島村英紀の裁判通信・その9
(2006年9月25日に配信)

第6回公判・部品メーカーの証言)


しばらくご無沙汰してしまいました。島村英紀が保釈となり安心したわけではありません。

検察側証人の個人的事情から公判が1カ月ほど延び、検察側最後の証人尋問が8月末に行われました。

今回の証人尋問は、海底地震計の部品を製作・納入していた小メーカーの経理担当者。検察としては、「北大に請求書を出して振り込みも北大からだった」と証言させる心づもりでした。

しかし、傍聴した友人も書いているように、ベルゲン大が支払ったお金は、「幻のモノ」に対してであって、そのモノはノルウェーに留まっていず、世界中で利用され、新しいモノと交換されていたのです。

そして「幻のモノ」を売りつけたから詐欺と起訴されたのですが、当のベルゲン大が「だまされたとは思わない」と証言してしまいました(第2回、3回公判)。

検察はどうするのでしょうか。

第6回公判には、毎回、かけつけてくれる北海道の友人グループとともに、東京から、島村の東京大学新聞時代の友人が傍聴に出かけました。

彼は機械メーカーで製品開発などを担当してきたので、雑誌記者くずれよりも機械の話がわかるだろうとの考え。

その通り、とても鋭い観察を披露しているので、どうかご精読を。
<編集部>

<第6回公判傍聴記>

1.日時、場所、裁判官、証人、他
(1) 2006/8/29(火)10:00 - 12:00
(2) 札幌地方裁判所 8階5号法廷  (以下敬称略)
(3) 裁判官 井口 実 他2名(川田・清水)、 書記官 太田 剛人
(4) 検事 小嶋、 弁護人 5名(尾崎英雄、島津宏興、磯田丈弘、鈴木一嗣、鳥井(司法研修生))
(3) 検事側証人 合計3名

2.証人尋問の概要
今回の公判は、起訴状で「(ノルウェーの)ベルゲン大学教授に対し、(中略)売却する意思も権限もないのに、(中略)ベルゲン大学に売却する旨申し向けた」と検察側が主張している「海底地震計及びその関連機器であるトランスポンダー」の主要な構成部分について、検事側は3人の証人尋問を通して、取引(発注元、支払い元)が島村教授個人ではなく、北海道大学という組織であったこと、及び、試供品、無償供与品を提供したことがない(島村はそれらが組み込まれている海底地震計もあると説明している)ことを、明確にすることにあったと思われるが、細かい点を除いては、検察側の思惑通りの証言となった。

なお、今回までのすべての公判は検事側の論理を裏付けるために行われている訳だが、起訴状から読み取れる検察側の論理については、「(研究費の分担を伴った共同研究を実施した中で)諸々の事実の中から一部分だけを切り離して、あたかも犯罪であるかのごとく無理やりに歪曲しているのではないか」という疑念が否めない。

この「検事側の論理に対する疑念」は、傍聴内容を記した「各証人尋問」の後で詳しく説明したい。

3.各証人尋問
3.1 S社 M社長
(1) S社の概要(筆者注、また以下( )内も同様)

海底地震計に用いられている特別仕様のDAT(Digital Audio Tape)レコーダー(実際の内容は、以下(3)j.で説明する様に、記録部分に民生品の既製品であるSONY製のDATレコーダーを使ってはいるが、海底地震計用として全く新しく開発した「計測信号処理・記録、兼(操作)信号受発信システム」と言うべきもので、既製品ではない)の販売。

自社では製造はしておらず、特殊な機能を持った機器、材料等について、顧客の要望を聞いて市場から何でも探してくる小商社。つまり、主に大学、研究所、企業の開発部門等を顧客にしている、いわゆる便利屋。

(2) 検察側尋問に対する証言

a.海底地震計に使われるDAT(Digital Audio Tape)レコーダーを北大へ販売している。

b.取引は北海道大学という組織が対象であり、個人が対象ではない。

c.販売代金も北大から入金されている。

d.試供品等を無償で提供したことはない。

(3) 弁護側反対尋問に対する証言

e.最初に販売したのは、1994年(調書?と照合した弁護士からの指摘で1995年に訂正)に話があり、97年に3台、98年に8台、99年に4台などを納入した。

最初の納入時には、北大と随意契約ができなかった(多分、それまで北大と取引がなく、口座もなかったのだろう)ので、I(商社の名前か?)経由で納入した。

f.DATレコーダーは他の大学にも売ったことものはあるが、北大へ納めたものは特注品である。

最初の3台(の開発)時、北大のSi先生(島村教授の当時の助手)から話があり、H工業(H社長、担当K)に注文して製作した。

g.(3者の関係、開発のやり方についての質問・・・良く聞き取れず・・・に対して(M社長)(Si先生の)要求内容を聞いてもH側に伝えた。私もアルゴリズムを理解できるので、それを聞いて伝えることは可能である。なお、島村教授と直接打ち合わせたことはない。

(多分証人は、上記d.証言を裏付けるため、開発段階から常に自分も間に入っていたので、自分の知らない間に発注側と制作側とだけで試供品などの組み込み等はやっていないということを印象づけようとしたのだろう。

新しいものの開発では最初は要求仕様の骨格しか決められないことが多い。試行錯誤中にそれぞれの試行結果について、発注側と実際の製作側が直接、何度も、細かい打合せをして修正、確定していく。それをせずに、下記j.の様な複雑なシステムが開発できないことは技術的な常識であるが、弁護側がもっと追及するかと思ったら、裁判官から「アルゴリズムとはなんですか?」という質問と、それに対する証人のちょっとピンボケな説明が入り、弁護側は必要なしと思ったのか、この点についてはそれ以上追及しなかった。)


h.(DATレコーダーの開発で苦労したことは何か?との質問に対し)陸上ではOKでも、海中では温度、ノイズ等の影響でうまくいかない点である。

i.(f.に記載の証言を更に具体的にして、弁護側の「市販のものは十数万円だが、約110万円と高価なのは何故か」との質問に対して)北大に納入したDATレコーダーは、市販のものを使って海底地震計用に改良した特殊な海底地震計用DATレコーダーであることを認めた。1993年頃ほぼ完成し、95年に受注した。(上記e.の「最初は97年に納入した」との証言から、最初の品物の製作には1年以上かかっていることになり、この間にも試行錯誤が続いたのだろう。)

j.(弁護側が実際の海底地震計用DATレコーダーの内部が判る写真、即ち、長方形の筐体の真中にソニー製のDATレコーダーがあり、その周囲をいろいろな機器類が取り囲んでいる写真を示し、海底地震計用に改良する為にどんな機器類が組み込まれているのかという質問に対し)AD変換素子、クリスタル発信器、制御CPU、バッファメモリー、通信ボードなどが組み込まれている。(この内容から判断すると、とてもDATレコーダーの特注品又は改良品とは言えない(例えば、TVキャプチャ?ボードなどのアナログ入力装置、無線LANを備えたパソコンのシステムを、記録装置であるハードディスクの特注品・改良品とは呼ばないようなもの。むしろ、記録部分にDATレコーダーを使ってはいるが、全く新しく開発した「計測信号処理・記録、兼(操作)信号受発信システム」とも言うべきものであるが、弁護側はそれ以上質問しなかった。)

(4) 裁判官の質問に対する証言(井口裁判官が最後に確認?の様な下記の質問をした)

k.(以前はアナログ式だったというが・・・という裁判官の質問に対して)アナログ式には関与していない。

l.(現在も改良が進んでいるのか?という裁判官の質問に対して)今の形がほぼ最終バージョンであり、現在は改良していない。(テープ式より小型で信頼性の高いハードディスク式に改良されていると聞いているが、発注先が違うのでS社は知らないのかも知れない)

(5) 印象
・弁護側の反対尋問が、何を狙って、何を反証しようとしているのか、それとも、反証の必要がない(しても仕方がない)と考えているのか、判然としなかった。

・証人は被告人の方を一度も見なかった(目を合わせなかった)ようである。

被告席が弁護側席の前にあり、弁護人がDATレコーダーの写真などを証人席に持って行った際、弁護側を向くので何度も機会があったし、入退廷の際出入り口で一礼した際にも機会があったのにである。

・後から聞いた話だと、北大では試供品も登録しなければならないという規則があるが、ほとんど何処の研究室も守っていない。

しかし、試供品を提供し、それが登録されていないことが公になると、提供した業者も、今後の取引に悪影響を被るのではないかという心配があるのだろうとのこと。証人が、d.の証言にこだわった(g.参照)ように見えたのは、そのためもあるのかも知れない。大学から閉め出されたら小さな業者は死活問題であるから。

3.2 K製作所 H専務 (経理担当役員)

(1) K製作所の概要(筆者注)

海底地震計用の地震センサー(xyzの3成分振動センサーで、地震計が傾いても各成分センサーは常に水平・垂直を保つようにジンバル機構にセットされているので、「ジンバル」と通称されている)の製造販売。

同社の社長は、かって研究室の助手であった人である。

また、テープを使用したDATレコーダーの後継機ともいうべき、より小型で、信頼性の高いHD(ハードディスク)仕様のデジタルレコーダーの製造販売も行っている。

(2) 検察側尋問に対する証言

a.(検察側の質問に答えて)氏名を述べ、K製作所の専務取締役で、総務・経理を担当している。

b.北海道大学という組織が取引の対象であり、教授との取引はない。また、(販売代金の)入金も北大からで、島村教授からではない。

c.(正式の注文に先立って)口頭での(仮)注文はあるが、村井先生(島村教授を告発した助手)からである。

d.試供品等を(北大に)無償で提供したことは、自分は聞いていない。

(3) 弁護側反対尋問に対する証言

e.会社の代表者である社長が北大の助手であったことは聞いているが、(私は)島村教授との面識はない。

f.(納入している)「ジンバル」の開発には携わっていない。また、どんな経緯があったかも聞いていない。

(4) 印象
・総務・経理担当役員として監査などに慣れているのか、質問に対し必要最小限のことをなるべく手短に答え、余計な発言をしない様に気をつけていた感じである。

社長と島村教授の関係を聞かれても曖昧な答えをし、具体的に「社長が研究室の助手をしていた」ことを質問されて初めて、「そのことは聞いています」と答えるなど、奇異な感じがするくらいだった。

・経理担当で、他のことには関与してないということで、弁護側もそれ以上追及しなかった。

3.3 K電子 経理担当役員 Mt 氏
(1) K電子の概要(筆者注)

トランスポンダーの製造販売、及び、耐圧容器である強化ガラス球の輸入販売。

トランスポンダーとは、海底に設置した海底地震計内の受発信装置と、水中でも伝わる超音波を使って通信し、海上(船上)から海底地震計に指令を出して浮上させたり、海底地震計が自重で沈んで行くとき海底での位置がずれるが、海底の地震計との距離を測ってその位置を正確に把握するための超音波通信装置である。尚、海底にある物体との通信では、海 中にある物体の場合と違って、海底からの反射波と干渉してしまうという影響を受け誤動作する畏れがあるので、反射波の影響を防ぐ特殊仕様になっている。

証人は社長夫人である。

(2) 検察側尋問に対する証言

a.(検察側の質問に答えて)氏名を述べ、K電子の経理担当役員をしている。

b.北海道大学という組織が取引の対象であり、教授個人との取引はない。また、(販売代金の)入金も北大からで、教授個人からではない。

c.(正式の注文に先立って)大学との折衝は(当社側は)社長が担当している。

d.試供品等を(北大に)無償で提供したことはない。

(3) 弁護側反対尋問に対する証言

e.トランスポンダーの開発はいつ頃から始まったのかよく知らない。

最初の注文は東大のK先生から頂いたと思うが、開発の過程もよく知らない。

f.(注文の流れとしては)最初に先生から社長に話しが来て、仕様と値段が決まると北大から正式な注文が来る。(先生とは誰ですかの質問に)最初に話が来るのは島村先生からです。

(4) 印象
・余り重要なことではないかも知れないが、「島村先生から最初に引き合いが来る」という証言が、弁護側の反対尋問で初めて明らかにされた。

海底地震計は1セット約400万円、トラスポンダー親機は約150万円と決して安価なものではなく、97年から7、8年間で海底地震計だけでも50台以上製作されている。 各証人が所属する3社にとっては大切な顧客であろう。

常識的に考えて、各社ともその中心人物である島村教授と接触し、開発に協力したり、今後の計画の情報を取ろうとしたであろう。また、3社共決して社員も多くなく、特に役員の間では大切な顧客の情報は共有されている筈である。

それなのに、3人の証人が皆、その顧客の中心人物である島村教授との接点、特にその後の商談に必要な開発段階での接点を、証言の中でなるべく明確にしたくないという異常とも思える対応を見て、異様な感じを禁じ得なかった。

4.検察側の論理に対する疑念
(1) 概要

今回売却したとされる海底地震計は、そのために別途発注されたものでなく、従来から共同研究を含めて研究に使われていたもの(その中のその時点で調子の良いもの5台で、観測の度に別のものと入れ替わったりして、どの海底地震計かは特定できない)であるから、島村は教授として北大に所属していたことを考えると、北大から発注され、北大の予算で購入されたものであるのは、至極当然である。

しかし、だからといって、北大の資産を勝手に売却したとか、相手を騙したと主張するのは、論理的に無理がある。

海底地震観測に要する研究費用全体の内、海底地震計にかかる費用はほんの一部である。

この研究費用全体の中で、観測をきちんと行うためには、どの予算を観測のどの部分に使うのかという費用(予算)配分を企画する、またその配分の決定権限は誰にあったかを考えれば、上記の主張がおかしいことが解るはずである。

少しくどくなるがその理由を以下に説明したい。

(2) 海底地震計は耐用年数を有する資産ではない!

先ず、海底地震計なるものは、そのハードウエアが全体で数百万円と金額が大きいので、恒久的な資産と勘違いするが、実態は観測中の紛失、また、機能不良予防のための部分更新(部分廃却)の可能性に常に晒されている消耗品とも言うべきものである。

数千メートルの海に沈め、海底で人工地震波を記録した後、船上からの超音波の指令で錘である架台から切り離されて直径50cm程の地震計本体(内部に地震センサーと制御・記録・通信部分を納め、プラスチックケースで覆われたガラス球の圧力容器)だけが浮上する。

これを広い海上で、本体に取り付けた電波や光の発信器等を頼りに発見して回収する。

何か1つが機能しなければ、また、海が荒れ出したり、海流が激しくなったりすれば、永久に発見できず紛失してしまう。

更に、数千メートルの海底は、温度、水圧などの環境条件も厳しく、超精密なセンサー、制御部、記録部が機能不良を起こす畏れが多い。

もし一部でも機能不良を起こしたら、首尾良く回収できてもデータがとれず、大変な費用と準備に膨大な時間とをかけた観測の、その部分が欠落してしまう。

かといって、この超小型化した地震計に、宇宙ロケットのように、二重三重の補償システムを組み込むことは、費用的にも無理である。

従って、構成している部分毎に、観測前にチェックし、少しでも兆候のあるもの、何度か使用して故障の危険性が高いものは新品と交換し、システム全体として細心の注意を払って事前調整する必要があることは誰でも納得できることである。

以上のように、海底地震計は、とても、耐用年数何年などと定義できる資産ではないのである。

(3) ベルゲン大学からは従来から研究費が提供され、問題の費用提供もその延長線である!

次に、ベルゲン大学はこの売却があった数年前から、単なる共同観測ばかりでなく、島村教授の海底地震観測による海底地殻の解明の研究に対して研究費を提供して成果を共有してきた。

その結果、ノルウェー国内ばかりでなく、EU圏内でも実力を認められ、海底油田が国の経済の重要な部分を占めているノルウェーの国情もあって、国及び石油会社からかなり潤沢な研究費を獲得し、その一部を提供していた。

今回のベルゲン大学による海底地震計の購入もその研究費提供の延長線であると理解できる。

なお、島村は形式的な(名目上の)売却であると主張しており、それを裏付ける根拠と合わせて以下の(5)に述べる。

(4) 観測費用全体から見ると、その中での費用(予算)配分の問題に過ぎない!

海底地震観測には、このハードウエアの購入費以外に、機器の運送費、研究者の渡航滞在費、現地調達の労賃、現地調達消耗品費、観測船の借り上げ費、予測できないトラブルの費用、等々、大変な費用がかかる。

どの予算を全体にかかる費用の何処に使うかは、一応当初計画はあるだろうが、費用発生のタイミング、予算の使いやすさ、等諸々の条件を勘案して、観測の進捗に合わせて臨機応変に処理しなければ、政治・経済・社会情勢等によって観測の可能性が左右される畏れがある海外での海底地震観測の機会を逸することにもなりかねない。

ベルゲン大学からの提供された研究費もその予算のひとつであるから、たとえ名目上が海底地震計の売却費となっていても、観測費用に使われている限り、観測費全体の中のどの部分に使うかは、観測の実施・結果の責任をとる者、即ち島村教授の決定権限の範囲であり、誰かが異論を挟む筋合いのものではない。

この判断を誤れば、結果として観測(研究)の機会を失するからである。

例えば、以前、島村教授から海底地震観測の苦労をきいた時の話が下記である。

●a.2000年の話だが、パリ大学と共同研究の際、フランス海軍の観測船にカリブ海に行ってもらって、海底地震計の設置や回収をする計画で、相手とも打ち合わせを終っていた。ところが、直前になって中米諸国の大雨で沿岸に大災害が起きてしまった。

フランス海軍の船は急遽、海上に押し流された人々の救援に向かうことになって、この共同観測はフランス側も含めて全部を中止せざるを得なくなった。

これは、何年も前から計画を積み上げてきていた共同研究で、パリ大学側が陸上の地震計を、島村教授側が海底地震計を持ち寄って行う大規模な実験計画であったが、残念ながら実施できなかった。

●b.同じく2000年にノルウェーとの共同観測を計画していた際に、研究者を派遣する旅費の予算が確保できなかった。

ところが、既にノルウェー側では観測船や人工震源(エアガン)の手配が進んでおり、いわば動き出していた共同観測を取りやめることにもなりかねず、このままでは、将来を含めていろいろ不都合が生じる畏れがあった。

このときは、幸い、ノルウェー側からの研究費があったおかげで、複数の日本人研究者をノルウェーに派遣することが出来て、観測を行うことが出来た。

以上から、海底地震計の代金という名目で、従来からもベルゲン大学から提供されていた研究費の延長線で受け取った研究費を地震計の購入に充てず、地震計の購入以外の海底地震観測に必要な費用に使ったとしても、それは観測の責任者としての権限の範囲であり、相手を騙したことにも、北大の資産を勝手に売ったことにも、まして証拠のない私腹を肥やしたことにも繋がらないことはおわかり頂けると思う。

(5) ベルゲン大学の形式的な所有を裏付ける事実!

なお、今回ベルゲン大学が売却代金として払ったとされる金額は、海底地震計5台とトランスポンダー1台で計約2,000万円、1台あたり概算で約400万円とされるが、企業で製品開発に携わってきた経験から言うと、手作りともいえる特注品としては驚くほど安い。

多分、開発にかかった費用はもちろん、組み立て・調整費用などは含めず、単に、(海底地震計を更新したりする際の)構成部分の購入金額だけを合計した金額であろう。この金額は、前にノルウェー側が海底地震計を紛失してしまった際、損失額を補償する話があったが、その時算出した実費とほぼ同額とのことだった。

つまり、製品として海底地震計を売買するときの値段とは言えない値であり、従来からの研究費の提供の延長線上という認識が双方にあるから、こんな金額になったと考えれば理解できる。

さらに、もしベルゲン大学が保有して自分達で実際に使用する考えだったなら、(2)で述べた海底地震計の特徴からも判るように、補給・交換部品等が必要不可欠であるが、今回購入分の海底地震計には、全く含まれていない。

このことは、ベルゲン大学は海底地震計を実際に所有して自分達で研究に使用する事は、初めから全く考えていないことを示している。

以上から、ベルゲン大学が海底地震計を購入したのは、(研究費獲得の際などに批判をかわし、有利なように)あくまでも形式的に保有していることを主張するためであるという島村の主張、また、その購入代金は従来から行われていた研究費の提供の延長線上のものであることを裏付けている。

(6) 海底地震計が必然的に、常に北大の予算で整備、購入される理由!

海底地震観測(測定)には、先ず、ハードウェアである海底地震計は不可欠である。そのためには、正常に作動する海底地震計を必要台数分(何十台の単位)だけ常に確保しておく必要がある。毎年、年度予算、又は別途申請する研究補助金で海底地震計の更新、追加、修理を優先せざるを得ないことは想像に難くない。

従って、海底地震計の開発、改良がほぼ終了したある段階からの海底地震計は北大の予算(研究補助金も北大経由となる)で、北大から発注、納入されたものであるのは当然である。

しかるに、検察側は海底地震観測に要する費用全体の中での海底地震計にかかる費用という関連(費用配分)を無視して、海底地震計が何処の費用で取得されたかという部分だけに矮小化して論理を組み立てている。これは、研究を真摯に進めようとして行った事実を歪曲しようとしているという疑念を禁じ得ない。


5.北大の告訴の目的に対する疑念
今回の事件は、既に北大の手を離れているとはいえ、北大の告訴で始まったのは事実である。

上記4に述べた様に、ここまで事の真相が判ってくると、「北大は一体何の目的で、何を得ようとして告訴に踏み切ったのであろうか?」という疑念が頭から離れない。しかも相手は、北大在籍中に、世界的にも一流の研究実績を積重ね、北大の名を高からしめた研究者に対してである。

大学も独立法人化が進められており、研究成果を大学の所有物として確保することも必要だろうが、その前にもっと重要なことは、「世界に認められる研究実績をあげる」ことであり、これは従来と些かも変わっていない。しかし、今回はその逆をやっているのではないかとの疑念が先ず湧いてくる。

告訴などという非常手段を採る前に、大学内で公正な立場できちんと調査し、制度上等の問題があれば双方が改めるべき所は改めるという、将来をも見据えた処置を執るべきではなかったのか、それが、北大という伝統ある成熟した組織の本来採るべき道ではなかったのかと残念に思う。

告訴の根拠となった北大の調査結果報告書を精読しても、公正な立場できちんと調査したとはとても理解できない。

島村教授が研究を進める過程で遭遇した事情については全く考慮されておらず、むしろ、最初から「不祥事ありき」との結論を持ち、弾劾する為に行った調査の感が強い。

しかも人一人を弾劾しようとしているのに、公正を期すべき調査側(調査委員会)の人選の経緯、個人名については報告書には一切記載されておらず、責任の所在も定かではないという代物である。

長くなるので、この件については別途、稿を改めて述べてみたい。

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ノンフィクション・島村英紀の獄中記
海底地震計・海底地震観測とはどのようなものなのだろう
悪妻をもらうと哲学者になれるなら:海底地震学者は「哲学者」になれる
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誰も書かなかった北海道大学
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