島村英紀の裁判通信・その10
(2006年9月26日に配信)

第7回公判・弁護側主尋問と弁護側冒頭陳述)


皆さまにとっては台風みたいなものでしょうが、連続して次の「通信」を送ります。

北海道の友人から、9月19日の第7回公判傍聴報告が届きました。よく整理されていますので、わかりやすいと思います。

またそのときの「弁護側冒頭陳述」要旨も手に入りましたので掲載します。島村が、なにを反論し、なにを認めたかがよくわかります。

この中で島村は、「手続きに不備があった(北大に外国からの送金を受け取る仕組みがなく、個人口座に入れざるを得なかった)」ことだけを認めているのです。

冒頭陳述(通称「冒陳」)がこんなに平易な言葉で書かれているとは知りませんでした。とても長い文章ですが、島村弁護団が、なにを争点にしているのかよくわかりますので、皆さまにも送ります。

なお、前回の「裁判通信 9」と併せ読んでいただくと、この裁判への疑問点がはっきりしてきます。
<編集部>

<第7回公判傍聴記>
●第7回公判報告 9月19日 13:30 - 17:10
1 弁護人による冒頭陳述。

・刑事事件については無罪の主張。

・係争中の民事裁判の和解勧告については、ベルゲン大学からの金銭を私用の口座に入れて置く等不適切な部分もあるため、和解勧告を了承した。

2 島村氏の業績についての弁護側の尋問。

@海底地震計について、部品ごとの機能と形態、無償供与の数等について尋問があった。

・メーカーからは相当数の部品供与があり、どこまでが校費や事業費で購入した物かわからなくなっている。したがって、所有権は北大にあることの特定が不可能である。


A島村氏の大学院生時代から北大退職に至るまでの期間の研究内容や、業績について尋問があった。

・日本に大地震をもたらす、ユーラシアプレートの東端に位置する終点が日本海であること。ユーラシアプレートの西端がノルウェー沖の大西洋中央海嶺であること。従ってノルウェー辺りの海底を調べることは、日本の地震の研究にとっても大事なことであることが良く理解できた

。また島村氏が我々にとって如何に大事な学者であったのかが理解でき、そして、そこには守旧派の地上測定派と、革新派の海底測定派(通称島村グループ)との確執も垣間見られた。

B地震計売却の経緯についての尋問。

・地震計売却の要請はベルゲン大もセレボール教授からあり、一度は断ったが、ノルウェーの研究を絶やさないためにも、自分たちの研究のためにも了承した。

これはあくまでも形式上の売買だという確認であり、そのことはセレボール教授やミエルデ教授とも確認済みのことである。

・「学者にとって地震計は武器である。他の学者は敵である。武器を敵に渡すことは通常はありえないことである」 と言う島村さんの発言は凄みがありました。イギナーシ!

・何時ものこと。感想と経緯がゴッチャニなってしましました。弁護側の尋問ですので出来レースの感がありましたが、なかなか巧みな演出ではなかったかと思います。上出来です。但し、売買は形式上のこと、という事の証明は相当困難なことでしょう。私が感激した心情を裁判官がどのように受け取ったのでしょうか。

次回は9月26日。11:00-12:00弁護側尋問、14:00-17:00検事尋問の予定です。後半戦に注目!!

<弁護側の冒頭陳述書>

平成18年(わ)第173号冒頭陳述要旨

被告人 島  村  英  紀
上記被告人に対する詐欺被告事件につき,弁護人が証拠によって証明しようとする事実は以下のとおりである。
平成18年9月19日

札幌地方裁判所 刑事第3部合議係 御中
主任弁護人 尾  崎  英  雄
弁護人   島  津  宏  興
弁護人   磯  田  丈  弘
弁護人   鈴  木  一  嗣

第1 海底地震計の帰属について
 1 はじめに
本件で問題となっている海底地震計は,メーカーで一般に製造・販売されている既製品ではありません。また,海底地震計を構成している部品もその大半が特注品であり,単に既製品を組み立てるだけのものではありません。

海底地震計の製造自体が,より良いデータを採取するための研究活動の一環であり,長年にわたる被告人の研究活動の成果です。そして,本件の海底地震計は被告人のオリジナル製品だということです。

 2 海底地震計開発史

(1)研究グループの存在と北大海底地震観測施設の位置づけ

日本において,海底地震を専門とする研究者・職員の数は限られていることもあり,被告人の所属していた北海道大学では,東京大学(理学部,海洋研究所,地震研究所),東北大学(理学部),千葉大学(理学部),神戸大学(理学部)等に所属する研究者との共同観測,共同研究を行ってきました。その結果,これら大学の枠を超えた研究者のグループが形成されてきたわけです。
昭和54年,国は,全国の海底地震観測の拠点となるべき研究室(海底地震観測施設)を北海道大学に設置することとなりました。この観測施設は,単に北海道大学の一施設ではなく,全国の海底地震研究者の共同利用のための施設でした(同様の施設として,東京大学の地殻化学実験施設がありました。)。

被告人は,同年,同観測施設の助教授となり,昭和63年,教授に昇任しました(なお,同観測施設は,平成10年,北海道大学地震火山センターに統合されました。)。

そのような経緯もあり,被告人は,日本における海底地震研究者グループの実質的なリーダーとして,長年にわたり活躍してきました。

(2) 海底地震計開発の歴史

ア 日本における海底地震計の開発は,昭和43年ころ,被告人が東京大学理学部大学院生(博士課程)の時代に,被告人の恩師である浅田敏東京大学教授を筆頭とする研究チームによって始められたものです。

その開発は,それから40年近くが経過した現時点でも道半ばということができます。
イ 海底地震計は,陸上の地震計とは異なり,水圧の大きい海底に設置して正確なデータを記録し,確実にこれを回収できなければならないという点で,超えるべきハードルの高い観測機器ということができます。

要点だけをごく簡単に指摘するとすれば,以下のような点が挙げられます。

第一に,水圧に耐えられ,かつ,浸水しない容器が必要となります。被告人らは,ガラス球を用い,その内部を減圧状態にすることで目的を達することができることを発見しました。

第二に,海底に沈めるために一定の重量が必要となる一方,データ採取後はこれを引き上げなければなりません。被告人らは,錘をつけて海底に沈める一方,最終的にはガラス球が錘を切り離して自力で浮上してくるシステムを開発しました。

第三に,データ採取に当たっては,長時間の正確な振動を記録できることが必要で,海流の影響を受けたり,機器自身の発する音や振動が影響しないようにしなければなりません。被告人らは,録音テープ(アナログ・デジタル)やハードディスク等のデータ記録方法について,開発を重ねてきました。

第四に,地震計は確実に回収できなければなりません。被告人らは,海底地震計が電波と光を発することで,広大な海面での捕捉が可能となるような開発をしました。

 3 本件海底地震計の構造上の特殊性

(1)本件海底地震計の構造

本件海底地震計は,大きく分けて7つの部品で構成されています。

すなわち,@レコーダー,A地震計センサー,Bガラス球耐圧容器,C電池ボックス,Dトランスポンダー,E脚部,Fリリーサーの7つです。

(2)各部品の特殊性

これらの部品は,その大半が特注品であり,海底地震計の一部を構成する以外に汎用性はありません。

特に,海底地震計の心臓部であるレコーダー,地震計センサー,トランスポンダーは,いずれも被告人らのアイデアと実験を通して得られた経験に基づいて,各メーカーにおいて製造された物です。

そして,開発の途上においては,被告人が自ら購入した部品で見本品を製造したり,メーカーが製造した見本品を実際に海底地震計の部品として使用しており,その後に大学が購入した部品と混同を生じています。

したがって,海底地震計の部品がすべて北海道大学の購入したものとは限らないのです。

 4 本件海底地震計の民法上の所有権の帰属

(1)加工による所有権の取得

このように,海底地震計は被告人をはじめとする研究者のアイデアによって製造された物であり,その全体の所有権は,部品の所有権の帰属を超えて,被告人にあるのではないかと考えます。

これを法的に構成するとすれば,民法246条1項に規定する加工による所有権取得になります。

(2)本件海底地震計の価値

加工の規定が適用されるためには,「工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超える」ことが必要です。

海底地震計は,平成9 - 10年当時,一般に市販されているものではなく,その価値を計ることは困難です。しかし,平成元年ころ,被告人がセレボール教授の依頼に応じて日本電気海洋エンジニアリング株式会社で製造・販売していた海底地震計の価額を調査したところ,その金額は本体価額で1台1510万円(周辺機器を含んだ場合,3795万円)の回答がなされています。

そして,被告人らが海底地震計開発に費やしてきた期間を考慮すると,海底地震計を一企業が市販するとすれば,その程度の金額になることには十分な合理性が存在します(なお,近時,海上保安庁によって海底地震計の大量発注があり,値崩れが生じているようです。しかし,これは,製造する企業がその開発を大学に委ね,自ら開発研究費を負担していないという事情があり,これをもって海底地震計の価格を正確に反映したものとはいえません。)。

したがって,工作によって生じた価格は,材料の価格を大きく凌駕するものと言えます。


第2 欺罔行為の不存在     注・・欺罔(きもう)=だますこと
 1 被告人の主張の概要

仮に,本件海底地震計の所有権が北海道大学に帰属するとしても,被告人には,これらを何処に,どのように保管するかについて,決定する権限がありました。

そして,被告人とミエルデ教授との間の契約は,法的には売買ではありません。その契約内容は,被告人が10台程度の海底地震計を継続的にベルゲン大学に保管させ,被告人との共同研究を行う限りにおいて必要に応じベルゲン大学の研究グループがこれを使用することを被告人が許諾するところにあります。これを法的に言えば,有償の無名契約(以下,「本件契約」)ということができます。

そのため,本件契約を締結することは被告人の権限内に属する行為ですから,被告人は,その権限に関して欺罔行為を行ったことはなく,ミエルデ教授にも錯誤は存在しません。

 2 本件契約に至る経緯

(1)当初の被告人の反応

ベルゲン大学では,1980年代末ころから,海底地震計の保持に関心を持ち,ミエルデ教授の前任であるセレボール教授が被告人に対して市販されている海底地震計の価格調査を依頼したこともありました(なお,このときの海底地震計は,性能的にも,金額的にも,ベルゲン大学の望む条件に合致しませんでした。)。

しかし,1990年代後半に入り,ベルゲン大学側の事情が変化しました。ベルゲン大学では,日本の大学と異なり,大学独自の予算が極めて少なく,EUや企業等から研究資金の拠出を受けて研究を行っておりますが,自己所有の研究装置を持たない場合には,この研究費の拠出を受けられなくなるというのです。そのため,セレボール教授は,被告人に対して,その開発した海底地震計の有償譲渡を打診してきましたが,被告人は主に以下の2点の理由により,これを拒絶しました。

第一に,海底地震計は被告人の研究の成果物であると共に,データ採取という重要な研究の武器です。そのため,これを売り渡すということは,自らのノウハウのつまった研究の武器を競争関係にもなりうる研究者に渡してしまうことになるからです。

第二に,海底地震計は開発の途上にあり,常に改良を重ねている未完成品です。被告人らの手を離れた場合,正確に作動することを保証することはできません。そのため,被告人としては,そのような状態の海底地震計を,あたかも完成品のごとく譲渡して評価を下げることは避けたいと考えていたからです。

(2)ベルゲン大学側の事情の変化と妥協点の発見

平成8年ころ,前述のような研究費打ち切りの時期も迫ってきたこともあり,セレボール教授は,被告人に対して,実質的な状態は従前どおりで構わないので,海底地震計を売った形を取ってくれないか,と依頼するようになりました。

ベルゲン大学に対する研究費支給が打ち切られた場合,被告人としては,ノルウェーでの共同研究が不可能となり,自らの弟子たちの論文発表の機会が失われるばかりか,同じ研究を行ってきたセレボール教授らを見殺しにすることになります。

被告人としては,仮に海底地震計を売却するという外形を取ったとしても,その実質的な所有が自らに残るのであれば,これに協力することも吝かではないと考えるようになりました。すなわち,被告人の意思に基づいた使用を妨げられることなく,かつ,その実質的な管理が被告人に委ねられるのであれば,自らの研究に支障はないと考えたのです。

そこで,平成8年6月ころ,被告人は,セレボール教授の依頼に応ずることにしたのです。

なお,ミエルデ教授は,当時,ベルゲン大学の正職員ではなかったことから,被告人との交渉はすべてセレボール教授が行っていました。また,ミエルデ教授が助教授に就任して以降も,セレボール教授は若いミエルデ教授の後見的立場で関与していたのです。

(3)合意内容の具体化

このように,当初の「売買」に関する合意内容は,明確なものではありませんでした。その後,ベルゲン大学が現実に対価を取得した後ころから,徐々に具体化して行ったのです。

平成9年末ころから平成10年初頭にかけて,被告人はミエルデ教授から海底地震計数台分の製造費用に相当する金額を準備したとの連絡を受けていました。その過程の中で,被告人は,ミエルデ教授から,一定数の海底地震計をベルゲン大学に置いてもらえないか,と依頼を受けるようになりました。

被告人としては,海底地震計の実質的な所有が変わらないのであれば,主要な観測を行っているノルウェー沿岸地域に近いベルゲン大学に置くことにより,梱包の手間,輸出入手続の煩雑さ,移動に伴う亡失・破損のリスク,及び輸送費の節減を図ることもできます。

そこで,被告人は,ミエルデ教授に対して,平成10年5月ころ,日本で行う観測の妨げにならない程度の台数として4台の海底地震計を同年に行われる共同観測の後,ベルゲン大学に置いてくることを伝えました。但し,4台という数字は,同観測において亡失する海底地震計がほとんどないことが前提でしたので,実際に4台を置いてくることになったのは,観測終了後の同年9月ころということになります。

(4)平成11年に9台の保管を委ねた経緯

平成11年3月ころ,ポーランドの研究者から,同年中に北極海で行われる共同観測への参加を求められ,これに応ずることにしました。被告人は,その観測に合計で10台程度の海底地震計を使用する必要があると考えたため,同年4月から5月にかけて行われるベルゲン大学との共同観測の後も,前年に保管を委ねた4台に加え,4?5台の保管をベルゲン大学に保管させる予定で,日本からベルゲンに海底地震計を送ったのです。

結局,共同観測後の状況とその後のポーランド等との共同観測に使用する海底地震計の台数から,被告人は合計で9台の海底地震計をベルゲン大学に保管させることになりました。
そして,このころまでに,この程度の台数をベルゲン大学に保管させることが本件契約の具体的内容として形成されるに至ったのです。

 3 本件契約の実態

(1) はじめに

ミエルデ教授は,この裁判で,ベルゲン大学が北海道大学から本件海底地震計を買った旨証言しています。確かに,ベルゲン大学が海底地震計を買おうとして資金を準備したこと,被告人から海底地震計の価格を記したインボイスが発行され,これにしたがって送金処理がなされていることは事実です。それだけを捉えると,単純な売買契約がなされたかのような印象を 受けられるのも,無理からぬところです。

しかし,本件の実態をつぶさに観察すると,先に述べた条件を含む以下のような特殊な事情があります。そのため,本件契約を売買という概念に含めることができないものではないかと考えます。

(2)本件契約の目的物の特殊性

ア 海底地震計の構造上の特殊性

(ア)ベルゲン大学が保管するとされる海底地震計は,特定されたものではありません。これは,被告人らが開発した海底地震計の構造上の特殊性から来るものです。

これを具体的に説明すると以下のようになります。

被告人は,ある時はAという海底地震計をベルゲン大学に置き,ある時はBという海底地震計を置くことがあります。ところが,Aという地震計は,abcという部品で構成されることもあれば,defという部品で構成されることもあります。そして,aという部品が日本にあるCという海底地震計の部品として使用されることもあれば,ある時にCの一部を構成していた部品がBという海底地震計の部品となることもあります。さらには,abcという部品で構成された海底地震計がDという海底地震計になってベルゲン大学に保管されることもありうることになります。

また,当初海底地震計の一部を構成していたaという部品は,改良によってeという部品となって海底地震計を構成することもあるのです(より具体的に言えば,データを読み込む媒体がアナログ磁気テープからデジタルオーディオテープに変わったという事実があるのです。)。

(イ)しかも,ベルゲン大学にAという海底地震計を置くかBという海底地震計を置くか,あるいはAという海底地震計を引き上げDという海底地震計を代わりに置くか,といったことは全て被告人が決定しうることです。

また,Aという海底地震計を構成すべき部品をabcという部品にするのか,defという部品にするのかも,被告人が決定しうることです。

(ウ)以上のとおり,ベルゲン大学に置かれる海底地震計は,変幻自在のものであって特定不能です。

したがって,本件契約において被告人が負担する義務は,特定された海底地震計の所有権をベルゲン大学に移転することにはないことが明らかです。

イ 保管されるべき台数の特殊性

(ア)保管台数の不特定

ベルゲン大学に保管される海底地震計の台数も,特定されてはいませんでした。

ベルゲン大学に置かれた海底地震計は最大で9台ですが,亡失や修繕のために徐々に台数が減り,最終的には6台になっています。これらの点について,被告人とミエルデ教授との間に,特段の合意や取り決めはありませんでした。

(イ)保管台数と金員との因果関係

被告人がベルゲン大学に保管させる海底地震計の台数と,ベルゲン大学から支払われるお金との間に,因果関係は存在しません。なぜなら,被告人が,ベルゲン大学に保管を委ねる海底地震計の台数は,被告人がベルゲン大学以外との共同研究等で使用する台数も考慮の上,ミエルデ教授と協議して逐次決定することとされていたからです。そのため,必ずしも保管台数と対価との整合性はありません。

具体的に言えば,被告人は,ミエルデ教授と協議の上,平成10年の観測後には4台,平成11年の観測後には更に5台(合計9台)をベルゲン大学に保管を委ねることとしました。しかし,被告人は9台分に相当するお金をもらったことはないのです。

ウ 保管状況における特殊性

ベルゲン大学に置かれていた海底地震計は,その実質的管理を被告人を含む日本人研究者が行っていました。

すなわち,各部品の状況の確認やメンテナンスの必要性の判断は日本人研究者が独自に行っていました。そのため,ベルゲン大学では海底地震計を大学内の倉庫に保管しているものの,実質的管理を行っていたとはいえません。

(3)合意内容の特殊性

売買の場合,目的物の所有権は移転し,その結果買主に使用・収益・処分権限が完全に移転します。

しかし,本件の場合,以下のとおり,ベルゲン大学に排他的使用・収益・処分権限は認められません。そのため,契約の効果からしても,本件契約が売買ではないことが明らかです。

ア 使用権限

(ア)そもそも,本件海底地震計は,技術的問題からベルゲン大学が単独で使用することができません。すなわち,本件海底地震計は,被告人と北海道大学で被告人の教えを受けた西村裕一助手と村井芳夫助手しかその組立,操作(設置及び回収),及び収集したデータの第一次解析ができないのです。

その結果,ベルゲン大学が独自の研究のために本件海底地震計を使用しようとしても,被告人らの協力を得なければ実現は不可能です。

(イ)また,ベルゲン大学が本件海底地震計を独自の研究のために使用する場合,被告人の許可を得なければなりません。

例えば,平成12年7月,ミエルデ教授は,アメリカ人研究者から本件海底地震計を使用した共同観測の提案を受けました。ミエルデ教授は,非常に乗り気ではあったものの,被告人がこれに消極的だったこともあって,この共同観測は実現しませんでした。

(ウ)更に,ベルゲン大学は,本件契約後も本件海底地震計について,被告人の必要に応じた使用を認容することとなっています。

そして,この合意に基づき,被告人は,平成13年8月と11月に実施したパリ大学との共同観測であるトルコ・マルマラ海沖(8月)とカリブ海沖(11月)の観測で,共同研究者ではなかったミエルデ教授に依頼し,ベルゲン大学に保管されている海底地震計全部を現地に送付してもらい,使用したのです。

(エ)したがって,ベルゲン大学には本件海底地震計の排他的使用権限はなく,排他的使用の可能性もありません。

イ 収益権限

本件海底地震計の果実は採取されるデータです。

そして,本件海底地震計は上記のように被告人を含む日本側との共同使用が必須である結果,そのデータも単独で使用することができず,論文の作成に当たっても必ず被告人を含む共著にならざるを得ません。

したがって,排他的収益権限はないのです。

ウ 処分権限

本件契約は,ベルゲン大学に海底地震計を置き,上記のとおり限定された使用収益権限を付与するものに過ぎません。そのため,ベルゲン大学に処分権限までも与えられたものではありませんし,ベルゲン大学もそのような事態を前提とはしていません。

 ●4 売買契約の外形とその趣旨

(1)インボイスの発行の趣旨

ベルゲン大学が本件契約の対価を被告人に対して支払うに当たっては,被告人がインボイスを発行しています。

しかし,そもそも支払われる対価はベルゲン大学側で定めたものですし,インボイスの記載事項や形式等はベルゲン大学の経理処理を可能にする目的で,ミエルデ教授の指示に基づいて被告人が作成したものに過ぎません。

したがって,被告人が,積極的に金銭の支払いを要求する手段としてインボイスを作成・発行したものではないのです。

(2)支払われる対価の趣旨
本件契約の対価は,将来にわたる海底地震計の性能維持・改良開発のための研究資金でした。

すなわち,被告人は,観測で使用した海底地震計のうち,メンテナンスの必要のない部品をベルゲン大学に保管させると共に,メンテナンスや改善の必要な部品については日本に持ち帰った上,これらの処理を施した上で,ベルゲン大学に送付していました。その結果,ベルゲン大学に保管させる部品は,被告人を含む日本の技術者が組み立てることにより,直ちに使用に供することができる状態にありました。

また,海底地震計は常に改良を加えていることから,日本において改良がなされた場合には,その改良品をベルゲン大学に保管させることとしていました。

これらのメンテナンスや改良のための研究は,被告人が北海道大学に所属している時点では,資金的なサポートはなされていました。しかし,被告人の停年退官までさほど時間がなかった上,被告人の後継者はベルゲン大学と共同研究に熱心とは言いがたい状況でした(現に,被告人退官後,北海道大学とベルゲン大学との共同研究は急速に縮小されています。)。

そこで,被告人としては,退官後の海底地震計開発研究費用を確保する必要があり,本件の契約を有償のものとしたのです。

(3)個人口座で管理をしていた理由

本来,ベルゲン大学から支払われた対価は,委任経理金として処理をすべき金員です。

しかし,被告人は,以前,北海道大学の経理との間でこの点を協議した経験がありましたが,経理の方からは明確に受領できないと拒否されました。また,委任経理金自体,使途が限
定されるなどの問題が多く,将来にわたる海底地震計開発費用の管理方法としては適切ではありませんでした。

そのため,個人口座において管理をしていたのです。

第3 まとめ
 1 以上のように,被告人は自己の権限についてミエルデ教授を欺罔したことはありませんし,ミエルデ教授も被告人の権限について錯誤に陥った結果,対価の支払いに応じたものではありません。

現に,本件海底地震計は,本件合意に基づいて,ベルゲン大学で保管され,北海道大学とベルゲン大学の共同研究のために使用されているのです。

 2 しかし,海底地震計を構成する部品の大半が,被告人の私費によって購入されたものでも被告人の個人所有のものでもない,という状況からしますと,ベルゲン大学から支払われた対価を被告人の個人口座において,被告人固有の財産と混同して管理をしていたこと自体は,適切な経理処理とはいえません。この点において,被告人にも落ち度は認められます。

そこで,被告人は,北海道大学から訴訟提起されている民事訴訟において,裁判官の和解勧告に従い,相当額を北海道大学に返還する予定でおります。
以上

次回公判は9月26日、島村英紀本人への弁護側、及び検察側の尋問が行われます。

なお読者の皆さまの中には、私どもが勝手に送りつけている方もいらっしゃいます。最初は島村裁判に興味を持っていただける方という想定で送りました。

立場が変化して(転勤など)「受けるのが面倒」という方もいらっしゃるかもしれません。「年を取ったから長文は読みたくない」という方もいらっしゃるかもしれません。

そんなときは、どうぞご遠慮なく「裁判通信の配信中止」と連絡してください。

またどなたに送っているかは、私たちと島村本人以外は知りませんが、最近、読者の方が、仕事場のパソコンで上司に盗み読まれていた事件も起きました。どうかご注意ください。

私たちは自分の責任でこの「通信」を制作し、発信者及び島村英紀が面識がある方にのみ送っています。

「友だちの友だちはみな友だちだ」というテレビの古い流行語を持ち出すまでもなく、皆さまがご自身の責任で友人に転送していただくことは自由です。

私たちは日本の北の隅で、あまりにも無体な裁判が進行していることを、多くの方に知っていただきたいと思っています。どうかよろしくお願いします。

●毎日新聞 06/9/20
極地研前所長詐取:「売買でない」と被告は無罪主張 -- 公判 /北海道

北海道大・地震火山研究観測センター長に在職時、国所有の海底地震計5セットを売却すると装ってノルウェーのベルゲン大教授から現金約2000万円をだまし取ったとして詐欺罪に問われた前国立極地研究所所長、島村英紀被告(64)の公判が19日、札幌地裁(井口実裁判長)であった。

被告人質問で島村被告は「売買ではなく、地震計を同大学に置いておくという契約だった」と無罪主張の理由を説明した。

弁護側のこの日の冒頭陳述によると、契約の背景には、自前の地震計を所有しなければ民間企業から研究費を受けにくいベ大側の事情があった。島村被告は共同研究を続けるため、形式だけの売買契約を結び、同大で地震計を保管する妥協案を受け入れたという。

弁護側は「国所有の地震計であっても、どう保管するかを決める権限は島村被告にあった。べ大側も了解していた」と主張。島村被告の許可なしではべ大側は地震計を使用できなかったことを根拠に「べ大が支払った金は研究資金だった」と述べた。【真野森作】

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悪妻をもらうと哲学者になれるなら:海底地震学者は「哲学者」になれる
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島村英紀が書いた「もののあわれ」

誰も書かなかった北海道大学
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