島村英紀『夕刊フジ』 2016年1月15日(金曜)。5面。コラムその135 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

核実験が地震観測にもたらした変化
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「核実験を検知する米国主導型の世界観測網の地震計 気象庁の看板施設は…」

 先週、北朝鮮が4度目の核実験を行った。この核爆発の振動は世界各地の地震計で捉えられた。

 日本の報道では「気象庁が午前10時半ごろ検知した。発生時刻は午前10時29分57秒、震源の位置は北緯41.3度、東経129.1度の北朝鮮北東部」とされている。

 しかしこの報道は間違いだ。気象庁の地震計の能力では、900キロも離れた「地震」の場所や発生時刻をこんな正確に決められるはずはないからである。

 正しくは「気象庁もデータをもらっている米国主導型の世界観測網の地震計の観測によれば」というべきなのだ。

 この世界観測網は米国地質調査所と米国の非営利法人IRIS(アイリス)が運営しているもので、世界各地に150地点ほど地震計が置かれて、世界中にリアルタイムで記録を配信している。日本にも2ヶ所の地震観測点がある。なおIRISは全米科学財団が支援して1984年に創設され、世界の100以上の大学が参加している。

 もともとこの世界観測網は各国、とくに社会主義国が秘密裏に行っていた地下核爆発実験を検知するためのものだった。だが、インドやパキスタンや今回の北朝鮮のように、核爆発実験が秘密のものではなく国家の権威を誇示するものに変わってしまった現在は、純粋に学問的なものに変わった。

 世界観測網のうち、今回の核爆発が行われた実験場にいちばん近いのは中国東北部の黒竜江省牡丹江の市街地の北2キロのところに設置されていた地震計だった。約370キロほど北に離れている。

 この牡丹江の地震計の記録では今回の核爆発はマグニチュード(M)5.1相当。過去に行われた核実験と極めて似た記録だった(右の図)。

 爆発の規模は過去3回のうち、前回の2013年2月のものとほぼ同じM5.1だった。その前の2009年5月のときはM4.7だった。今回のは2006年10月の最初の核実験のM4.1よりは30倍ほど爆発エネルギーが大きかった。

 ところで世界観測網の日本にある2ヶ所の1ヶ所は大学のもの、1ヶ所は気象庁の松代(まつしろ)観測所にあるものだ。

 気象庁のものは1983年に作られた「群列地震観測網」を改修したものだ。長野県松代を中心に10キロの範囲に9つの地震計が設置され、データを松代観測所に集めて処理する。群列地震観測網にすることによって感度を高めたり、地震波の進入方向を知ることができる。しかし北朝鮮のように遠い地震では、起きたことは記録されるものの、場所や発生時刻を正確に知ることはできない。進入方向も角度にして数度以上ちがうことがよくある。

 気象庁の主力地震観測所である松代の看板施設で、元来は純粋に科学的な目的のものだった。

 この地震観測網に北朝鮮の核爆発監視のための予算がつき、2007年に4億円をかけて改修した。だが、その後故障続きで、今回も故障していて記録が取れなかった。

 じつは前回の2013年のときにも事前の雷で故障して記録が取れていない。純粋な科学目的でなくなって以来、肝心なときにたびたびの不運に見舞われているのである。

(図は牡丹江での地震記録。過去4回の核実験が、大きさこそ違え、とてもよく似ているのが分かる。IRISのホームページから。なお最初の2006年の核爆発の規模は、IRISのホームページの別のところでは4.1とある。ちなみにmbは実体波マグニチュードのことだ。)

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