図書刊行会。島村英紀/森谷武男。
1994年から)蝦夷地が沈むか、北大が没するか。

<第2回、第3回公判参考資料(新聞記事)>
●朝日新聞(北海道) 06/6/8
地震計詐欺公判
ベルゲン大教授証言「だまされたと思わぬ」

海底地震計の代金名目で、共同研究相手のノルウェー・ベルゲン大教授から金をだましとったとして詐欺罪に問われている元北大教授で前国立極地研究所所長の島村英紀被告(64)=東京都練馬区の第3回公判が7日、札幌地裁(井口実裁判長)であつた。ベルゲン大のロルフ・ミエルデ教授(44)の証人尋問が6日に続いて行われた。地震計の売買契約の契約書を交わしていなかったことに触れ「こちら側にも罪があった。もし契約書を売買の条件につけていたら問題はなかった」と語った。島村被告の金の使途についても「研究のために使う意志を持っていたと思う」との見解を述べた。

「だまされたと思っているか」という弁護側の質問に対し「個人的にはだまされたとは思っていない」とした。

ただ検察側や裁判官から支払先について問われると「代金は北大に支払った。(島村被告が)ベルゲン大から支払った金を北大に納入しないことを知っていれば、個人口座に振り込むことはなかった」とも述べた。

起訴状などによると、島村被告は北大地震火山研究観測センター長だった98?99年にかけ、ノルウェーに持ち込んでいた北大の海底地震計5台を、自分に売却する権限がないのにあるように装い、ミエルデ教授から計約2千万円を自分の個人口座に振り込ませてだまし取ったとされる。

●毎日新聞(北海道) 06/6/8
北大地震計詐欺裁判
「だまされた認識ない」
公判で被害者の教授証言

北海道大・地震火山研究観測センター長在職時に、国所有の地震計を売却すると装ってノルウェーの大学教授から現金をだまし取ったとして、詐欺の罪に問われた前国立極地研究所所長、島村英紀被告(64)の第3回公判が7日、札幌地裁であった。被害者とされるベルゲン大のロルフ・ミエルデ教授(44)は証人尋問で「個人としてはだまされたと思っていない」と証言。売却を装ったとする起訴事実とは異なる取引の実態も明らかにした。

起訴状では、島村被告は98年と99年、共同研究相手のミエルデ教授に対し、売却権限のない海底地震計5台を売るとだまし、約2000万円を自分の口座に振り込ませたとされる。

だが、ミエルデ教授は「(べ大が常に5台を保有する権利の契約であって)特定の5台を買ったわけではない」と、売却の申し入れがあったことを事実上否定した。一方で、ミエルデ教授は「北大との公式な取引と思っており、北大の許可がないと知っていたら金を振り込まなかった」とも話した。

島村被告は当初、国所有の地震計を勝手に売り代金を着服した業務上横領容疑で北大から告訴されていた。しかし、べ大に渡った地震計5台がたびたび分解、交換され、売買したとされる地震計の特定が因難なため、札幌地検は詐欺罪に切り替えて逮捕・起訴した経緯があった。島村被告は「国所有ではなく、だましてもいない」と無罪を主張している。【真野森作】

●北海道新聞 06/6/8
地震計詐欺公判「だまされてはいない」
“被害”のノルウェー教授

共同研究相手から北大の海底地震計の売却代金として約二千万円をだましとったとして、詐欺罪に問われた元北大地震火山研究観測センター長(教授)の島村英紀被告(64)の公判が七日、札幌地裁(井口実裁判長)であり、共同研究相手で詐欺の被害者とされるノルウェー・ベルゲン大のロルフ・ミエルデ教授(44)が「(島村被告に)だまされたとは思っていない」と証言した。

二日間続いた証人尋問の最後に弁護人から「あなたは島村被告からだまされたと思っているか」と聞かれ答えた。この事件では、島村被告の弁護側は「島村被告はミエルデ教授をだましていない」として無罪を主張している。

ただ、ミエルデ教授は六日の検察側尋問では「地震計の代金は北大に送金したと認識していた」と述べ、代金支払いの具体的な流れについては、島村被告が大学間の正式な売買を装い詐欺をはたらいた?とする検察側の主張に沿った証言もしていた。この事件をめぐっては、札幌地検は当初、北大を被害者とする業務上横領容疑で捜査を進めたが、その後詐欺罪に切り替えて立件。このためミエルデ教授にとっては、急きょ事件の被害者とされた経緯がある。このことへの戸惑いや、海底地震研究の権威として尊敬していたかつてのパートナーへの複雑な思いが、揺れた証言の背景にあるとみられる。

●朝日新聞(熊本) 06/6/14
研究者独自の装置 誰のもの?
北大・海底地震計事件公判で争点に
ノルウエー売却先『大学所有と認識』

前国立極地研究所所長で元北海道大学教授の島村英紀被告(64)が、海底地震計の売却をめぐって「大学の所有物なのに個人で現金を受け取った」と詐欺罪に問われた裁判で、「研究のために独自に作られた装置は誰のものか」が争点になっている。

元教授は「地震計は北大の備品ではない」と主張。しかし、6、7日に行われた証人尋問で、売却先のノルウエーの大学教授は「北大のものと認識していた」と明言した。「北大の所有物と思っていたから購入した。島村被告のものとは本人からきいていない」とベルゲン大のロルフ・ミエルデ教授(44)は証言。自らの手作り品と主張してきた島村被告とは、食い違う形になった。島村教授は「地震計は東大助手当時の69年ごろ開発を始めたもので、自ら部品を調達して組み立てた手作り品」「地震計は常に改良が続く。北大の『備品』ではなく『消耗品』」などと主張。ベ大から送金された事実以外は否認している。

ある大学教授は「理系の研究者は、試作品を作るためのノウハウや経験は研究者個人のもので、所有権がグレーの場合は、なるべく自分に属するように考える傾向がある」と打ち明ける。

今回の証人尋問では、部品のどこまでがベ大のもので、どれが北大のものかは、把握していなかった、とミエルデ教授は話す。複数の部品が組まれていたが、ノルウエー側は、所有権などをあいまいにしていた。ミエルデ教授は「契約書を作らなかったこちらにもミスがある」と認め、「個人的にはだまされたと思っていない」と証言した。国際共同研究にはビジネスと違い、人間関係で物事を進める危うい部分があることが浮き彫りになった。

ゲノム解析などで知られる独立行政法人「理化学研究所」(本部・埼玉県和光市)は、今年4月、全ての研究成果の所属について統一ルールを敷いた。研究論文は研究者に所属するが、それ以外の有形、無形の成果は研究所のものにした。01年に同研究所の研究者らが米医療機関から治療・研究素材を盗み出したとして産業スパイの罪で米国当局に起訴された事件がきっかけだ。同研究所の齋藤茂和・知的財産戦略センター長は「研究者は苦労して作った物だから自分のものという意識になりがち。成果の所在を明確にし、研究者にも認知してもらうことで事件化を防ぐことが可能」と話す。

なお、ミエルデ教授の主な証言として、以下の要約:
【地震計の所有権者についての認識】
 北大の所有物で、代金も北大に振り込んだと認識
【売買をめぐるやりとり】
 私から購入したいと御願いした。個人の合意のみで、大学間で契約書はかわさなかった。契約書があれば問題にならず、ベルゲン大学側にもミスはあった。
【地震計を所有したいと思った理由】
 小規模な調査が低コストで柔軟に出来る。
 石油会社から資金を得るためにも有利だった。
【購入した地震計について】
 使用時は島村氏へ相談し、北大に人を派遣してもらった。

主な争点:
海底地震計の所有者
  検察側:北大の予算で購入しており、北大が管理する国有財産
  弁護側:島村被告等が部品を組み立てた手作り品で、北大の備品ではない。
欺く理由
  検察側:地震計を売る権限がないのにあるかのように装った
  弁護側:ベ大側の強い希望で、形式的な売却に応じた
金の使途
  検察側:生活資金などに使用
  弁護側:研究に使い、私的には一切使っていない。

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島村英紀の家宅捜索・逮捕・連行劇
島村英紀の獄中記
海底地震計・海底地震観測とはどのようなものなのだろう
悪妻をもらうと哲学者になれるなら:海底地震学者は「哲学者」になれる
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島村英紀が書いた「もののあわれ」

誰も書かなかった北海道大学
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