島村英紀『夕刊フジ』 2021年5月2日(日曜)。Golden Week特別号
 
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頻発する地震は来たるべき 南海トラフの先駆けの可能性

 日本では南海トラフ地震や首都直下型地震だけを注意していればいいものではない。それらはいずれは起きる。しかしその前に日本のどこかで内陸直下型地震が起きるかもしれないのだ。

 悪しき前例がある。「東海地震」と地震予知ができるという「大震法(大規模地震対策特別措置法)」がセットになっていて、「大きな地震の前には政府から何かの警告が出るだろう」という考えが一般に行き渡っていた時代だった。そこに襲ってきたのが阪神淡路大震災(1995年)で、思わざる場所で起きてしまった大災害だった。

 日本に起きる地震には二種類がある。海溝型地震と直下型地震だ。海溝型地震はプレートが一定の速さで動いているから、年々、ひずみが溜まっていく。ぞれゆえ、いずれは起きる地震だ。

 フィリピン海プレートが年に4.5センチ、日本列島に押しよせて来ているから、これまでに南海トラフ地震の「先祖」は13回起きた。

 首都圏を襲う海溝型地震も同じで、関東地震(1923年)型は必ず起きる。前代は元禄関東地震(1703年)だった。

 このほかに、プレートが押してきているために日本列島を載せているプレートがゆがんだり、ねじれたりして起きる内陸直下型地震が、海溝型地震とは別に起きる。しかも内陸直下型地震は日本中、どこにでも起きる可能性がある。地震としての規模(マグニチュード)は海溝型地震よりも小さいことが多いが、人が住んで社会的な活動をしている直下で起きるので、地震の規模のわりに被害が大きい。阪神淡路大震災は都市を襲った大災害で、6400人以上が犠牲になった。

 首都圏は、そもそも海溝型地震が陸の直下で起きる場所はめったにないが、首都圏は地理的な分布から、ちょうどそこに位置している。このため海溝型地震だけではなく、内陸直下型地震が起きるところでもある。

 過去にも、内陸直下型地震として日本最大の被害を生んだ安政江戸地震(1855年)をはじめ、明治東京地震(1894年)、竜ヶ崎地震(1921年)、などがある。つまり首都圏は二重に地震が起きやすいところなのである。

 ところで、このところ地震が多い。3月に宮城県沖の地震が起きて震度5強だったのをはじめ、和歌山の地震で震度5弱、福島県沖の地震、熊本の地震、茨城県沖など震度4以上の地震が相次いでいる。

 このうちのいくつかは、来るべき南海トラフ地震の先駆けである可能性がある。

 南海トラフ地震の先祖の前に、西日本で直下型地震が頻発したことが知られている。近年では、北但馬(たじま)地震(1925年、M6.8)、北丹後地震(1927年、M7.3)、鳥取地震(1943年、M7.2)などが起きたあと、南海トラフ地震の1つ先代の「先祖」(東南海地震)が起きた。

 最近、震度6弱だった2013年の淡路島や徳島で起きた地震だけではなく、もしかしたら阪神淡路大震災さえ、来るべき南海トラフ地震の先駆けかもしれない。

 いずれは来る地震と、いつ、どこに起きるか地震学では分からない地震。地震国ニッポンは、いままでも、これからも地震に直面せざるを得ないのである。

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