『大地の不思議』(静岡新聞・特集面「週刊地震新聞」)、2001年4月30日〔No.12〕

地球科学者のもうひとつの敵

 前回は、東海地震を研究している新妻信明先生(静岡大学理学部)にはタケノコという敵がいる話をした。しかし、実は、もっと手ごわい敵がいる。それが私の大学や東大だということを書かなければフェアではないだろう。

 地震予知の研究や観測のために日本の大学は毎年25億円ほどの金を使っている。気象庁や国土地理院や旧科学技術庁系の研究所の予算はもっと多い。しかし、この巨額の研究費のうち、静岡大学には、ただの1円もまわってきていないのである。

 不思議だと思われるに違いない。文部科学省の方針で、地震予知研究を担当する大学というのがきめられているからだ。つまり、帝国大学だった大学(正確には大阪大学を除く六大学)だけが、地震予知研究のための研究費を受け取り、教官や技官を増やしてもらってきたのだ。

 たとえば北海道大学や名古屋大学では20人近い職員が増えた。それぞれに毎年2億円を超える研究費が支給されている。一方、大手である東京大学地震研究所や京都大学防災研究所は、この数倍もの職員や研究費を受け取っている。

 静岡大学と同じく地震予知研究のグループに入れてもらえなかった神戸大学の先生たちは、阪神大震災のとき、観測機材がなかった。京都大学や名古屋大学の職員が震源地に乗り込んでくるのを、指をくわえて見ているしかなかった。神戸大学に都市安全研究センターが作られたのは震災後だ。事故が起きてから信号機を建てたようなものなのである。

 新妻先生が使っているレーザー光線の距離計も地震予知研究の費用ではなく、学長が買ってくれたものだ。

 静岡大学で地震を研究しているのは新妻先生だけではない。地殻変動の権威である里村幹夫先生や活断層研究で有名な林愛明先生など、何人もの先生がいる。

 先週は静岡大学が文部科学省に要求する来年度予算の締め切りだった。

 「東海地震の地元」大学として、20年以上も観測設備の要求を出し続けてきた。旧制帝大のように職員を増やす要求はとうてい無理だとは知りながら、せめて設備だけは、と何年も願い続けた望みだ。しかし、今回もかなうことはないだろう。

【2008年9月追記】 新妻信明先生は静岡大学理学部を定年になり、現在は仙台在住の地質学者です。


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じつは、この話には前編がある

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