島村英紀『夕刊フジ』 2013年7月26日(金曜)。5面。コラムその12:「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

巨大地震は冬に起きる?
(新聞での題は「巨大地震が発生する季節に偏り」
新聞のweb版では「巨大地震が発生する季節に偏り 南海トラフは3〜7月に起きていない」)

 現代の地震学でも解けないナゾがまだ、たくさんある。そのひとつは、春夏秋冬、どの季節に大地震が起きるのか、ということだ。

 フィリピン海プレートが西南日本を載せている陸のプレートに向かって押してきている。このためマグニチュード(M)8クラスの巨大地震が繰り返してきている。南海トラフと駿河トラフ沿いの巨大地震である。いま恐れられている南海トラフ地震も、そのひとつだ。

 この一連の地震はいままでに13回知られている。いちばん最近のものが1944年に愛知県と三重県の沖で起きた東南海地震と、1946年に和歌山県から高知県の沖にかけて起きた南海地震である。

 しかし不思議なことに、これら一連の地震のうち、春から初夏には一回も起きていないのである。東南海地震は12月7日に、南海地震は12月21日、ともに冬の12月に起きた。

 具体的には、13回のうちの5回もが12月に起きた。あとのすべても8月から2月という、秋から冬までに起きているのである。もちろん、旧暦だった時代の地震の起きた月日は新暦に換算している。

 統計学という学問がある。地震学にも応用される。地震のように、毎年とか毎十年とかに決まって起きるわけではない現象では、データの確かさを数値的に表すことができる統計学が重要なのだ。「地震統計」という学問分野もある。

 この統計学の計算によれば、もし、何の理由もなく「偶然」に起きる事件だとしたら、この南海トラフ沿いの地震のようにかたよってしまう可能性はわずかに2パーセントだという。つまりこのかたよりは、統計学的に「偶然」とはほとんど考えられないのである。

 では、どんな理由があるのだろう。

 気温や水温の違いのせいだろうか。だが、地震断層は深海底の下にある。ここは深さが3000メートル以上の深海底で、水温は気温の影響をまったく受けない。一年中、摂氏約1℃で一定なのである。

 では、気圧はどうだろう。気圧は海水を通して海底まで影響するかもしれない。気圧はもちろん日々の変動はあるが、平均すると冬の方が10ヘクトパスカルほど夏よりも高い。

 しかし、たった10ヘクトパスカル、普通の気圧の100分の1というだけの違いでは、大地震が臨界状態にあったとしても「引き金を引く」にしてはあまりにも小さすぎる力しか出せないはずだ。気圧は日によってはそれ以上変動している。

 つまりこれは現代の科学でも手が出ないナゾなのである。

 さて、次の南海トラフ地震も、3月から7月までは起きないと安心していていいのだろうか。

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