島村英紀『夕刊フジ』 2016年6月3日(金曜)5面。コラムその153「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

すべてを飲み込む「泥火山」の恐怖
『夕刊フジ』の公式ホームページの題は「すべてをのみ込む「泥火山」の恐怖 マグマ活動とは直接の関係なし」

 インドネシアで十年間も続いている災害がある。終わりはまだ見えない。

 ジャワ島のシドアルジョという「泥火山」。ちょうど10年前の2006年5月から途方もない量の泥を噴き出しはじめた。

 そして、いまも衰える兆候もなく、毎日3〜6万立方メートルという大量の泥を噴出し続けている。この量は、オリンピック競技用のプール約20個分に相当する。

 いままでに吐き出された泥で、サッカー場650個分もの広大な地面が、深さ40メートルの泥に沈んでしまった。

 近傍の家は埋まり、村は放棄された。10年前の最初の爆発では、突然だったこともあり十数人が死亡した。このほか多数の村、農地、工場、商店や幹線道路が破壊されて、約4万人が避難した。

 その後も泥の噴出が続いて、地元の人たちは、家も収入も失って途方に暮れている。

 泥火山とは、泥と一緒に、地下からガスや水が噴出することによって噴出孔のまわりにできる泥の丘のことだ。

 丘の頂上に火口状の穴があり、穴からは泥が火山の溶岩流のように流出している形が火山に似ているので泥火山と言われる。だが、マグマ活動とは直接の関係がないし、温度も1000℃前後あるマグマよりもずっと低い。

 インドネシアのこの泥火山は世界最大の規模のものだが、もっと小さいものは世界中で見つかっている。

 火山の噴気地帯や温泉地帯など、高温の水蒸気の噴出孔に泥火山ができる。また油田や天然ガス田などでガスが噴出しているところに泥火山があることが多い。

 日本では秋田県・後生掛(ごしょうがけ)温泉の泥火山や北海道・新冠(にいかっぷ)や北海道・阿寒(あかん)のボッケ温泉のものが知られている、しかしこのインドネシアのものに比べるとはるかに小規模なものだ、。

 ところで、この大規模なインドネシアの泥火山がなぜ出来て、なぜ、泥の噴出が続いているのかは、じつはナゾなのだ。

 いちばん疑われているのは、泥火山の噴出口から150メートルしか離れていない天然ガス田での作業である。

 しかし、ガス田側はこれを否定した。泥火山が噴火した2日前にジャワ島中部で発生したマグニチュード(M)6.3の地震を原因としたのだ。だが、震源からここまでは約260キロも離れている。日本の震度でいえば、1か、せいぜい2だ。

 地震の揺れがあまりに小さいだけではなく、この説は分が悪い。科学者によると、噴火発生の初期に測定された地下ガス濃度の分析結果は、泥の噴出を誘発した原因が天然ガスの掘削調査であることを示している。

 噴出を止めるために、巨大なセメントの球を詰める対策が行われたが、成功しなかった。

 まだ、噴出を止める努力は実っていない。この災害はいつ、終わるのだろう。

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