島村英紀『夕刊フジ』 2015年8月7日(金曜)。5面。コラムその114 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

議論が分かれる巨大地震前の「静けさ」
「夕刊フジ」公式ホームページの題は「議論が分かれる巨大地震前の「静けさ」 「地震空白域」検証も」

「嵐の前の静けさ」が大地震の前にもあるものかどうか。これはいまだに解けない問題である。

 地震学者は古くから、この現象「地震空白域」の検証に取り組んできた。

 もっとも有名だったのが北海道・根室沖に起きた海溝型の地震だ。

 ここでは1952年に十勝沖地震(マグニチュード(M)8.2)が西隣に、そして1969年に色丹(しこたん)島沖地震(M7.8)が東隣に起きて、その間の根室沖が抜けていた。どれも海溝型地震である。

 たしかにこの場所には小さい地震がまわりより少なく「嵐の前の静けさ」を感じさせた。

 かつて根室沖には、1894年にM7.9と推定される海溝型の大地震が起きた。それから100年近くたち、地震エネルギーはかなり溜まっていても不思議ではなかった。

 このため、ここにまた大地震が起きるのではないか、と1970年代に入ってから言われはじめた。

 小さな地震さえも起きなくなっている領域、空白域の拡がりから、来るべき大地震の震源断層の大きさも推定された。それはM8クラスの巨大地震であった。

 震源断層が大きいほど、大きな地震が起きる。2011年の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)は岩手県沖から茨城県沖までの南北450キロメートル、東西150キロメートルにもおよぶ大きな震源断層だった。

 来るべき大地震がいつ起きるかは分からない。だが固唾を呑んで待っていた1973年、ついに、それらしき地震が起きた。根室半島沖地震だ。

 この地震で津波による浸水被害が300棟近く、負傷者は26人出た。Mは7.4だった。

 だがその後、この地震が予想されていた大地震ではなかったという説が強い。M7.4はM8地震のエネルギーの1/8でしかないからだ。

 空白域が来るべき大地震の場所と大きさを予知できるはずだという研究はその後も少なくない。大地震が近づくと、その空白域の中にぽつぽつ、地震が起き始めるという研究も近年にはある。

 ちょうど6年前の2009年8月、南海トラフ地震で警戒されている震源域の中で強い地震が起きた。震源は駿河湾内。最大震度は6弱に達した。Mは6.3。幸い大きな被害はなかったが、東名高速道路が4日間不通になって、道路だけで経済損失額は21億円になった。

 2011年にも静岡県東部で最大震度6強を記録したM6.4の地震があった。この地震は東北地方太平洋沖地震の4日後で、この地震による誘発地震ではないかと思われている。

 南海トラフ地震で予想される震源域は、この数十年間、地震活動がとくに低い。つまり空白域になっている。

 学問的には空白域がきたるべき大地震の先駆けになるのか、そして大地震が近づくと空白域の中で地震が起き始めるのかは決着が付いていない。そうではなかった例も多いからだ。

 しかし、いままでは地震がほとんどなかった静岡でぽつぽつ起きている地震は気味が悪い。


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