島村英紀『夕刊フジ』 2013年5月10日(金曜)。5面。コラムその1:「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

「日本沈没級」起きるのか

 2011年3月にマグニチュード(M)9・0の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)が起きたとき、地球全体が除夜の鐘をたたいたときの釣り鐘のように、地震後、何日間もふるえ続けた。

 東日本大震災には限らない。04年に起きたスマトラ沖地震(M9・1)のときは、地球は2週間もふるえ続けたのだった。スマトラ沖地震ではインド洋沿岸の各地で20万人以上の死者行方不明者を出した。

 これは学問的には「地球の自由振動」という現象だ。地球は宇宙に浮いている球だから、どこかで大地震が起きると、自由振動を起こすことが知られている。

 それだけではない。東日本大震災では、地球の自転速度が100万分の1・6秒だけ速くなった。

 これは巨大で重いプレートが地震のときに突然動き、それゆえ地球の岩の重さのバランスが変化したためだ。

 同時に、北極と南極にある地球の回転軸も約15センチずれた。なおプレートとは地球の表面をおおっている厚さ100キロメートルほどの岩の板で、これが地震を起こす元凶だ。

 いままでに起きた大地震でも地球の自転速度や回転軸が変化したことがある。たとえばスマトラ沖地震ではこの4倍も自転速度が速くなっていた。

 地球は大地震のときに釣り鐘のようにふるえるだけではなく、地球の上の重さのバランスが変われば地球が回る軸や自転の速度が変わる。地球上で起きる大地震は、このように地球全体に影響するのである。

 かつて世界で起きた一番大きな地震は1960年に発生した南米のチリ地震だ。この地震はM9・5。地震のエネルギーは東日本大震災の6倍、スマトラ沖地震の2倍もあった。

 実はこのチリ地震のときに、地球の自由振動が初めて発見された。それまでは知られていなかったのである。このチリ地震で起きた津波は丸1日かかって太平洋を渡って日本を襲い、日本だけでも140人以上の犠牲者を生んだ。

 チリ地震以上の大地震は起きるのだろうか。

 幸いにして、地球を2つに割ってしまうような大地震や、日本中の家が全部倒れてしまう大地震は起きないことがわかっている。それは地震のエネルギーがプレートの中だけにしかたまらないことのためだ。プレートより下では、岩が柔らかいために地震のエネルギーが蓄えられないのである。

 地球の半径は約6400キロメートル。プレートは地球をサッカーのボールにたとえたときに、その縫い目の深さほどの厚さしかないから、蓄えて放出できるエネルギーに限りがあるからである。

(写真はドイツ・ハンブルグ市庁舎前の巨大なサッカーボールを模した地球儀(2004年10月)=島村英紀撮影。この”地球儀”の模様はこちらに)

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