人工衛星がこれほど発達した現在でも、海底電線は国際間の通信の主役である。世界各国を結んで世界中の海に張り巡らされている。
この海底電線はほとんどの場合、ハダカで海底に這わせている。沿岸や浅い海では海底に溝を掘ってその中に埋めてあるが、費用も手間もかかるので、ごく一部にとどまっている。
それゆえ、海底電線は切断の被害に遭いやすい。一番多い切断の理由は漁業。底引き網やトロール漁法による被害だ。
じつは、そのほかに海底で地震が起きたときに海底電線が切断されてしまうことが知られている。
最初に地震被害が確認されたのは1929年だった。グランドバンクス地震。マグニチュード(M)は7.2。それほど大きな地震ではなかった。
だが、この地震がカナダの大西洋岸のすぐ沖で起きたときに、カナダの大陸斜面にあった12本の海底電線が、上から順番に、次々に切れていったのである。28ヶ所も切断された。
いちばん上の海底電線から一番下までは1100キロメートルも離れていた。東京から稚内の距離よりも長い。13時間もかかって順番に海底電線が切れていったのだ。
切れた時刻が記録されていたから、海底電線を切っていったものが走り抜けた速さが分かった。速度は最大で時速100キロメートルを超えていた。
その走り抜けていったものは「海底地滑り」。地震によって引き金を引かれた地滑りが1100キロメートルを超える距離、水深は5000メートルを越える深さのところまで走ったのである。
このときに海底で起きた地滑りは広さが2万平方キロメートル、体積は200立方キロメートルという途方もない量だった。2万平方キロメートルとは東京都の10倍にもなる面積だ。
以前、2008年に起きた岩手・宮城内陸地震の地滑りについて書いた。国内では最大規模だったそのときの地滑りは約1平方キロメートル。1929年に起きた海底地滑りは2万倍も大きかったのだ。
このように、海底地滑りはとてつもなく大きなものが起きる。1929年の地震に限らず、1980年に米国カリフォルニア州沖であったM7.0の地震のときなど、世界各地で起きた。
海底面の斜度はそれほどではなくても、海底地滑りが起きて、しかも遠くまで流れる。カリフォルニア州沖では海底の勾配が0.25度だった。米国東部のミシシッピ河デルタではわずか100分の1度の勾配のところでも海底地滑りが起きたことが分かっている。
海底地滑りは海底面が水を含んでいるために陸上よりも発生しやすく、またいったん滑ると規模が大きくなる。そしてM5やM6の地震で発生することもある。海底電線には敵が多いのである。
なお、海底地滑りは津波も起こす。世界各地で、地震が直接発生させるよりも大きな津波が起きたことがある。
日本でも2009年に駿河湾で起きた地震(M6.5)のときは、地震断層が起こしたより倍以上も高い津波が来た。これは海底地滑りが津波を起こしたものだった。
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