島村英紀『夕刊フジ』 2015年5月29日(金曜)。5面。コラムその104 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

石から分かる歴史とナゾ
「夕刊フジ」公式ホームページの題は「石から分かる歴史とナゾ 辺野古埋め立て岩石で将来の地球科学者を惑わせる!?」

 地球科学者は現場で採取してきた石から、その場所の過去の成り立ちを研究する。こうして地球の過去が少しずつ解明されてきた。

 しかし、拾ってきた石の中には、どう見ても解釈に困るものがあった。たとえば北太平洋で深海底から取ってきた石は、そこにある海底火山の近くにはあるはずがないものだった。

 この不思議な石の解明は結局、できなかった。いまの唯一の解釈は、クジラのような海中生物がほかの場所で呑み込んできて、ここで死んだのではないかということなのである。

 また南洋のサンゴ礁の海岸から学者が取ってきた石も明らかに大陸性のものだった。そこにあるのはふさわしくない石だったのだ。

 この「理由」は後年、わかった。戦時中に日本軍が港を作るために、日本本土から運んだ大量の岩石のひとつだったのである。

 港を作るためだけではない。近年には静岡県の駿河湾にある富士海岸の海岸浸食の対策として三重県鳥羽市の沖にある菅島(すがしま)にあったかんらん岩を「養浜材料」として大量に海に投入した。

 駿河湾の沿岸は、台風がよく襲ってくるところで、何度も台風の被害に遭った。なかでも1966年の台風26号では、甚大な被害をこうむった。富士海岸は、そもそも高波が異常に発達する地形で、そのための被害が多いだけではなく、砂がなくなって海岸侵食も進んでいた。

 菅島から持ってきたのは比較的近くで船で低コストで運べるからだろう。

 だが、これによって学問は手こずることになった。富士川上流や周辺の海岸から自然に流されてきた岩と区別が出来なくなってしまったからである。

 沖縄・宜野湾市の米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設が問題になっている。滑走路を新たに作るために172ヘクタールの海を埋め立てる工事が始まろうとしている。

 辺野古の埋め立てに使う岩石の約8割を九州や本州から岩石を運ぶことになっている。その量は 2100万立米、東京ドーム17個分という大量のものだ。

 沿岸の埋め立て工事には土砂や岩石を近隣から調達するのが普通だ。しかし南洋の島や沖縄のように狭い島での調達が難しいときには遠くから運ぶことがある。

 しかも沖縄の場合には、環境問題などで地元との摩擦を避けたい当局の思惑があったといわれている。また当局が直接採取すると環境アセスメントが必要だが、九州など沖縄以外の業者から購入すると環境アセスメントが不必要になることも理由だったろう。

 運ばれて海に沈められる岩石にもちろん印が着いているわけではない。かくて、将来の地球科学者を惑わせたり、学問的な結果を狂わせてしまう石が、今後、沖縄にも大量に運ばれることになるのである。

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