『大地の不思議』(静岡新聞・特集面「週刊地震新聞」)、2001年7月2日〔No.22〕

四つある地震の委員会は何が違う?


 これはクイズだ。地震についてのお役所の委員会が三つある。地震予知連絡会と、地震防災対策観測強化地域判定会と、地震調査委員会だ。それぞれどこにあって、なにをやっているところだろう。

 正確に答えられる人は、ほとんどいないに違いない。

 正解は、本拠は順に、国土交通省の国土地理院、同じく国土交通省の気象庁、文部科学省にある。今年からの省庁再編で親省庁は統合されたのに、これらの委員会はそのまま残された。

 それぞれがやっていることの違いは、もっと難しい。

 比較的わかりやすいのは地震防災対策観測強化地域判定会、通称、判定会だ。「東海地震」の予知だけを扱う。毎日監視しているデータから、東海地震が来ることを察知して警戒宣言を出すことが役目である。判定には白か黒かしかない。前会長が灰色の結論が出せないことに不満で辞任したことは記憶に新しい。

 地震予知連絡会は、日本各地の地震について情報を集め、将来を予測する。実は東海地震についても情報を分析しているのがややこしい。しかし、この委員会は、定期的に年四回しか開かれないから、即応体制はとれない。

 地震調査委員会は阪神大震災後に作られた。この委員会も地震予知連絡会と同じく、日本各地の地震について、情報を集めて将来を予測している。委員会は月一回開かれている。実はこれらの地震の委員会のほかに火山噴火予知連絡会というものがあり、これは気象庁にある。

 たとえば2000年初夏の三宅島では、島内でマグマ騒ぎがあり、その後、震源が島内から神津島沖の海底へ移動して群発地震になった。このときは、四つの委員会すべてで、同じ現象を議論していた。判定会も、想定されている東海地震に関連する地域だから、影響を議論したのだ。

 さて、違いを分かってもらえただろうか。分からなかったに違いない。つまり、それぞれの委員会はそれぞれ別の政治家を動かした設立の経緯があり、それぞれの役所の綱引きやメンツがあって、独立に並行して動いているのである。

 国費の無駄遣い?いや、もしかしたら、これは四つの違う予測を発表して、国民に選択の自由を与えてくれる仕組みだろうか。もしそうだとすれば、どの官庁も重大な責任をとらなくてすむ。なんと巧妙な仕掛けなのだろう。


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