島村英紀『「地球温暖化」ってなに?科学と政治の舞台裏』
その前書き・後書き・目次など

2010年8月10日発行。彰国社。本文264頁四六判ソフトカバーISBN978-4-395-01024-0 C3044。2000円+税=2100円
(クリックすると拡大します)

出版後に気がついた訂正(ミスプリント)
この本について寄せられた読者の声
この本で、島村英紀は東日本大震災の前までに、原子力発電所についてこんな指摘をしていました
裏部分のイラストはこちらに
「信濃毎日新聞」 2010年9月5日(日曜)朝刊書評頁に好意的な書評が出ました。
「毎日新聞」 2010年9月27日(月曜)朝刊環境頁に短い紹介「温暖化関連本:相次ぎ出版」が出ました。
「北海道新聞」 2010年10月18日(月曜)夕刊科学頁に好意的な書評が出ました。
裏表紙や袖も含めた表紙カバーの全部はこちらに
(ここに書いてある価格はデザイン段階でのダミーです)
「表紙カバーの全部」に帯を付けるとこうなります
表紙カバーを取ったときの表紙です
表紙部分のイラストはこちらに
裏部分のイラストはこちらに

この本が出る前に、早くも「期待」が出ました。果たしてご期待に添えたかどうか。



はじめに(前書き)

 京都議定書の「次」が決まっていない。決める期限はすでに来てしまった。

 1997年に世界各国の代表が京都に集まって決めた京都議定書は、当時の先進各国に温室効果ガスを削減する数値目標を義務づけたものだった。

 しかし、この議定書は2012年までのことしか決めていない。その後は、新しい取り決めが各国の合意で作られないかぎりは白紙なのである。

 いままで何回も開かれた「その後」を決めるための国際会議は、各国の主張が入り乱れ、結局、何も決まらなかった。なかでも、次回の取り決めからは新たに規制を課せられる可能性が強い中国など開発途上国の反発が強かった。ちなみに、中国の二酸化炭素排出量は大方の予測よりも数年も早く、2007年に米国を抜いて世界一になった。しかも、さらに増えることは確実だ。

 新たな議定書をまとめるための努力は続けられているが、そもそも議定書という合意が作られるのかどうかをも含めて、予断は許さない。「科学」の名で各国を説得することは、もう出来なくなっているのである。

 なぜ、このようになってしまったのだろう。

 地球温暖化問題は、もともとは科学の問題だった。しかし、いまや国際政治にとっての極めて大きな問題になっていて、この本にあるように各国の思惑が渦巻いている。

 一方、哀しいことに、環境問題での科学者の役割は、他の誰かが決めた政策に説明をつけて補強する程度のものに下落してしまっている。

 なぜ、そうなってしまったのだろうか。いままでの科学では解けなかった部分の解明を、世界は、あるいは国際政治は待ちきれなかったのか、あるいは、科学とは所詮、その程度のものだと見くびられてしまったのだろうか。それらを考えてもらうために、この本を書いた。

 この本はもともと、私の本『地震学がよくわかる---誰も知らない地球のドラマ』を作ってくださった彰国社の編集者・中神和彦さんから「地球温暖化を語る前に、もっと必要なものが抜け落ちているのではないか。地球の歴史やメカニズムを知っておいてほしいという視点から本を書いてほしい」と頼まれたことから始まっている。

 たしかに、あまたある地球環境の本のなかで、地球環境や地球温暖化が、科学としてどこまで分かっているのか、まだ分かっていないことはどこに問題があるのか、といったことを書いてある本はない。その意味で、この本の存在価値があるのだろう。


おわりに(後書き)

 2009年末に「クライメートゲート」(Climategate)が発覚した。

 IPCC(国連の気候変動パネル)の主要メンバーが所属する英国のイーストアングリア大学にある気候研究所のサーバーが何者かによってハッキングされた。そして1000通以上の電子メールや、気候変動を計算するソフトウェアプログラムなどの電子文書類がネット上で暴露された。それらの書類から、研究者たちが、温暖化人為説を根拠づけるために行ったさまざまな誘導や歪曲や論敵潰しが明らかになってしまったのである。

 「クライメートゲート」とは、「ウォーターゲート事件(Watergate scandal)」の名をもじったものだ。1970年代に起きて当時のリチャード・ニクソン米国大統領が辞任することになったスキャンダルである。共和党のニクソン大統領の政敵だった米国民主党の本部があるウォーターゲート・ビルに盗聴器を仕掛けようとしたのが発覚したのだった。なお、クライメートとは気候のことだ。

 この「クライメートゲート」のなかでも問題になったメールのひとつが、研究所のジョーンズ所長が、本書にも出てくるホッケースティック曲線の生みの親、米国の科学者マイケル・マンあてに送ったメールだ。

 そのメールには「私(ジョーンズ所長)は、マイク(マイケル・マンの愛称)がネイチャー(権威ある世界的な科学雑誌)に載せた論文のときに使った”トリック”を使って、1981年以来の20年間の地球の平均気温変化と、キース・ブリファ(副所長)が算出した1991年以来の平均気温変化の、両方の気温低下傾向を隠した」と書かれていたからである。

 この「クライメートゲート」は、反温暖化論者、反IPCC論者に恰好の攻撃材料を提供することになった。日本ではあまり報道されなかったが、欧米のメディアは大きく取り上げて批判した。

 たしかに、「科学」とは、客観的なデータに基づいて、正しい結果を得るはずのものだ。それなのに、偏見に基づいて結果をゆがめるのは許されない、という論理はそれなりに正論である。

 しかし、科学者である私の見方は少し違う。

 科学者とは哀しい職業である。研究費がなければそもそも研究が出来ないし、大学や研究所のポストがなければ、やはり安定して研究をするための環境が得られない。

 このために、研究費やポストや、あるいは学界での地位のために「転んでしまう」誘惑は、いつでも科学者につきまとっている。そして、よくできる科学者ほど、誘惑も多いのである。

 本書に書いたように、地球環境問題は、国際政治や各国の思惑を巻き込んで、ますます複雑な様相を呈してきている。多くの科学者はどんな立場ととるにせよ、誰か大きなものの掌の上で踊る存在になってしまっているのである。

 この本が世に出るのは「前書き」に書いたように彰国社の編集者である中神和彦さんのお薦めのおかげだった。その後、中神さんは病に倒れて入院し、同じ編集部の尾関恵さんが引き継いでくださった。お二人がおられなければ、この本が出ることはなかった。記して感謝したい。

2010年6月 島村 英紀



 この本の目次

はじめに 3

第1章 二酸化炭素は「いつも悪者」ではない
  1 二酸化炭素がなければ人は地球に住めない…10
  2 太陽系創世記、全部一緒につくられた…13
  3 マグマオーシャン、そして水の惑星へ…17
  4 大量にあった二酸化炭素を減らしたメカニズム…21
  5 地球に生命が生まれたとき…25
  6 地球に動物が生まれたとき…29
  7 そして人類が生まれた…33
  8 地球の兄弟の星たちとの運命の別れ道…37

第2章 昔の地球は気温が大きく変化した
1 温室効果ガスは地球の掛け布団…42
  2 ヒートアイランド現象。都会の熱気…46
  3 この二〇〇〇年間の地球の気温を調べる…48
  4 もっと前からの地球の気温を調べる…54
  5 氷河期と氷期と間氷期。じつは、いまは「氷河期」 …58
  6 地球が氷河に覆われた時代、スノーボールアース…61
  7 地球の自転と公転も影響した? ミランコビッチ・サイクル…65

第3章 いま話題になっている地球温暖化とは
    1 年平均気温が一℃上がっただけで記録的猛暑…70
  2 温暖化が進むと気象が凶暴化する…73
  3 温暖化に追い付けない植物、増える伝染病…76
  4 太平洋の島国が消える?…80
  5 コンピューターは温暖化をどうやって計算している?…86
  6 「気候モデル」ではカバーできない不確定要因 その一…90
  7 「気候モデル」ではカバーできない不確定要因 その二…93

第4章 政治と科学者と産業界の三つ巴
1 「地球温暖化」をめぐる政治と科学…98
  2 濡れ手に粟もある排出権取引…102
  3 「京都議定書」とその滑り止めの「柔軟性措置」…105
  4 「地球温暖化」をめぐる国際政治と巨大産業の思惑 …108
  5 温室効果ガスの排出規制で「得をする」ものは? …112
  6 日本はなにをやってきたのだろう…116
  7 二酸化炭素を「悪者」にして狙うものは?…120
  8 そして、これからの大きな問題は。京都議定書「後」はどうなる?…124

第5章 地球がつくってくれた空と海
1 地球の自転は遅くなっている…128
  2 地球の空気の動きに地球の自転が影響する…130
  3 地球の空気の大循環。赤道付近と極地方の風はいつ も同じ向き…133
  4 地球の空気の大循環。中緯度地帯は複雑な風が吹く …137
  5 地球の海の流れはどうやって決まる?…141
  6 深い海にも海流があった…145
  7 海と空気との相互作用、エルニーニョとラニーニャ …148
  8 オゾンが地球にできたとき…152
  9 オゾンホールをつくったのは人類だった…155
  10 「救世主」代替フロンは、じつは強力な温室効果ガスだった…160

第6章 地球を収奪してきた人類
1 地球の水のうち、真水はわずか二・五%…166
  2 二〇世紀最大の環境破壊、アラル海の悲劇…169
  3 灌漑農業も、はじめのうちはよかったが…175
  4 しかし、農業の将来には暗雲が。財閥の誤算か? …180
  5 消えていく森、そして砂漠化…184
  6 化石燃料の枯渇。石油はあと何年でなくなる?…189
  7 バイオ燃料はまた別の問題を起こしている…193
  8 かといって原子力発電に頼っていいのか。後世へ のツケは…198

第7章 地球を汚しつづけてきた人類
1 工業活動が公害を引き起こした。水俣病を隠蔽したチッソ…202
  2 政府の悪あがきの果てに…207
  3 そのほかの「四大公害病」。四日市喘息とイタイイタイ病…212
  4 その昔の大気汚染と水質汚染、そしていま…216
  5 「公害」と「環境問題」に境はない。酸性雨と森林破壊と……221
  6 水質汚染は生活排水起源のものも多い…224
  7 やはり国境を越える海洋汚染…226
  8 もし原子力発電所が地震に遭えば…230

第8章 地球との共生
1 世界の人口は爆発的に増えている…236
  2 「成長の限界」が見えてきた?…240
  3 世界の七人に一人が飢えている…243
  4 「便利で快適な」生活か「ぜいたくで無駄な」生活か…247
  5 地球環境問題の歴史、「地球寒冷化」から「環境汚染」へ…252
  6 地球の汚染を極地で調べる…256
  7 地球を壊さない生き方…259

おわりに…262

装丁 早瀬芳文
装画 内山良治
本文イラスト なかむらるみ
本文レイアウト 鈴木陽子


島村英紀の著書一覧へ
島村英紀のホームページのトップに戻る
島村英紀・科学論文以外の発表著作リストに戻る




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送