『大地の不思議』(静岡新聞・特集面「週刊地震新聞」)、2001年6月18日〔No.20〕

看板から「地震予知」が消えた

 小説に勝るミステリーが起きた。国立の大研究所で、ある朝突然、看板が一斉に掛け替えられたのである。

 「地震予知研究センター」だったものが「地震調査研究センター」になった。また「直下型地震予知研究室」が「直下型地震調査研究室」になった。「海溝型地震予知研究室」が「海溝型地震調査研究室」になり「第一地震前兆解析研究室」も「高度震源解析研究室」になった。

 同時に、この研究所の看板であった関東と東海地域一円の観測データを収集して処理する計算機システムの名前が「地震前兆解析システム」から「地殻活動解析システム」に替えられた。

 つまり、地震の前兆を解析したり、地震予知を研究したりする研究室や設備が一挙に姿を消してしまったのであった。

 まるで、頼りにしていた病院の診療科の名前が全部替わって、ちんぷんかんぷんな名前になってしまったようなものだ。阪神大震災が起きた年のことだ。

 では、なにを研究し始めたのだろう。じつは、この研究所では、それまでと同じ陣容で、同じ研究を続けている。同じ中身に看板だけを掛け替えたのである。

 この研究所は科学技術庁(今は文部科学省)の傘下にある研究所だ。

 看板の掛け替えには、上部組織である科学技術庁の事情があった。一九七六年の閣議決定で設置された「地震予知推進本部」が阪神大震災のあった一九九五年に廃止され、新たに「地震調査研究推進本部」が作られていたからだ。二つの本部とも、本部長は科学技術庁長官だ。

 つまり、本店が看板を掛け替えたから、支店や支部も看板を掛け替えざるを得なかったというわけなのだ。

 ところで、科学技術庁が地震予知という看板を下ろしてしまったことを、国民に十分に説明したのだろうか。

 医者もインフォームド・コンセントの時代だ。患者に、病状や治療の見通しや危険について、十分の説明をする義務があるはずだ。国民全体を人質に取っているような地震予知計画でも同じことのはずである。

 ミステリーならば、得をしたものがいるはずだ。それはたぶんお役人だろう。変わり身が早いのも、官庁の組織を守る上でしたたかなことも、たいへん優秀な人たちなのである。


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