島村英紀『夕刊フジ』 2016年8月5日(金曜)5面。コラムその162「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

地球に宇宙線が降り注ぐ日
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「地球に宇宙線が降り注ぐ日 地磁気の強さはどんどん弱くなっている」

 ようやく首都圏の梅雨が明けた。そこで、暑い夏の怪談をひとつ。

 地球の中心には、月の倍ほどの大きさの溶けた金属の球がある。その温度は4000℃を超える。ほとんどが鉄で、ニッケルや珪素も含まれている。

 この溶けた金属の球の中には強い電流が流れている。このため電磁石としても働いている。

 それゆえ地球全体として巨大な磁石になっていて、地球の周りに磁場を作っている。オリエンテーリングや山歩きで磁気コンパスが使えたり、オーロラの美しさを楽しめるのも、溶けた金属の球が作っている電磁石のおかげである。

 だが、それだけではない、この磁場は宇宙空間から飛び込んでくる放射能を持つさまざまな宇宙線をさえぎるバリアを作っている。宇宙線は生物にさまざまな悪影響を与え、DNAを破壊する。

 磁場によるバリアの外側に行った人類は、強い宇宙線に曝(さら)される。

 かつて月に行った米国のアポロ計画に参加した宇宙飛行士が、心臓や血管の病気での死亡率が高いという研究結果が先週、発表された。

 これは、地球の磁気圏が保護してくれる領域を越えて、たとえ短時間でも、その外側に行ったために違いない。アポロ計画では1968-1972年に11回の有人宇宙飛行が行われた。

 調査はとても慎重に行われた。「訓練を受けたが地球を離れなかった宇宙飛行士」や、「国際宇宙ステーション(ISS)の乗組員のように低周回軌道内の、地球の近くにとどまった宇宙飛行士」と厳正に比較して4-5倍も高い死亡率だという。

 一般人との比較はしなかった。それは宇宙飛行士は高い教育水準と健康志向、さらに生涯にわたって利用できる医療ケアがあるからだ。それでもバリアの外側で宇宙線にさらされた乗組員は宇宙飛行士のなかでも、死亡率が高かったのだ。

 ISSは「宇宙」といっても、高度400キロほど。地球の半径のわずか16分の1にしかすぎない。つまり地球をかすめて、バリアの内側でだけ飛んでいるのである。ちなみに月までの距離は地球の半径の60倍ある。

 ところで、その地球の磁場が、近年、どんどん弱くなっていて、いずれゼロになることを私たち地球物理学者は知っている。

 もし、地球の磁場がなくなれば、アポロ計画に従事した宇宙飛行士だけではなく、全人類や、ほかの生物も大量の宇宙線を浴びることになるのだ。

 じつは地球の歴史では、このように磁場がゼロになり、その後地球の磁場が南北逆転したことが何十遍もあることが分かっている。いちばん最近には77万年前に起きた。

 溶けた金属の球の中で閉じられた電流が作っている電磁石が、なぜ、ときどき弱くなって逆転するのかは学問的にはいまだ解けていないナゾだ。

 だが、地磁気の逆転は起きる。測定が精度よくできるようになった19世紀以降、地磁気の強さはどんどん弱くなっている。そればかりではなく、近年は加速までして、ゼロに近づいているように見える。

 もしかしたらあと1000年あまりで、この「事件」が起きる起きるかもしれないのだ。

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