島村英紀『夕刊フジ』 2016年4月29日(金曜)。5面。コラムその149 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

熊本でも起きていた「誘発地震」
「夕刊フジ」の公式ホームページの題は「熊本でも起きていた誘発地震 現在の地震学では判断不能」

 「誘発地震」というものがある。今回の熊本で始まった地震が阿蘇山の下や大分や熊本県南西部に広がっていったのも誘発地震だと考えられる。

 大地震を起こした地震断層はある拡がりを持っているが、その範囲の中で起きるのが「余震」だ。これに対して離れた場所で起きる地震が誘発地震である。

 5年前に起きた東北地方太平洋沖地震(東日本大震災。マグニチュード(M)は9.0)は余震だけではなくて、何百キロも離れた日本の内陸各地に誘発地震を起こした。

 翌日の朝に起きた長野・新潟県境にある栄村の地震(M6.7)や、富士山直下で起きた地震(M6.4)だ。これらは直下型地震としてはかなりの地震で、どちらも地元で震度6強を記録した。死者3、住宅の全半壊が約200に達した栄村の被害はとくに大きかった。

 これらの地震は、すでに知られている活断層で起きた地震ではない。今回の熊本で始まった地震群でも、地震が起きてはじめて活断層が分かった例がある。日本にはまだ知られていない活断層が何千もあるのだ。

 ところで、明らかに分かっていた活断層で起きた誘発地震があった。

 東日本大震災のちょうど1ヶ月あとにこの活断層が誘発地震を起こした。Mは7.0で死者4人を生んだほか、住宅の被害も出た。

 この活断層は「井戸沢断層」。長さ24キロほどの活断層だ。福島県・いわき市街地の西方にある。日本史上では地震は知られていなかったが、地質学的な調査から、大昔に地震を起こしたことが分かっていた。

 近々、地震を起こすとは思われていなかった活断層だった。しかし、地震が起きてしまったのだ。

 地震が起きたときに、この活断層では、高低差2メートルもある断層の崖がいきなり出現した。その長さは14キロにも達した。

 しかも、内陸直下型地震としては珍しい「正断層」だった。正断層とは、断層面をはさんで上側が滑り落ちる形の断層運動を起こすものだ。

 この断層が道路を横切ったところでは、もちろん車が通れなくなった。幸い断層の上に家は建っていなかったが、もしあったら、大被害を受けたろう。

 ちなみに熊本で起きで震度7を記録した二つの大地震は「横ずれ断層」で、断層運動としては直下型地震ではよくあるタイプだった。

 この井戸沢断層が、天然記念物に指定されて保存されることになった。正断層が珍しいものだったし、高低差2メートルもの崖が続いているというので、指定されたものだ。

 地震は離れた場所に「飛び火」して誘発地震を起こすことがある。活断層があるとされていなかった場所でも栄村や富士山直下で起きたような地震が起きるし、活断層があると分かっていた井戸沢断層でも、誘発地震が起きた。

 残念ながら、現在の地震学の知識では、どこに、どんな誘発地震が起きるかは、まったくお手上げの問題なのである。

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