島村英紀『夕刊フジ』 2015年10月16日(金曜)。5面。コラムその124 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

世界各地で繰り返される「地震弱者」の悲劇
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「世界各地で繰り返される「地震弱者」の悲劇 ひとごとではない日本

 7万人以上の死者を出したパキスタン地震(2005年)からちょうど10年。マグニチュードは(M)7.6。M9を超えることもある海溝型は別にして、直下型としては大地震だった。

 インド亜大陸が赤道を超えてユーラシア大陸に衝突し、まだ北上の勢いが止まらないので、この地震を起こした。

 この地震だけではない。昨年4月に起きて5000名以上の人命を奪ったネパール地震(M7.8)も、2008年に起きて7万名の犠牲者を生んだ中国の四川大地震(M7.9)も、そして2013年に起きたパキスタン地震(M7.7)も、どれもインド亜大陸の北上のせいだ。ネパールでは1934年にもM8.1、1988年にもM6.6の地震が起きて大被害を生んだ。

 つまり、ユーラシア大陸の南側に並ぶこれらの国々は大地震の常襲地帯なのである。

 私はイランで起きた地震の被災地に行ったことがある。

 息を呑む風景だった。「日干し煉瓦」を積んだだけの家は、土の山に帰ってしまっていた。

 「怪我人というのはあまりいないのです」と言った土地の人の暗い声を思い出す。家の中にいれば助かる見込みはほとんどない。たまたま屋外にいた人だけが助かっていた。イランもアラビアプレートのせいで地震がよく起きる国だ。

 地震の常襲地帯なのに大被害が繰り返されている理由がある。それは世界のどこでも庶民の家は、手元の材料を作って作るしかないからだ。

 木材も、もちろんコンクリートもない中近東や中央アジアの国々や中国南部では泥をこねて太陽で干しただけ、つまり焼き固めていない日干し煉瓦で家を造る。

 この日干し煉瓦は建築材料としては悪いものではない。熱を吸収してゆっくり放出するから家のなかは涼しい。暑くて乾いた気候には適しているのだ。

 だが地震の常襲地帯では話は別だ。地震にはとても弱いのである。

 1999年にトルコを襲って5万人もの命を奪った地震の後に人々が建てていた家を見て、私は背筋が寒くなった。地震の前と同じ造りの家を建てていたからである。こうして地震の大きな被害が繰り返されてきている。

 自然災害だからと諦める前に人智を尽すことが災害をくい止めるためにとるべき道のはずだ。だが、庶民は手許にある安い材料で家を造る。こうして自然災害は繰り返される。

 現代の地震は「地震弱者」を選択的に襲うのである。

 日本でも他人事ではない。阪神淡路大震災(1995年)で倒壊してしまった家は1971年以前に建ったものが圧倒的に多かった。つまり建築基準法が強化された以前に建てられた古い家が選択的にやられたのだ。

 古い家に住み続けざるを得ない庶民が集中的に被害に遭うという構図はこれからも日本でも繰り返されるのにちがいない。

(写真は島村英紀がイランで撮影。なお、このほかのイランの地震被害の写真はこちらに)

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