島村英紀『夕刊フジ』 2016年9月9日(金曜)5面。コラムその166「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

日食が指し示す残酷な未来
「夕刊フジ」公式ホームページの題は「地球物理学者は残酷な未来を知っている 地表温度は摂氏100度、海は沸き立つ…」

 日本人で知っている人はほとんどいないが、先週、太陽がリング状に輝く金環食があった。インド洋西部に浮かぶフランスの海外県レユニオン島のほか、中央・南アフリカ地域でのことだ。

 ちなみに、アフリカの金環食と日本の水害は、関係がないわけではない。先週日本を襲った台風で高潮が警告されていたのは、月と太陽が地球から見て同じところにあるために、その双方の引力で大潮が起きるからだった。

 金環食は、日本では2012年5月21日にあったのを憶えている人も多いだろう。

 当日の天気予報は悪かったが、首都圏でも辛うじて見えた。このときの金環食は日本列島の南側、九州南部、四国南部、近畿南部、中部南部、関東で見えた。東京で5分間、京都では1分間のショーだった。東京では173年ぶり、江戸時代以来の金環食だった。日本のほかの地域では部分日食だった。

 日本では、2012年のその日だけのために「日食グラス」が300万個も売れたという。

 日本で次に金環食が見られるのは2030年6月1日で、それも北海道の一部だけである。

 日食には二つの種類がある。太陽が全部隠れてしまう「皆既(かいき)日食」と太陽がリング状に輝く「金環食」だ。

 日食が皆既日食だったり金環食だったりするのは、月が地球のまわりを公転しているのが楕円軌道なので、地球からの距離が微妙に揺れ動いているからだ。月が地球から遠ければ月は太陽よりもわずかに小さくなって金環食、近ければ皆既日食になる。

 月の大きさは太陽の約400分の1、そして、地球から月までの距離も、太陽までのちょうど400分の1になっている。400という数が一致している理由は分かっていない。まったくの偶然の産物だと思われている。

 じつは、月はもともとずっと地球に近かった。

 いまから45億年前、地球が生まれてまもなくには、月はずっと近くて大きさはいまの1.5倍もあった。

 月は毎年約3センチずつ地球から遠ざかっている。それゆえ月までの距離が太陽までのちょうど400分の1になっているのは、いまだけなのだ。人類はたまたま、この時期に地球上に生きているわけなのである。

 月がしだいに遠ざかっているために、日食はやがて金環食だけになり、それも、輝くリングの幅がどんどん大きくなっていって、いまよりも、眩しい金環食になることは間違いがない。

 いや、ただ眩しいだけではない。太陽の輝きは1億年ごとに1パーセントずつ光度が増えていっているのだ。太陽はますます明るく、大きくなっている。

 だから10億年もしないうちに、地表の温度は摂氏100度にもなってしまう。これは地球科学の冷徹な計算結果なのだ。海は沸き立ち、私たち地球上に生物が住む環境は失われる。

 地球物理学者は残酷な未来を知っているのである。


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