日本経済新聞『春秋』による『地震は妖怪 騙された学者たち』の紹介
2000年9月8日(金曜)朝刊1面

▼有珠山、三宅島、そして駒ケ岳と、ことしは水蒸気爆発という言葉をずいぶん聞いた。水が高温の岩体やマグマに触れて膨張し、周囲を巻き込んで噴き上げる。地下の水脈が火の山の怒りを鎮めるのではなく、逆に爆発を誘うというやっかいな構造を、自然は備えている。

▼地下水は火山活動だけでなく、地震にも関与しているらしい。北海道大学の島村英紀教授は、近著「地震は妖怪 騙された学者たち」の中で、地下水を地震の「黒幕」と呼んでいる。具体的に地震と水がどう絡んでいるのか、そのメカニズムはまだはっきりしないが、地底にしみ込んだ水が、断層を滑りやすくする可能性もなくはない。

▼これまでにも、地底での水の動きが変化したため、地震が起きたのではないかと疑われたケースは少なくない。高圧で大量の廃水を地下深部に注入した結果、それまで全く地震の記録がなかった地域に、小さな地震が多発した米国の例や、大型ダムの建設に伴ってM6・3の大きな地震が起きたと考えられているインドの例などである。

▼これら人間の活動がきっかけで起きたと考えられる地震を、誘発地震と呼ぶ。 その研究はまだあまり進んでいない。人間はいつも自然災害に直面したとき、人知の及ばない自然の威力を心に刻み込んできた。しかし、地表だけでなく、地底の営みにまで、悪影響を汲ぼすほど文明は巨大化している。という自覚も今後は必要かもしれない。

北海道新聞『ほん』(読書面)「訪問」
2000年10月1日(日曜)朝刊
『地震は妖怪 騙された学者たち』を書いた島村英紀さん
悪戦苦闘を分かりやすく

 地震国に住む者にとって気になるのは地震予知。だが、素人目には、あまり成果が上がっているようには見えない。国内外で地震観測に挑む北大教授が、予知の難しさと成果を分かりやすく紹介する。「研究者は肩身を狭くして歩いています。しかし毎年、膨大な予算をもらっているのだから、何が分かり、何が分からないのか、一般の人にお知らせする義務がある」と語り、過去にも地震関係の著書は多い。

 もともと海底地震が専門。東大卒業後、同大助手を経て、1972年に北大の助教授になり、79年に同大海底地震観測施設長に。98年に火山関係の研究施設と統合した地震火山研究観測センター長となった。

 しっぽをつかんだと思った次の瞬間、するりと正体をくらます地震を「妖怪(ようかい)にたとえる。「『前兆』をとらえることを目指したわけですが、一筋縄ではいかない、ということが分かった。30年もかけて何やってんだ、と怒られそうですが。いろいろな学問を総合して、地球全体を研究する必要がある。そして地震研究が他分野の研究の進展に貢献している例も知ってほしい」

 予知以前に、観測自体が因難な作業だ。地震だと思ったらクジラの声だった。遠くの大規模工事に地震計が反応する。海底地震計が流される。羊が電線を食いちぎる。国内外でのフィールドワークには、ほほ笑ましい失敗談だけでなく、特には命を落とす痛ましい事故もつきまとう。「机の上で研究できる人たちに比べ、割に合わない仕事。でも好きで選んだ道ですから」。必要な部品の到着を待ったり、北海の荒波に揺られて天侯の回復を待つ間など、実地調査にぽっかり生じた空き時間を執筆に当てることが多い。

 95年の阪神大震災直後は、地震への関心が高まり、地震関係の本がよく売れた。「自分が住んでいる所が安全か、という関心で、悪くいえぼ怖い物みたさ。その後のトルコ、台湾などで大地震が起きた時にはもう、ひとごとになっていた」と、「のど元過ぎれば」の国民性をやんわり批判する。「日本に住む限り、地震が絶対起きない場所なんてありません」。五十八歳。

文化部 米田純子記者(講談社+α新書 780円)


日本経済新聞 『今を読み解く』
地震防災、危ない科学過信 予知に限界、自立必要
2000年10月8日(日曜)朝刊読書面

 ゼネコン、銀行、デパートと、大きくて堅固そうなものが軒並みぐらついている世結末の日本列島、足元の大地も地震や火山活動で揺れている。三宅島の噴火や伊豆諸島の群発地震に続き、鳥取県西郡でM7.3という地震が発生、大噴火や大地震への不安が一気に膨らんでいる。科学はどこまで地震の正体に迫っているのか、予知は本当に可能なのか「世間」と「科学」の関係が問われている。

 そのへんの機微を明快に語るのが島村英紀著『地震は妖怪 騙された学者たち』(講談社+α新書、2000年)だ。研究が進んだ結果、地底にすむ地震という妖怪(ようかい)は、おもったよりはるかに難物で、その行動を精密に予測するのはかなり大変な仕事であることがはっきりしてきたのだという。

 逆に言うと、この間に地震学は進歩し、予知の難しさを知るところまできた。内陸の直下型地震を起こす活断層にしたって、火山灰やたい積土におおわれて姿を隠している未知の活断層が日本列島にはまだまだたくさんあるという。将来的には予知の可能性はおおいにある。ただ、それは今すぐというわけではない。海底地震を探り続ける地震学者の率直な意見だ。

●直前予知可能が前提

 日本には東海地震を想定した「大規模地震対策特別措置法」という法律がある。学者の集まる判定会議で大規模地震の前兆をとらえた場合は、首相が警戒宣言を発して、道路、鉄道、そして百六十を超す自治体などが防災体制に入る。大規模地震の直前予知が可能であることを大前提とした防災システムである。

 地震予知の研究計画を決めてきた測地審議会の部会が、時間、場所、規模を特定した直前予知は現段階では困難、という結論を示した後も、ち密な観測網が敷かれたこの地域は例外なのか、予知を前提にした体制は変わらない。ここに科学と行政の日本的な関係がみえる。

 行政が尊重しているのは学者の判断ではなく、手続きとしての科学の関与なのではないだろうか。予知の科学的な実現性に疑問が出てきた後でも、大規模地震対策特別措置法という体系を守ることを優先して、予知を防災体制発動の前提にしている。

 音響学者がいなくてもいい音楽がつくれるように、地震学などに頼らなくても地震予知はできる、という勇ましい意見もある。地球物理中心の地震学の主流が、これまであまりかえりみなかった電磁気現象から、地下の地震前兆をとらえようとする串田嘉男著「地震予知に挑む』(PHP新書、同)である。

 独学で天文を学び、周期すい星をいくつも発見している著者が、FM電波を使った電離層観測で前兆をとらえたという。検証はまだ十分とはいえないが、事後にそれとわかったというあまたの「後出し」前兆現象と異なり、データの蓄積は豊富だ。地中の電磁波を予知に使う研究も別にあり、研究開発でも総主流派現象が目につく日本だけに、予知の「電磁派」として学問の多様性確保に期待したい。

●行政補う世間の知恵

 地震防災で今の日本に必要なのは、おかみ主導のシナリオとは別の、個人の自律的な防災感覚なのかもしれない。北原糸子著『地震の社会史』(講談社学術文庫、同)、永沢道雄著『大都市が震えた日』(朝日ソノラマ、同)は、ともに日本の大都市が幾多の大地震から再生してきたパワーの根源を「世間」の柔らかな結びつきに置いている。

 安政大地震で壊滅した江戸で、富裕な商人はボランティアで炊き出し(施行)をし、かわら版は人々の心をつなぎ、「鯰(なまず)絵」と呼ぶ地震をしゃれのめした錦絵がもてはやされた。阪神大震災でも復興の原動力となった役所に頼らない市民の自律的な行動こそが、震災列島の最大の文化遺産なのだろう。

編集委員 塩谷喜雄

夕刊紙・日刊ゲンダイに掲載された書評
2000年9月28日(木曜・夕刊)

 有珠山噴火に始まり伊豆諸島の異変まで、地震と噴火のニュースが半年も紙面を騒がせている。安全宣言から一転して全島避難に至った三宅島の噴火予知連絡会の迷走ぶりにいら立ちを感じた人も多いのではなかろうか。

 しかし、講談社刊の科学エッセー「地震は妖怪 騙された学者たち」を読むと、噴火や地震など地球活動の予知の難しさを痛感させられるに違いない。

 地震学者の著者・島村英紀氏によると、多くの人々が期待を寄せる地震予知研究も、その内実は「病人の数が限られているために診断も治療も進歩しにくい難病のようなもの」という。

 ご存じのように巨大な地震は、プレートの動きで起きる。

 日本の場合、列島の地下に潜り込んだ太平洋プレートとフィリピン海プレートが、列島がのっているプレートとの間で摩擦を起こし、周期的に地震が発生する。が、この周期的な巨大地震も、地震計にすら記録されない「音のない地震」の発生によってエネルギーが放出され、回避されることもあるので予測は困難を極める。

 阪神淡路大震災のような直下型の地震を起こす活断層の動きは、周期が長い時には10万年にもなり、さらに予測が難しいという。

 降雨の2日後に地震が起きるという大西洋のアゾレス諸島や、アオウミガメの産卵が証明する大陸移動など、興味深いエピソードを楽しみながら地球物理学の最先端が学べるタイムリーな本だ。


この本『地震は妖怪 騙された学者たち』の前書きと目次と「各章のポイント」

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