島村英紀『夕刊フジ』 2016年11月25日(金曜)5面。コラムその175「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

スーパームーン 地震の引き金か
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「68年ぶりの「超スーパームーン」、地震の引き金か」

 11月14日は68年ぶりの「超スーパームーン」だった。ただし、スーパームーンとは天文学用語ではなく、近年になって言われはじめた占星術の用語だ。

 月が地球の周りをまわっている軌道は円ではなく楕円だ。このため月と地球の距離は一定ではない。約35万7000キロから40万6000キロまで変化する。このため、月が地球に近くなって14%大きく、30%明るくなったのが今回のスーパームーンだった。

 ところで、スーパームーンが占星術の用語として登場するようになって、同じく占星術の用語である惑星直列とともに、地震など災禍が訪れるという俗説がある。

 じつは地震学の初期のころから、月や太陽の引力が地震を起こすのではないかという学説が根強くある。一方、それを否定する説も強かった。

 月や太陽の引力は、潮の干満、つまり海面潮汐(ちょうせき)を起こす。そして、そのほかにも地球の固体部分である岩全体を30センチも持ち上げる「地球潮汐」を毎日起こしている。

 東日本大震災の震源近くでは、解析した1976年以降の約25年間では地球潮汐と各地震の発生タイミングに相関関係はなかった。だが2000年頃から相関関係が強く見られるようになり、2011年の東日本大震災の発生直前には密接な関係があったという研究が2012年に発表されている。だが、疑っている学者もいる。

 そしてこの10月には、新たな研究も発表された。それによれば、マグニチュード(M)8.2以上の世界の巨大地震12のうち9つは、地球潮汐が最大となる大潮の日だった。この9つの地震にはスマトラ沖地震(2004年、M9.1)や東日本大震災(M9.0)も含まれる。

 「大潮」のときは地球と月と太陽が一直線に並ぶ。太陽と月の引力が足し合わされる満月や新月がこれにあたる。スーパームーンもこれに含まれる。

 この研究では過去20年間に起きたM5.5以上の地震1万個以上のデータを調べた。その結果、小さめの地震では地球潮汐との関係はなく、M7を超えると地震の一部に地球潮汐との関係が見られるようになった。

 さて、この研究は本当だろうか。

 だが、強い反論がある。それは統計的有意性を証明するには、12個や9個ではまだ足りないというものだ。つまり数が少なすぎて、偶然だったり、ほかの作用だったりすることを排除できないはずだ、というものである。

 そのうえ、地球上のどこに起きる地震かは分からない。これでは地震予知するには役立たない。

 地球潮汐は地下数十キロにも影響し、断層には数十〜数百ヘクトパスカルの力が加わる。だが、地震を引き起こすひずみは、これよりも千倍も大きい。

 しかし、地下に地震を起こすだけのエネルギーが溜まっているときには、この僅かな力が引き金を引いてしまうことはあり得ることなのだ。

 さる13日に起きたニュージーランドのM7.8の地震も、もしかして、その結果として起きたのかもしれない。

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