島村英紀『夕刊フジ』 2016年4月22日(金曜)。4面。コラムその148 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

行政の判断があいまいな「震災関連死」
『夕刊フジ』の公式ホームページでの題は「行政の判断があいまいな”震災関連死” 災害弔慰金に影響」

 ある地震で何人の死者が出たかという数字がある。だが、この数字は警察庁発表と実際の死者数が違う。それは「震災関連死」というものがあり、警察庁の統計ではこの数字は入っていないからである。

 2004年に起きた新潟県中越地震(マグニチュード(M)6.8)では地震による直接の死者は16名だったのに、地震後の避難生活で亡くなった人は50人を超え、はるかに多かった。「震災関連死」である。今回の熊本の地震でも出始めている。

 震災関連死とは、長引く避難生活での体調悪化や過労など間接的な原因で死亡することだ。病院が機能停止してしまったための持病の悪化、ストレスによる死亡、将来に絶望した自殺などもある。

 震災関連死だと認められれば、生計維持者は500万円、それ以外は250万円の災害弔慰金が、国から市町村を通じて遺族に支給される。

 震災関連死は、亡くなった人の遺族などが、市町村に申請し、自治体が認めるかどうかの判断を行う仕組みだ。

 このために、各市町村では、医師や弁護士などを入れた審査委員会を設けている。死亡診断書などを基に、震災との因果関係、持病の有無、治療環境などを総合的に判断することになっているのだ。

 しかし、震災関連死の認定には、法律上のはっきりした定義がない。統一的な基準もない。

 このために、認定されるかどうかに不平等が生まれている。もし認定されなければ、最大500万円も貰えなくなってしまうことになる。

 このため裁判で「認定」を勝ち取った例もある。

 じつは『震災関連死』にカウントされていない人が多い。

 岩手県・陸前高田市は17メートルを超える大津波に襲われて死者1602人、行方不明者205人という大被害をこうむった。人口2万4000人の8パーセント近くが犠牲になった。

 この陸前高田で、夫に先立たれたショックもあって震災から1年半後に病死した人も、津波で家を失い、避難所暮らしで持病が悪化して千葉県に住む娘家族を頼ったが亡くなった人も、震災関連死には入らなかった。

 この「認定」に大きく影響しているのは、国が参考例として被災地に紹介している新潟中越地震の後で長岡市がつくった「長岡基準」だ。

 この基準では、「震災後1カ月以上経過した場合は震災関連死の可能性が低い」とか、「死亡まで6カ月以上経過した場合は震災関連死ではないと推定する」などとある。
 このため、避難生活が長期にわたる東日本大震災では当てはまらないことが多くなってしまっているのだ。

 そのほか、この認定のための審査が長期化していることの問題もある。

 申請期限の締め切りがないのは救いだが、認定率は2012年末までの81%が、2014年は64%と2割近くも下がってしまっている。

 震災は、生き残った人々にも不幸をもたらした。それは今も続いているのだ。

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