島村英紀『夕刊フジ』 2015年6月19日(金曜)。5面。コラムその107 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

爆発的マグマ噴火が運んだダイヤモンド

 ダイヤモンドは簡単に燃えてしまって灰になるのを知っているだろうか。

 ダイヤは元素から言えば炭素だけのものだ。つまり、そのへんの炭と変わらない。

 しかし炭とは違って結晶構造がとても緻密だ。この結晶構造は地球内部の6万気圧という高圧と2000℃という高温のもとでしかできなかったものだ。

 地球深部でできたダイヤが地表にどうやって運ばれたかはずっとナゾだった。もしゆっくり上がってくるのなら、その途中で燃えてしまって、ただの灰になってしまうはずだからである。

 計算によれば、少なくとも秒速1 〜 4メートルという速度で上がってきたときだけ、ダイヤは燃えないで地表に達したことになる。つまり、ダイヤを取り込んだマグマが数十キロメートルもある厚い地殻を高速で通りぬけたときにだけ、ダイヤが無事に上がって来ることができた。

 この急速な上昇のメカニズムが正確に分かったのはごく最近のことだ。

 これは爆発的なマグマ噴火の一種だ。だが、日本にも過去に何度もあったマグマ噴火はダイヤを持ってきてはくれなかった。持ってきてくれたのは世界でも限られた場所だけである。

 それはダイヤが作られる場所が限られていたことと、この特殊な噴火が起きたのが数億年前の一時期だけと、ごく限られていたことが理由である。具体的には数億年以前にあった造山運動によってダイヤが作られ、数億年前に起きた噴火で地表に運ばれた。このためダイヤの分布は大陸奥地の古い地質条件が保たれている地域に限られる。

 世界にはこのようにダイヤが含まれるマグマが上がってきて冷えて固化したところが何カ所かある。南アフリカ、ロシア、アンゴラ、米国などである。

 この固化したマグマは垂直に近いパイプ状の形になった。ダイヤを探す「鉱業」が行われたところは、直径も深さも数百メートルから1キロを超えるほどの巨大な漏斗状の穴が開いている。人類の欲望の夢の跡である。

 ダイヤはこの固化したマグマにごく少量しか含まれていない。2トンの岩のなかに1カラット、つまり0.2グラムしか入っていないのが普通だ。このため、いかにダイヤとはいえ、取れる量があまりに少ないと経済的に引き合わなくなって鉱業としては放棄されてしまったところもある。

 米国南部アーカンソー州にあるダイヤモンド・クレーター州立公園も鉱業がなり立たなかったひとつだ。

 しかし、まだ見つかることもある。さる4月に同州に住む来園者が3.7カラットのダイヤを発見した。

 この場所は1906年に土地を所有していた農夫が初めてダイヤを発見したところだ。1972年に州立公園となり、15万平方メートルを超える採掘場が来園者に公開されている。これまでに75000個以上のダイヤが採掘されている。園内で見つかったダイヤは、今年に入って122個目になった。

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