島村英紀の裁判通信・その21
(2007年1月25日に配信)

(判決文)


1月12日の判決以来、ご無沙汰してしまいました。

ようやく「判決文」を手に入れましたので、お送りします。懲役3年、執行猶予4年です。

日本の刑罰のなかでも詐欺罪は重いほうの刑罰で、刑期は最低でも3年です。携帯電話2台をだまし取って3年、という判決もありました。つまり、詐欺罪としては、もっとも軽い判決になります。

ところで、今回の裁判は、「研究費を横領した」ではなくて、「研究費を作るためにベルゲン大学をだました」という不思議な「詐欺」事件でした。それが本当なら、ノルウェーから告訴されるはずの国辱ものの裁判です。

検察側が一番恐れたのは、「だましていない」という証拠が出てくることだったのではなかったかと思います(そのために2度も家宅捜索をし、ベルゲン大関係者と連絡がとれないように長期拘留したのではないでしょうか?)。

検察はだましたという決定的な証拠を(ミエルデ教授の間接的な証言だけ)示すことができなかったし、弁護側も残念ながら「お互いに合意していた」という逆の証拠を示すことができませんでした。

しかし当事者・島村英紀としてはっきり言明することはできます。「私はだれもだましていない。いったい、だれがだまされて、だれが損害を被ったのか」と。

控訴期限は明日26日午後5時です。

最後の決断は島村英紀本人がしなくてはなりません。

「執行猶予中として安穏に生きるか」「名誉回復を求め被告人として苦しい裁判を続けるか」の選択です。もちろん「検察側控訴」という事態もあります。

いや、「安穏に」といっても、島村のことですから、次々に研究に手を出すでしょう。ノルウェーとの共同研究は再開できないでしょう。先方に置いたままの海底地震計を操作し解析する人間がいないのですから。北大も同じです。ベルゲン大にとっても北大にとっても、なんと無意味な裁判だったのかと思います。

しかし島村によると、アルゼンチンなどからは、中断したままの氷河崩壊の研究を早く再開してほしいとの依頼がきているといいます。地球温暖化阻止のためには研究続行が望まれます。

「執行猶予」に条件はついていませんが、海外へ行けるかどうかはまだわかりません。

どちらを選ぼうと、島村英紀が私たちの「友人」であることに変化はないでしょう。島村の決定、及び声明は週末にお伝えできると思います。
<編集部>

<判決文に対する編集部の注>

判決文を下記に表示しますが、(出席検察官)について、下記文章では 佐藤有紀 と記されていますが、実際に出席していたのは 小嶋検事 であったと、被告、弁護人共に述べていることを注記しておきます。この他にも間違いがあり、文中に指摘しておきました。

判決
平成19年1月12日宣告 裁判所書記官 太田 剛人
平成18年(わ)第173号 詐欺被告事件
判決
本籍 **********
住居 **********
無職
島村 英紀
昭和**年**月**日生
(出席検察官)佐藤友紀
(出席弁護人)尾崎英雄[主任],島津宏興,磯田丈弘,鈴木一嗣(各私選)

主文

被告人を懲役3年に処する。
未決勾留日数中80日をその刑に算入する。
この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由
(犯罪事実)

被告人は,北海道大学に勤務し,同大学大学院理学研究科附属地震火山研究観測センター長(教授)として,ノルウェー王国所在のベルゲン大学との間で海底地震に関する共同研究を行うに当たり,北海道大学が管理する国有財産である海底地震計等を同大学からノルウェー王国に搬送していたものである。

第1 被告人は,平成10年9月ころ,ノルウェー王国内において,ベルゲン大学教授ロルフ・ミエルデに対し,真実は前記海底地震計等を売却する意思も権限もないのに,それがあるかのように装い,かつ,売買代金名下に受領する金員については,北海道大学に納入する意思がなく,自己の用途に費消する意思であるのにその情を秘し,海底地震計4式及びその関連機器であるトランスボンダー親機1台をベルゲン大学に売却する旨言った上,同月25日ころ,札幌市内から同人に対して請求書を郵送して売買代金名下に金員の支払を請求し,同人に対してその旨思い込ませ,その結果,同年10月23日,ベルゲン大学に,売買代金名下に1651万6238円を札幌市中央区大通西3丁目10番地当時の株式会社第一勧業銀 行札幌支店の被告人名義の普通預金口座に入金させ,人をだまして財物を交付させた。

第2 被告人は,平成11年5月ころ,ノルウェー王国内において,前記ロルフ・ミエルデに対し,前同様に装って,海底地震計1式をベルゲン大学に売却する旨言った上,同年7月27日ころ,札幌市内から同人に対して請求書を郵送して売買代金名下に金員の支払を請求し,同人に対して前同様思い込ませ,その結果,同年8月30日,ベルゲン大学に,売買代金名下に374万6027円を東京都千代田区大手町1丁目1番3号シティバンク、エヌ・エイ大手町支店の被告人名義のマルチマネー口座の円預金に入金させ,人をだまして財物を交付させた。

(証拠の標目)

全部の事実について
・ 被告人の公判供述
・ 証人ロルフ・ミエルデ,同久保田学,同村井芳夫,同村重徹行,同半戸正方,同村上千恵子の各公判供述
・ 村重徹行(甲9[不同意部分を除く]),橋詰伸一(甲17,18[各不同意部分を除く]),村井芳夫(甲20,21[各不同意部分を除く]),久保田学(甲25[不同意部分を除く])の各検察官調書
・ 半戸正方(甲12[不同意部分を除く]),村上千恵子(甲13[不同意部分を除く])の各検察事務官調書
・ 捜査報告書(甲26,44,68)
・ 「Rapport om ransaking/beslag」と題する書面(甲1)
・ 「捜索/押収のレポート」と題する書面(甲2[甲1の翻訳文])
・ 「Illustrasjoner」と題する書面(申7)
・ 「イラストレーション」と題する書面(甲8[甲7の翻訳文])
・ 捜査関係事項照会書謄本(甲27,30,33)
・ 捜査関係事項照会回答書(甲28[不同意部分を除く],31,34)
第1の事実について
・ 電話聴取書(甲62)
・ 捜査関係事項照会書謄本(甲45)
・ 預金等調査事項回答書(甲46)
第2の事実について
・ 電話聴取書(甲63,64)
・ 捜査関係事項照会書謄本(甲57)
・ 回答書(甲58)

(争点に対する判断)
第1 弁護人の主張
弁護人は,本件海底地震計5式及びトランスポンダー親機1台(以下,合わせて「本件海底地震計等」という。)は北海道大学が管理する国有財産ではない,また,被告人とベルゲン大学教授ロルフ・ミエルデとの間の合意は,被告人が海底地震計10式程度を継続的にベルゲン大学に保管させ,必要に応じてこれを使用することを被告人が許諾するという有償無名契約であって,売買契約ではない,ミエルデもこのことを認識していたから,被告人による欺罔行為もミエルデの錯誤もなく,仮にミエルデが本件合意を売買であると認識していたとしても,ベルゲン大学には財産上の損害がなく,あるいはミエルデには錯誤がないから詐欺罪は成立せず,被告人は無罪である旨主張するので検討する。

第2 争いがないか証拠上容易に認められる事実
関係各証拠によれば,以下の各事実が認められる。

北海道大学とベルゲン大学は,昭和62年(1987年)ころから,海底地震の共同研究を始めた。当時の北海道大学の責任者は被告人であり,ベルゲン大学の責任者はセレボール教授であった。ミエルデは,昭和63年(1988年)9月から,共同研究に参加し,平成4年(1992年)以降はベルゲン大学側の責任者であった。共同研究の際には,北海道大学大学院理学研究科附属地震火山研究観測センターの物品供用官であった被告人の指示によって,北海道大学で保管されている海底地震計及びその関連機器がノルウェーに搬送された。ベルゲン大学側は,平成7年(1995年)ないし平成8年(1996年),被告人に対して,ノルウェーの石油会社やEUからの資金提供の獲得を有利に運ぶため,海底地震計を購入したい旨申し入れた。ミエルデは,同年10月31日,ノルウェーの石油会社3社に対して,5式の海底地震計を購入する資金として150万クローネの提供を要請したところ,ノスクヒドロ社がこれに応じた。ベルゲン大学は,ノスクヒドロ社に対して,同年12月10日に50万クローネのインボイスを,平成9年(1997年)12月2日に100万クローネのインボイスをそれぞれ作成して送付し,同社からベルゲン大学に合計150万クローネの入金があった。ミエルデは,同月15日,被告人に対し,「あなたの海底地震計を5台購入するのに十分な資金になることを願っている」旨記載されたメールを送信した。平成10年(1998年)7月から8月未にかけて行われた北海道大学とベルゲン大学との共同観測の後,北海道大学から運ばれて観測に使用された海底地震計の部品のうち,ガラス球,DAT式レコーダー,地震計及び電池ボックス,トランスポンダー各4個がベルゲン大学に残置された。被告人は,同年9月25日ころ,ミエルデに対し,「4 complete digital Ocean Bottom Seismographs」(デジタル海底地震計4式)という文言及びその価格が日本円で示されたインボイスとともにその価格の内訳表を送付した。その内訳表には,トランスポンダー親機を含む海底地震計を構成する部品名とそれぞれの単価,個数,各部品毎の小計金額及び合計金額が記載されている。ベルゲン大学は,同年10月19日,被告人が指定した第一勧業銀行札幌支店の被告人名義の口座にインボイスに記載されていた金額である1652万4500円を振り込み,同月23日,同口座に1651万6238円が入金された。平成11年(1999年)4月末から5月末にかけて行われた北海道大学とベルゲン大学との共同観測の後,同観測のため北海道大学から運ばれ,観測に使用された海底地震計の部品及び前記ベルゲン大学に残置された部品のうち,デジタルレコーダー8台と地震計,ガラス球及び電池ボックス,トランスポンダー各9個がベルゲン大学に残置された。被告人は,同年7月27日ころ,ミエルデに対し,「1 complete digital Ocean Bottom Seismographs」(デジタル海底地震計1式)という文言及びその価格が日本円で示されたインボイスとともにその価格の内訳表を送付した。その内訳表の記載事項は平成10年に送付したものと同様である。ベルゲン大学は,平成11年8月30日,被告人が指定したシティバンク、エヌ・エイ大手町支店の被告人名義の口座にインボイスに記載されていた金額である374万7900円を振り込み,同日,同口座に374万6027円が入金された。なお,被告人は,本件海底海底震計(編集部註:これは明らかに「海底地震計」の間違い)等をベルゲン大学に売却する意思はなく,ベルゲン大学から被告人の口座に振り込まれる金銭を北海道大学に納入する意思もなかった。

第3 本件海底地震計等の所有権の帰属
1 各関係者の供述及びその信用性
 本件当時前記地表火山研究観測センターの助手であって,現在も同様の立場にある証人村井は,要するに,「平成14年12月,被告人がベルゲン大学に海底地震計を売却したことを知り,売却した海底地震計が北海道大学のものか否かを確認するため,北海道大学が海底地震計の部品を購入している業者,具体的にはレコーダーを作っているシステムブレイン,ジンバル付きの地震計を作っている勝島製作所,ビーコン,フラッシャーを納入している三興通商,トランスボンダーやガラス球等を納入している海洋電子及び脚部を作っている三ツ矢農水にそれぞれ電話等で確認したところ,各業者から北海道大学が国庫振込以外により海底地震計の部品を購入したことはない旨の回答を得た。」旨供述する。証人村井は,過去の資料をもとに各業者に問い合わせた結果を供述するもので,その供述内容は客観証拠と整合し,同人には何ら虚偽供述をする利益もうかがわれないのであるから,その供述は信用性が高い。

 また,北海道大学に対し,平成6年(1994年)ころからDAT式レコーダーを納入している株式会社システムブレインの従業員である証人村重徹行,ジンパルや電池ボックスを納入している株式会社勝島製作所の役員である証人半戸正方及びトランスポンダー,トランスポンダー親機及びガラス球を納入している海洋電子株式会社の役員である証人村上千恵子は,それぞれ,要するに,取扱いの部品について北海道大学と取引があるが,その取引における相手方はあくまで大学であって,被告人を含め個人ではなく,代金の入金も北海道大学からのもので,被告人からの入金はなく,また,取扱いの部品について北海道大学に無償で提供したことはない旨供述する。前記証人3名は,本件とは直接関係しない第三者であり,その供述内容は客観証拠と整合するから,その供述は十分に信用できる。

 以上の証拠を含む関係各証拠によれば,本件合意の対象となった海底地震計の部品は,全で北海道大学の公金で購入されたことが合理的に推認できる。

2 被告人の供述及びその信用性
 これに対して,被告人は,海底地震計の部品について,個人で購入した物や業者から無償で提供された物があるが,いつごろ何をどの業者から購入あるいは提供されたかについて全く記憶がない旨述べている。海底地震計が開発途上のものであったこと,開発の過程においては必ずしも既製品の部品だけで構成されていた訳ではなさそうなことなどからすると,その供述自体は一概に排斥できないが,本件合意の対象となった部品については,その購入状況等からすると,その供述をもってしても前記推認に合理的な疑いを生じさせない。

3 所有権の帰属
 そうすると,本件の合意の対象となったトランスポンダー親機を含む海底地震計の部品は,全て北海道大学の公金で購入されたと認められる。したがって,これらのものは原則として北海道大学の管理する国有財産となる。

 これに対して,弁護人は,加工の規定(民法246条)により本件海底地震計5式は被告人の所有物になる旨主張するが,そもそも,この規定は公平の原理に基づくものであるところ,前記物品供用官として北海道大学から適切に物を使用する事務を委任されている被告人が,北海道大学の公金で購入した部品を前記地震火山研究観測センターにおける研究に際して組み立て作成した物の所有権を取得するということ自体疑問がある上,仮に加工の規定の適用があるとしても,本件海底地震計5式はそれぞれ部品を組み合わせたものであり,また,それによって著しく価値が上がったともいえないから,いずれにしても,本件海底地震計5式が被告人の所有物とならないことは明白である。

 以上によれば,本件海底地震計等は北海道大学が管理する国有財産であったと認められる。

第4 被告人の売却権限
 本件海底地震計等が北海道大学が管理する国有財産であった以上,本件当時,前記物品供用官であった被告人に本件海底地震計等を売却する権限がなかったことは,法令上明らかである。

第5 被告人による欺罔行為とミニルデの錯誤
1 証人ミエルデの供述及びその信用性
 証人ミエルデは,要するに,「平成7年(1995年)ころ,それまでより柔軟に研究ができるようにと思い,また,ベルゲン大学が海底地震計を保有していれば石油会社等からの資金提供を受けるのに有利であることから,被告人に海底地震計5台を購入し,さらに5台を借用したい旨申し入れたところ,被告人から,平成8年(1996年),売却できると言われた。そこで,海底地震計1台が約30万クローネであることは以前から知っており,5台分の海底地震計の資金集めに努力した結果,ノスクヒドロ社から150万クローネの資金提供を受けられることになり,被告人にその旨報告した。平成10年(1998年)の北海道大学との共同観測の終了後,ベルゲン大学が海底地震計4台とトランスポンダー親機1台を北海道大学から購入することとしたので,被告人にベルゲン大学宛のインボイスを送付するよう依頼した。そうすると,被告人が,本件海底地震計4台及びトランスポンダー親機1台の金額を具体的に決めてインボイスを送付してきた。そこで,ベルゲン大学が支払いをするのに必要な書類を作成して経理部に送付し,ベルゲン大学が本件海底地震計4台及びトランスポンダー親機1台の代金として被告人の指定した口座に1652万4500円を振り込んだ。平成11年(1999年)の北海道大学との共同観測の終了後には,ベルゲン大学が本件海底地震計1台を北海道大学から購入することとし,前年と同様の手続きを経て,ベルゲン大学が本件海底地震計1台の代金を被告人の指定した口座に振り込んだ。これらの代金は,本件海底地震計等の代金として振り込んだものであって,被告人が自由に使用できる金銭として寄附したものではない。被告人が本件海底地震計等の売却権限を有していないことは知らなかったし,知っていたら本件海底地震計等を購入することはなかった。また,被告人がベルゲン大学が振り込んだ金銭を北海道大学に納入しないことは知らなかったし,知っていたら被告人が指定した口座に現金を振り込むための書類を作成し,ベルゲン大学の経理部に送付することもなかった。」旨供述する。

 証人ミエルデの供述内容は,前記認定事実の流れによく整合し,インボイス等多数の客観証拠とも合致する上,海底地震計を購入しようと思った動機,被告人から売却できる旨告げられ,資金を集めた経緯,共同観測後に海底地震計の部品の一部がベルゲン大学に残置され,その後被告人の指示に従い代金を振り込んだ経緯等自然かつ合理的であって,一貫してもいる。また,証人ミエルデの供述態度は,誠実で,真摯性も認められる。さらに,証人ミエルデは,長年被告人と共に共同研究を行ってきた者であり,被告人との関係は良好であって,証人尋問の際には自ら発言の機会を求めて被告人をかばうような供述をしてもいる。そうすると,証人ミエルデの供述の信用性は非常に高い。

2 被告人の供述及びその信用性
 これに対して,被告人は,要するに,「本件海底地震計等については,ベルゲン大学が石油会社から資金提供を受けるために売買の形を取ったが,実際上はベルゲン大学に売却したのではなく,10台の海底地震計をベルゲン大学に保管させ,被告人との共同研究を行う限りにおいて,必要に応じ,ベルゲン大学の研究グループがこれを使用することを被告人が許諾するという契約であり,ベルゲン大学から振り込まれた金銭は,売買代金ではなく,研究者としての被告人又は海底地震の研究グループ長としての被告人に対して振り込まれた金銭であった。そして,本件各契約当時,ミエルデは,こうしたことを知っていたと思う。」旨供述する。

 しかし,被告人のその供述内容は,被告人からベルゲン大学に対して前記インボイスとともに前記内訳表が送付され,実際にベルゲン大学から被告人の口座に振り込まれた金額がその内訳の合計額に等しいこと,本件海底地震計5式は4式と1式に分けて売却するという形式を取っており,さらに別の5式について借用の形を取っていることと整合せず,また,信用性が高い証人ミエルデの供述にも反する。そうすると,その供述は到底信用できない。

3 欺罔行為,錯誤
 以上によれば,被告人が本件海底地震計等を売却する権限がないのにこれを売却するとミエルデに言ったこと,ミエルデは,被告人に本件海底地震計等を売却する意思も権限もなく,かつ,ベルゲン大学が被告人の口座に振り込む金銭を被告人が北海道大学に納入する意思もないのに,これらがあると信じたことが認められる。なお,本件合意の対象となった海底地震計等のうち,トランスポンダー親機以外の物の中には,その後,他の物と入れ替わっている物もあり,ミエルデらベルゲン大学側もこれを了承していた様子はあるが,このような事情も,それらの物の代替性や使途等からすると,ミエルデの錯誤に合理的な疑いを抱かせるに足りない。そして,ミエルデが,本件海底地震計等の売買代金として被告人の指定した口座に1652万4500円及び374万9000円を振り込むための書類を、作成してベルゲン大学の経理部に送付し,その結果ベルゲン大学が前記認定のとおりこれを振り込んだことが認められる。

第6 結論
 以上検討してきたところから,被告人に詐欺罪が成立することは明らかであり,本件各犯罪事実を優に認定できる。そして,他に本件各犯罪事実につき,合理的疑いを抱かせるような証拠はない。

 よって,弁護人の主張は採用できない。

(法令の適用)
罰         条
 第1及び第2の各行為 それぞれ刑法246条1項
併 合 罪 の 処 理 刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の重い第1の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入   刑法21条
刑 の 執 行 猶 予 刑法25条1項
訴 訟 費 用 の 負 担  刑訴法181条1項本文

(量刑の理由)
 本件は,北海道大学の教授であった被告人が,2回にわたり海底地震の共同研究相手であるベルゲン大学の教授に海底地震計等を売却すると言って,売買代金名下に金銭を詐取したという詐欺2件の事案である。

 被告人は,ベルゲン大学教授の被告人に対する信用を利用して,本件各犯行に及んだものであり,その犯行態様は大胆かつ悪質である。被害金額は合計2000万円余りと多額に上り,結果も重大である。さらに,被告人は.本件が発覚するや,ベルゲン大学教授に口止め工作をして保身を図ろうとするなど,犯行後の情状も芳しくない。この種事犯に対する一般予防の見地をも併せ考えると被告人の刑事責任は重い。

 しかしながら,ベルゲン大学は,北海道大学が被告人による無権代理行為を追認したことにより,本件海底地震計等の所有権を確定的に取得し,現に研究に使用していること,被告人は,本件に関し,本件海底地震計等の所有権を失った北海道大学に対して,和解金として1850万円を支払う旨の和解が成立し,同金員を支払ったこと,本件が発覚したことに伴い,公職を辞し,社会的制裁を受けていること,前科前歴がないこと,その他被告人の職歴,年齢,保釈までの身柄拘束期間等被告人のために酌むべき諸事情もあるから,主文掲記の刑を科した上,今回に限りその刑の執行を猶予するのが相当である。

 よって,主文のとおり判決する。

(求刑 懲役4年)

平成19年1月12日
札幌地方裁判所刑事第3部
裁判長裁判官 井口実
裁判官 川田宏一
裁判官 清水光

これは謄本である
平成19年1月17日
札幌地方裁判所
裁判所書記官  太 田 剛   (印)

 

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