島村英紀『夕刊フジ』 2016年4月8日(金曜)。5面。コラムその146 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

過疎地域を襲う直下型地震
『夕刊フジ』の公式ホームページの題は「過疎地域を襲う直下型地震 地震が人口減少を加速」

 前回は都会での地震被害、ビルから降る「ガラスの雨」の話だった。

 しかし、地震は都会だけを襲うのではない。日本に多い過疎地域を襲う地震は、別の大きな問題を生じる。

 能登半島地震。9年前の2007年3月末に起きたマグニチュード(M)6.9の地震だった。

 石川県の面積の半分は能登半島だが、半島部分に住む人口は県全体の11%しかない。被害の多かった2市2町の高齢者率は41%を超えていた。典型的な高齢化した過疎地を襲った地震だった。

 最大震度は「7に限りなく近い6強」だった。というのは、震度は震度計で観測した「計測震度」というものを四捨五入して、小数点以下を捨てて決める。

 この地震では石川県輪島市門前町に設置してあった震度計の指示は6.4だった。もしこれが6.5だったら、四捨五入で震度7といういちばん強い震度になるところだったからである。

 被害は1人が死亡、負傷者は全体で338人というものだったが、過疎地にとっては大被害だった。住宅は約2400棟が全半壊した。

 震度や損壊住宅の数に比べて死者数が少なかったのは、都会と違って隣近所のつきあいがよくて、ふだんから近所の助け合いがあったためだった。何時頃、どの家には誰が、どこにいるのか、お互いが知っていることは、一刻を争う人命救助にはなによりも必要だからである。

 地震が起きたときにいちばん問題だったのは要援護者の避難や支援だった。

 自分では歩けない、あるいは歩けても健常者のように敏速には行動できない人たちは、地震で逃げ遅れる可能性が高い。

 だが、地震の後に、さらに大きな問題が生じた。健常者なら必要がない「福祉避難所」を設置しなければならなかったのである。

 そのうえ、応急仮設住宅も、要援護者の入居が想定されていなかったため、さまざまな問題を生じた。

 2004年に起きた新潟県中越地震(M6.8)では地震による直接の死者は16名だったのに、地震後の避難生活で亡くなった人は50人を超え、はるかに多かった。「地震後」の問題は大きいのだ。

 能登半島地震の被災地では人口が目に見えて減っている。

 この地震だけではない。2011年3月に起きた長野県北部地震(M6.7)で被害が集中した長野県下水内郡栄村も同じ問題に直面している。

 新潟県中越地震で大被害を受けた山古志村(現新潟県長岡市)でも人口は減少している。しかも流出した人たちは子育て世代以下の年齢層に多く、それが過疎化に拍車をかけている。

 地震の前に、すでに過疎だったり限界集落だったりしたところでは、地震が人口減少を加速してしまった。地震がトドメをさしてしまうことにもなりかねない。

 過疎地を襲う内陸直下型地震。日本のどこにでも起きる可能性があるのだ。

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